4月6日時点――緊急事態宣言はまだ出されていない


 中国湖北省武漢市から2019年12月から始まった新型コロナウイルスによる感染は、日本にも大きな影響を与え続けている。ここでは、この原稿の執筆時点を明確にしながら、大阪府を軸に関西から国と地方がどのような対応をとってきたかを、その対比をみながらレポートしていく。


 今回は2回目、執筆時点は4月6日である。7日以降の段階で国による緊急事態宣言が出されている可能性は高い。つまり、この原稿の執筆時点は、原稿掲載時点とは状況がやや異なる。そのことを念頭におきながら報告を進めていくことを了解してほしい。


 ●新型コロナウイルス感染者数(2020年4月5日現在)※国内はクルーズ船含まず

                          ※海外は4月4日付WHO発表

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       国内                  国外

感染者数 4,578人 死亡者数104人    感染者数1,048,003人 死亡者数56,905人

    (回復者数575人)            (回復者数245,019人)

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 ●新型コロナウイルス感染者数(2020年3月21日現在)※国内はクルーズ船含まず

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       国内                  国外

感染者数 1,007人 死亡者数 35人   感染者数232,411人  死亡者数9,800人

    (回復者数227人)            (回復者数87,450人)

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 このレポートでは、意図したわけではないが、2回目の報告が前回からほぼ2週間を過ぎた時点である。その2週間での感染者数等の推移をみると、国内では感染者数は4倍以上になり、死者数も3倍。国外では感染者数は5倍近く、死者数は5倍以上となっている。数字上だけでみると、日本は感染者の増加スピードは海外と同程度だが、死者数の増え方が違うことがわかる。海外ではこの間、米国での感染が急速に拡大したことも大きな要因になるが、データからみるだけでも「医療崩壊」が進んだか進んでないかの落差を目の当たりにしているといえる。その分、国内での医療崩壊への危機感がいや増すのは当然のことかもしれない。


●徐々に具体化する対策・戦略


 国内では首都圏の増加ぶりが際立つ。4月5日日曜日の東京都の1日感染者数は143人と発表された。埼玉県(25人)、神奈川県(27人)、千葉県(25人)を加えれば200人超だ。一方、このレポートの主舞台である大阪を中心とした関西をみると、大阪府の4月5日1日感染者数は21人。大阪以外の1府4県(京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)は26人で、首都圏のほぼ5分の1にとどまっている。東京都の人口は約1400万人、大阪府は880万人で、人口比を塩梅しても東京の感染者数の増加は全国への不安を増幅させる。首都圏を標的にした緊急事態宣言への要求が高まるのは当然である。


 大阪府も吉村洋文知事は緊急事態宣言を早急に出すよう国に要望している。国内での2番目の経済都市として、危機感が高まっているのは同じだ。


 前回、このレポートでは、3月19日時点での大阪府のトリアージ戦略を報告した。4つのライブハウスでのクラスター感染が、当時の大阪府の危機感を強めたことは間違いないが、実は吉村知事は特措法成立前後から、「大阪ではトリアージを重視する」方針を、機会あるたびに発言してきた。端的に言えば、新型感染症の陽性者を無症状、軽症、重症に分けて対応していくもので、当然のことだが最終的な目的を重症者の医療確保に置いている。具体的に策定されたのは、入院可能な空き病床を把握し、広域的に入院調整する「フォローアップセンター」の設置。


 同時に、大阪府はこの時点で、学校の再開、ライブハウスの再開解禁など、府民の活動制限は緩和する方向を明確にしていた。しかし、3月19日夕に至って、フォローアップセンター以外の大阪府の基本方針は転換を余儀なくされる。


 吉村知事が突如、「3連休(20~22日)は大阪・兵庫間の往来は不要不急のものは避けてほしい」という自粛要請を発表したのだ。さすがにこのアナウンスは、全国ニュースでもトップで報じられた。その理由は翌日明らかにされた。そして、その転換は18日にもたらされたとされる厚生労働省からの「提案」であった。当時、厚労省が吉村知事を説得したとされる政府専門家会議のシミュレーション資料を、知事は重視し、3連休の往来自粛要請につながった。現在の、首都圏と近畿圏の感染者数推移の落差は、この3連休の対応の違いが表面化しているとの専門家の見立ては大きく、知事の19日の判断変更は大阪では英断だったとの評価が高い。


●店名公表補償インセンティブ制度も


 府は国内幹線の拡大に伴って、19日以降、徐々に府独自の戦略を具体化させている。現状をフェーズ1と規定し以下のような対策をまとめている。


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フェーズ1 現状 1日当たり感染者数40人程度

   (確保病床)600床(重症者対応30床)

    ・非稼働病床の活用開始  ・外出自粛  ・休校、休業養成  

フェーズ2 危険水域 1日当たり感染者数67人程度

   (確保病床)1000床(重症者対応50床)

    ・廃止病棟の活用開始  ・緊急事態宣言出れば各種対応

フェーズ3 オーバーシュート初期 1日当たり感染者数1000人程度

   (確保病床)3000床(重症者対応300床)

    ・検査は要入院の肺炎患者を優先  ・専用ICUの拡大等  

フェーズ4 オーバーシュートピーク時 1日当たり感染者数数万人

   (確保病床)1万5000床(重症者対応500床)

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 こうした戦略を具体化させる一方、軽症者や無症状感染者を収容する宿泊施設の確保にも乗り出し、約600室のホテルを三木谷浩氏(楽天社長)が無償で提供することも関西では大きく報道されている。吉村知事はこのほかに複数の宿泊施設関係者から提供申し出を受けていることを明らかにしている。1000室の確保は可能だとみられる。


 このほか、クラスターとなったか、疑われる飲食店やライブハウスが店名公表に同意した場合、補償を約束するインセンティブ制度の導入も考えられている。これらの制度創設や対策を含めて、大阪府の予算規模は19年度補正予算35億円、20年度一般会計で39億円の計74億円の関連予算を計上している。


●東京メディアとの小競り合いも


 こうしたなかで、関西、特に大阪府民の目線でみると、東京中心の情報発信の歪さも目立ち始めた。例えば、大阪が打ち出したトリアージ戦略を神奈川も打ち出した途端に、首都圏のメディアが「神奈川方式」とネーミングして全国発信したことなどが、大阪府庁あたりでは顔をしかめさせる状況を生んだ。


 一方で、3月20日からの3連休に関する、吉村知事の「大阪―兵庫往来自粛要請」は全国トップのニュースとして報道された。いわゆる都市封鎖の先駆けとしてメディアの関心が小さくはなかったということだろうが、その際も政府専門家会議資料が非公開で大阪府にもたらされ、大阪府がそれを根拠資料として公開したことを非難するメディアもあった。初めて明らかにされる政府資料は、東京から発信するという「常識」が国内メディアを支配していることを、筆者は改めて思い知らされた。関西の大手メディアも、これについて反論もしない。メディアに作られている東京一極集中が最も改革しなければならないテーマではないかと、関西在住者は痛感した。


 この件は、大阪府と首都圏メディアの小競り合いにも発展している。政治評論家の田崎史郎氏が3月31日の東京のワイドショーで、大阪府の吉村知事が非常事態宣言を出すよう政府に迫っているのは、自らの権限を強めるための根拠が欲しいからで、「政策がぶれる人に大きな権限を渡すべきではない」と語ったという。そのことに、吉村知事は激怒したようで、ツイッターで田崎氏を非難したうえに、4月3日の関西ローカルワイドショーで厳しく反論した。学校再開、ライブハウス解禁の方針を転換させたのは、国のシミュレーションを尊重したためであることは自明で、政策が「ぶれた」という印象はない。


 あまりこのような小競り合いが表に出てしまうことは、いい気はしないが、大阪の独自戦略が東京のメディアの邪魔になっていることが表面化していると言えなくもない。その意味で、大阪の動向をとりまとめて発信するのも意義があると考える。次回以降は臨機応変に報告することとしたい。(幸)