4月17日時点――緊急事態宣言は全国に拡大された
中国湖北省武漢市から2019年12月から始まった新型コロナウイルスによる感染は、日本にも大きな影響を与え続けている。この記事は原稿執筆時点を明確にしながら、大阪府を軸に関西から国と地方がどのような対応をとってきたかを、その対比をみながらレポートしていくものだ。
今回は3回目、執筆時点は4月17日。16日夜に、安倍晋三首相は4月7日に7都府県に出していた新型コロナウイルス対応特措法に基づく「緊急事態宣言」を全国に適用拡大する方針を表明した。期間は7都府県と同様、ゴールデンウイークが明ける5月6日までだ。特措法適用拡大の理由は、当然のことながら日本では感染拡大が継続しているためで、今回も基本データを記しておこう。
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●新型コロナウイルス感染者数(2020年4月16日現在)※国内はクルーズ船含まず ※海外は4月16日付WHO発表
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国内 国外
感染者数 10,019人 死亡者数204人 感染者数1,982,268人 死亡者数130,737人
(回復者数1,580人) (回復者数539,956人)
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●新型コロナウイルス感染者数(2020年4月5日現在)※国内はクルーズ船含まず ※海外は4月4日付WHO発表
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国内 国外
感染者数 4,578人 死亡者数104人 感染者数1,048,003人 死亡者数56,905人
(回復者数575人) (回復者数245,019人)
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●新型コロナウイルス感染者数(2020年3月21日現在)※国内はクルーズ船含まず
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国内 国外
感染者数 1,007人 死亡者数 35人 感染者数232,411人 死亡者数9,800人
(回復者数227人) (回復者数87,450人)
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若干の期間の違いはあるが、このレポートの1回目に示した3月21日時点での国内の感染者数からみると、ほぼ2週間後の4月5日には4.5倍、1ヵ月後の4月17日はほぼ10倍以上になっており、感染が爆発に近い拡大をしていることは自明である。死者数も4月の2週間で2倍となった。国外のトレンドもあまり変わらないが、死者数の増加は17日の前、数日間はやや減少傾向がみられ、米国やドイツではピークを越えたとの判断で経済活動を緩和する政策動向も垣間見え始めている。
●ひねくれものが多い大阪以外の関西の知事たち
ここで大阪の状況を示しておくと、16日午後11時時点での感染者数は1020人、死者数は8人。16日の感染者報告数は52人で、この日についに1000人を超えてしまった。
3月20日~22日の3連休前の19日に、大阪府の吉村洋文知事が緊急に発表した「大阪-兵庫間の往来自粛」要請は、このときに全国の大きな関心を集めたが、これは政府対策本部専門家会議のクラスター班がまとめた人の移動に伴う感染予測数を、吉村知事が衝撃的に受け止めたため。専門家会議のシミュレーションは当時、非公開だったこともあり、大阪府が先行してこの情報を公開したこといついて、関西を含めてメディアには非難めいた報道もみられた。メディアの「知る権利」と、市民・国民の「知る権利」は違うものだと大メディアの人々が思っているらしいことを、この件で筆者は知った。
この3月19日の「吉村要請」は、兵庫県の井戸敏三知事も刺激した。吉村知事から事前に連絡がなかったとして「あまり他県のことをとやかく言わんほうがよろしいのではないか」と嫌味を述べた。ただ、これには大阪府民や兵庫県民の反発も大きく、井戸知事はその後、大阪府と歩調を合わせる姿勢を機に応じて強調している。
関西は全国でも珍しい連携組織、「関西広域連合」を形成しているが、この広域連合に最後まで加盟しなかったのが奈良県。その奈良県の荒井正吾知事は、全国に緊急事態宣言が拡大された4月16日、記者会見で「緊急事態宣言は強制力がなく自粛要請レベル。どんな実効性があるのか」とひねくれたコメントを出した。関西は独自のプライドの高い歴史を持つ地域が多い。広域連合は作っているものの、こうした全国レベルでの統一的対応を求められると、一言何か言いたくなるようだ。
●開発ワクチン、9月実用化をぶちあげるが……
大阪のアグレッシブな対応はワクチンや治療薬開発への取り組みでも発信された。背景には創薬基盤としての大阪の存在感を示しながら、オール大阪の医療機関連携に楔を入れる効果への期待もありそうだ。
4月14日には、予防ワクチンに関して、7月から大阪府内で治験を開始し、9月には実用化をめざす方針が示された。世界の新型コロナウイルスワクチンの開発動向は、RISFAXでの報道などを読むと、日本の開発体制の鈍さが目立っているようだが、大阪の取り組みは国内では先端を切るものといっていいかもしれない。
治験対象となるのは、3月5日にアンジェスが公表した大阪大学との共同開発、「プラスミドDNA製造技術を用いた新型コロナウイルス向け予防用DNAワクチン」。アンジェスは大阪市立大学附属病院とも、14日に共同開発契約を締結したことを発表している。
治験体制整備などを巡っては同日に、府、大阪市、大阪大学、大阪市立大学と府立大学を統括する公立大学法人大阪、府立病院機構、市民病院機構の6者によるワクチン、治療薬の研究開発を目的とした連携協定を締結した。この中でワクチン開発に向け各医療機関の倫理委員会等の情報共有を図り、迅速開発につなげる方針だ。
こうしたオール大阪の取り組みで、吉村知事は医療従事者を守る立場からワクチン実用化を約20万単位で9月と表明したが、いくらなんでも9月は無理かもしれない。
14日の会見で吉村知事は、医療従事者を守る戦いのうちの重要な戦略だとワクチン開発を位置づけ、この戦略が新型コロナ感染症との戦いを反転させるとまで語った。
また医療機関サイドからは、大阪大学の西尾章治郎理事長が連携によって総力を挙げて開発に取り組む体制が構築できるとしたほか、公立大学法人大阪の西澤良記理事長は、傘下の大阪市立大学附属病院がアンジェスと提携で合意したことを明らかにしながら、「クロロキン」など治療薬候補に関しても積極的な治験などの情報共有をしていく考えを示した。
一方、大阪の製薬企業との連携について吉村知事は、「民間の協力も得ないと開発は難しい。治療薬候補などについてはそれぞれの医療機関が製薬産業と連携することに期待したい」と述べている。
●2日間で10万着以上集まった雨ガッパ
一方、松井一郎大阪市長も注目を集める。14日の大阪府会見には松井氏も同席、府市一体をアピールしながら、ワクチン開発に関しては、高度な医学研究基盤のある大阪の付加価値に言及、府市は、財政面、人材面でのサポート体制構築で対応していく構えを示した。
とくに関心を集めたのは市民病院のひとつを新型コロナウイルス感染症の専門病院化する方針を示したことだ。大阪市淀川区の「十三市民病院」(263床)を新型コロナウイルス感染症専門病院とするもので、現在入院中の他疾患患者を別の病院に移し、専用の医療施設として確保、運用するという。専門病院の設置は全国でも初めての戦略だ。
14日の、ワクチン・治療薬等の研究開発を話し合った6者連携協議時に医療機関側から提案された模様で、「できるだけ速やかに実現させる」と強調した。
専門病院は、「とくに中等症患者を収容する病床が足りない。人工呼吸器を確保し、重症化にすぐに対応できるようにする」施設とする目的も示した。軽症者は、民間ホテルの協力を得て収容する方針が固まっており、十三市民病院は中等症から重症者への対応医療機関となる。
メディアに大きな関心を持たれたのが「雨ガッパ」だ。松井氏は14日の共同会見の最後に、付け加えるように「医療従事者の防護服が足らない。もし未使用の雨ガッパ、透明なレインコートがあったら提供してほしい。そのことをメディアの皆さん、大阪市民に呼び掛けてほしい」と依頼した。
これを、テレビを中心に関西ローカルメディアがかなり大きく取り上げ、報道。結果的に15日、16日の2日間に、窓口となった大阪市健康局には10万着以上のカッパが届いた。14日の段階で松井氏は「大阪市が買い上げてもいい」と言っていたが、無償提供がわずか2日間で10万着も届き、有償は撤回するというオマケもついた。
この雨ガッパ、大阪の動きを受けたのかどうか、16日には厚生労働省が代替することもやむなしとの通知を出している。
松井市長の呼びかけの背景には、医療用物資の不足が目立ち始めていることが大きい。14日の松井市長や吉村知事の説明では、医療従事者用の主要な物資のうち、N95マスク、防護服、フェイスシールドはそれぞれ31~32万枚程度が必要とされている。16日段階での実情は以下だ。
現在確保数 国から供給見込 府の購入見込 不足数
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N95マスク 約1.5万枚 16万枚 15.2万枚 見込みゼロ
防護服 約1万枚 16万枚 4万枚 10万枚
フェイスシールド 0枚 14万枚 1万枚 16万枚
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次回は大型連休中の動向を中心にレポートする。(幸)