新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が、4月1日の「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」で「医療提供体制が切迫している地域」として挙げたのは、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県だった。ところが、4月6日の緊急事態宣言で対象となった7都府県に愛知県は含まれなかった。一方、生活・経済の面で首都圏一体の対策を講じる必要があるとして埼玉県と千葉県が、直近の動きから警戒が必要であるとの観点から福岡県が加えられた。


 その後、愛知県と京都府が国に対し、緊急事態宣言の対象に追加するよう要請したが、宣言直前の4月5日時点では、感染者が増加の一途をたどる東京都と大阪府、絶対数は少ないものの急増が目立つ福岡県に比べると、増加度合いは比較的落ち着いているとの判断があったかもしれない(【動画+】参照)。


 さらに厚生労働省は4月11日、「地域ごとのまん延の状況に関する指標等」として、下記(1)~(4)のデータを公表した。そこで、これらに医療提供体制や緊急事態宣言後の変化を加え、7都府県の状況をまとめた。


(1)感染確定者数(各日)の推移


 各日の感染確定者数が一定であっても累積数は増加する。ところが、7都府県の感染確定者数は増加傾向にあり、東京都や全国の累積数を指数関数的に押し上げる可能性がある。



(2)リンク不明の患者数


 4月11日の公表データでは、3月の中・下旬に分けてPCR陽性者のうちリンク(感染源)が追えない者の変化を示している。3月下旬、東京都ではリンク不明者が全体の40%、大阪府では36%を占めた。また、4月12日に東京都で新たに感染が確認された166人中リンク不明者が66人、院内感染疑いが87人だった。


 米国ではニューヨーク州を中心に感染者の激増が続くさなか、住民の抗体検査によって感染状況を把握するとともに、今後の就業復帰に向けて十分な抗体がある者を明確にする試みがなされようとしている。日本はこれまでクラスター対策で一定の成果をあげてきたが、感染フェーズが変わりつつある。特に、無症状病原体保有者から医療感染者やハイリスク患者等への感染を予防する手立てとしての検査を検討すべきかもしれない。



(3)帰国者・接触者相談センター、帰国者・接触者外来の利用状況


「帰国者・接触者相談センター」「帰国者・接触者外来」は、中国からの渡航者が主な感染源であった時期を過ぎて以降「わかりにくい」「利用しづらい」という声が続いてきた。それでも「帰国者・接触者相談センター」への相談件数は2~3月合計で7都府県とも万単位にのぼる。ただ、相談から検査に結び付いた割合は少なく、東京都では0.2%だった。


  

(4)PCR検査実施人数の推移

 

 4月に入り、PCR実施人数における陽性者(いずれも累積)の割合は7都府県のいずれも増加している。


厚生労働省の発表によると、国内で実施された「新型コロナウイルスに係るPCR検査」は、保険適用された3月6日から4月7日までの合計で75,414件、うち実施機関別では地方衛生研究所・保健所が55,549件(73.7%)、民間検査会社が8,520件(11.2%)だ。ただし、保険適用分7,606件については、民間検査会社が5,544件(72.9%)にのぼる。

 

 PCR検査の実施において大きな割合を占める地方衛生研究所・保健所が1日に実施可能な件数は、東京都220、神奈川県230、埼玉県139、千葉県564、大阪府260、兵庫県200、福岡件324(4月6日時点、厚生労働省まとめ)なので、感染の実態にかかわらず、各日の感染確定者数はこれを大きく上回らないということになる。



(5)医療提供体制(外来、入院、救急、透析、化学療法)


 内閣官房IT総合戦略室と厚生労働省は、病院機能報告制度で医療機関IDが発行されている病院について、患者受け入れ体制が「通常どおり」「一部制限あり」「停止」のいずれかを示すサイトを4月8日に公開した。全国または各都道府県をプルダウンメニューで選び、各該当医療機関の%や個々の病院の状態をマップ上で確認できる。


 7都府県についてみると、首都圏、特に東京都では既に「通常どおり」の医療機関割合が少なくなりつつあることがわかる。



(6)人流の減少

 

内閣官房は、緊急事態宣言に関わるサイトを立ち上げ、その成果の指標として「人流の減少率」の公開を4月9日に開始した。その結果、対象都府県の主な繁華街における人流は昨年11月の休日に比べて5~8割減少していた。一方で、生活圏にある身近な店舗や商店街に、時間帯や天候によって多くの人が買い物に集まったとの報道もあることから、全体として人と人の接触がどのくらい減ったかについては、分析対象地区を増やすか、感染者数の変化によって推測することになりそうだ。



 新型コロナウイルス感染症に対して有効な治療薬やワクチンがない現在、国民の「行動変容」が頼みの綱という点は変わりがない。公開情報を上手に用い、生活に制限をかける理由を裏付けるエビデンスを示すことで、「行動変容」を促すための戦略が必要だ。


【最新リンク】

◎厚生労働省「地域ごとのまん延の状況に関する指標等の公表について」[2020年4月13日アクセス]

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00016.html


◎政府CIOポータル「新型コロナウイルス感染症対策関係:全国医療機関の医療提供体制の提供状況を公開しました(β版)」(内閣官房IT総合戦略室作成)[2020年4月13日アクセス]

https://cio.go.jp/hosp_monitoring_c19


◎内閣官房「緊急事態宣言の成果~人流の減少率~」[2020年4月13日アクセス]

https://corona.go.jp/


下記より今週の動きが閲覧できます(動画)

https://player.vimeo.com/video/407042185/


[2020年4月13日9時現在の情報に基づき作成]


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。