コロナウイルス感染が広がるなかで、報道は連日この話題で埋め尽くされている。事態は深刻化し、他の経済ネタはほとんどかき消される。そんななかの3月中旬、公正取引委員会がいわゆる「グルメサイト」に対して牽制球を投げた。折も折の自粛拡大でその効果は怪しいが、サイトの威力と口コミの伝播力について考えさせられた。


 楽天との間でひと勝負終えた公取委が、その翌週に満を持して公表したのがグルメサイトの実態調査。「飲食店ポータルサイトに関する取引実態調査報告書」(以下、報告書)と題され、昨年4月から1年をかけた力作である。「ぐるなび」「食べログ」などのグルメサイト17社、1万3000の飲食店、1万人の消費者(委託調査)に加え、サイトや飲食店など46人にヒアリングした。



 公取委は近年、GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)などのデジタル・プラットフォーマーに対する世界的な監視ムードを受けて、国内の主要ポータルサイトに厳しい視線を注ぐようになっている。昨年10月に国内のオンラインモール運営事業の取引慣行について実態調査をしたが、楽天の「送料無料化」に対する勧告は、その延長線上にあった。そして今回。多くの業者がその集客力に依存している飲食業ポータルサイトに焦点を当てた。


 報告書は、消費者が大手のグルメサイトで飲食店を予約する場合、サイト運営業者がその検索結果の表示(検索の掲載順や評価点数)を恣意的に操作している疑いがあり、独占禁止法違反に抵触することを指摘した。背景には、検索結果をよりよくすれば集約力が上がり業績向上する、とのサイト運営業者の営業活動があると述べている。より高価な掲載の仕掛けをすればサイト上で消費者に選ばれる店になれると謳い、高額の掲載料を勧めているのではないかというのだ。


 グルメサイトは飲食店向けのウェブ広告媒体との見方もできるから、掲載プラン料金が検索順位に与えることは否定できないものの、影響力の大きい予約サイトから集客向上のためにより高い料金プランの契約を勧められると断り切れない、とのケースがある。公取委はこれを「優先的地位乱用の恐れがある」と判断した。予約サイトのアルゴリズム(店舗の評価体系システム)は、企業秘密でブラックボックスだ。それだけに、サイトに頼る多くの飲食店は疑心暗鬼になり、掲載コストを受け入れてしまいがちとの声もある。


 グルメサイトは現在、価格コムの運営で知られるカカクコムグループの「食べログ」が独走状態にあり、老舗の「ぐるなび」、後発でリクルート系列の「ホッペーパーグルメ」の3社が市場を牽引している。



 グルメサイトの掲載料は文字通りピンキリで、1万円から数十万円まであるという。予約が成立すると、店側はサイトに「送客手数料」の名目で1件につき支払う。食べログの場合、送客手数料はランチ100円、ディナー200円など。手数料の月極めコースもあるが、ランチが1000円とすれば、その1割が広告費。決して安くない。


グーグル地図など強力ライバルが台頭


 ところが最近、グーグルマップによる外食店紹介やSNSの口コミによる店探しを使って予約をする人が増加し、既存のグルメサイトの脅威になっている。これで同じ効果が見込めれば掲載料は要らず、飲食店サイドは販売管理費を大幅に削減できる。公取委もこの動きに注目し、報告書の最後にクギを刺している。


「一般的な検索エンジンを提供している事業者が飲食店ポータルサイトの競争者と評価できる場合においては,本調査における全ての検討及び考え方を、このような事業者に適用する余地はあり得るといえる」


 グーグルなど検索エンジン市場の「勝者」がグルメサイトと競合するサービスを展開する場合、自社のサービスを有利にするためグルメサイトを排除しかねない。そのときは競争を実質的に制限する独禁法違反となるおそれがある、とグーグルなどの検索エンジンにも警告を与えているのだ。


 予約サイト市場は飲食に限らない。旅行、チケット、ゴルフなど、比較検討しオンライン予約するマーケットは、スポーツ・レジャーを中心にした有力市場だ。ネット予約がなければ、商売が立ち行かないほど、それぞれの分野では事業を継続していくために必要不可欠な販売促進ツールになっている。それだけに、公取委はグルメサイトへの調査で得た実態把握のノウハウを今後、各種の予約サイトに広げる可能性が高い。そうした活動が、消費者の利益に結び付けば嬉しい。ゴルフは、より安くプレーしたい。


****************************************************

平木恭一(ひらき・きょういち)

明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 金融業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム社)、『図解入門業界研究 小売業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(同)など。

https://www.k-hiraki.com/