先日、友人(A、Bとしておく)と3人でゴルフをしたときのことである。ミドルホールでティーショットが右に曲がった。斜面から第2打を打ち、駆け上がって合流した。ピンまでまだ100ヤード以上はある。するとAは私の第3打を待たず、先に打っていた。カッとなり、Bも加勢して2人大声で注意したが、ショト後にこちらに向かって申し訳程度に手を挙げただけだった。
その直後、今度は私の4打目を待たずにAがグリーン横でバンカーショットをし、レーキで砂をならしているではないか。プレーヤーの前方にいる者が無断でプレーするのは危険極まりないし、ルール違反である。再三の行為に怒りが収まらずホールアウト後Aに抗議すると、「後続の組が迫ってきていたので、プレーの進行を早めようと先に打った」と弁解した。
スロープレーは厳に慎むべきで、その意図は理解できるし、遅れないよう常に意識している。しかし17番ホールまで進んだところで、残りはわずか。そこに至るまでにプレーの遅滞はほとんどなかった。私が言いたかったのは、プレーの進行にもまして、同伴者とのコミュニケーションを取ろうとしない、Aのいつもながらの態度にキレてしまったのだった。その日は怒りが収まらず、「来月は、お前とは回らん!」と捨て台詞を吐いて別れた。
帰宅後、もやもやとした気持ちでインターネットのゴルフ記事を読み漁っていたら、胸に刺さる話があった。ゴルフWEBメディア「GEW」の2019年11月25日付「ゴルフが社会に嫌われる理由を一緒に解決しよう」である。そのなかで、ゴルフトーナメントプロデューサーで評論家でもある大西久光氏の次のようなコメントに引き込まれた。「ゴルフの大衆化」とは何かについて語った場面だ。
「プレーを楽しむまでにはそれなりの練習と技術が必要ですが、ゴルフの場合は上達の過程で自分の欲や愚かさを突き付けられる。要するにゴルフは、外側へ気持ちよく発散するよりも、内向的というか、内省的ですよね。厳しく自省を求めるというゴルフの体質が、そもそも万人向けではないだろうと」
これを読んでドキッとした。大西氏は、「ゴルフはそもそも大衆化しない」と主張する。また、「ゴルフ精神」とはヒトが嫌がることをしないことが基本にあり、他人の気持ちを慮ることだと語っている。Aの行動は、昨日今日始まったわけではない。ミスショットすれば、同伴プレーヤーの進行状況など考慮に入れず、ひたすら前に進んでショットの順番も無視して自分勝手にプレーを終えてしまうのだ。二言目には「俺はゴルフに向かない」と吐き捨てる。では、そういう身勝手な男をキャディ並みに平気な顔をして扱う自分の振る舞いはどうなのか。憎悪ムキ出しに相手を罵倒しておいて、ゴルフ精神などと高邁な話をぶつ資格はあるのか?
広々としたコースでボールを打ち、審判のいない状況でプレーが進むゴルフは、爽快でもあるが自分との戦いであり、他人の気持ちを慮るスポーツ。厳しく自省を求めるのがゴルフ、という言葉に深く納得した。
スポーツ界は暗愚の会長だらけ
4月9日、日本ゴルフツアー機構(JGTO、青木功会長)は約2週間前に開いた総会・理事会の内容の一部を公式サイトで公開した。5つの議案のうち、理事選任である第3号議案の賛否内容が投票数によって明らかになっている。理事選任については、日刊ゲンダイなどでツアープロによる嘆願書での反対活動が報道されていた。しかしJGTOは「何事もなく進行した」などと話し、詳細は伝えなかった。
ところが、第3号議案を見ると、選任された18人のうち17人は満票の183票中178票または177票を得ているが、「上田昌孝」氏だけは賛成97票、反対86票と拮抗している。日刊ゲンダイによると、「嘆願書」で選手から解任を求められたのは、上田昌孝ら3人の理事。いずれも青木会長のシンパで、特に上田氏はファン獲得の一環として企画した「イケメンプロジェクト」で失笑を買ったとされる人物。票決を開示したのは僅かながら前進ではあるが、接戦になった理事がひとり。しかも選手たちからNOを突きつけられた理事のひとりである。これで何事もなかったわけがない。しかし、機構のスポークスマンとも言える法律家の野村修也理事は「スムーズに総会は終わった」と話したという。さすがに政府べったりの弁護士、事なかれ主義の典型である。
わが国スポーツ界ではリーダーの人材払底ぶりが度を越している。森喜朗に始まり、山下泰裕、レスリングやボクシングなどなど。JOCの山下会長は柔道では世界一だったかもしれないが、「我々に選択権はない」と五輪延期について弁解した翌日、「苦渋の決断だった」と振り返った。決定権のない者が、どうして決断する必要があるのか。訳がわからない。暗愚の会長である。
尾崎将司、中島常幸とともに一時代を築いた青木功だが、側近政治を続けたいのだろうか。人気凋落が激しい男子プロゴルフ界は近年、ゴタゴタが絶えない。2年前には片山晋呉のプロアマ事件が起きた。逆に人気先行気味の女子プロでも、笠りつ子の不適切発言があった。厳しく自省を求めるのがゴルフ。プロもアマも変わりない。(三)