4月7日に特措法に基づく緊急事態宣言が出されてから、5月6日までの折り返し地点を過ぎた。海外では、3月上・中旬から厳しい行動制限を実施してきたイタリアやスペインで段階的な制限緩和への動きがみられる。一方、感染者数が世界最多になってから1か月を経過した米国では、「時期尚早」とされながら経済活動を再開した州もある。
■日本の現状はどの基準も満たさず
制限をかける以上に難しいのは緩和の方法だ。COVID-19との闘いの長期化が懸念されるいま、「一律の解除」という選択肢はなく、「段階的な緩和」で流行の変化をみながら「後戻り」もあると考えるのが現実的だ。
4月半ばにはEUと米国で制限緩和・解除に向けた判断基準が示された。その内容を日本の現状に照らすと、緊急事態宣言が延長されたとしても不思議ではないと思える。
(1)感染者数、検査実施者における陽性者割合―専門家の分析は近日中に公表予定
日によって変動はあるが、全国の新規感染者の7~8割は特定警戒都道府県で発生している。絶対数の違いはあるが、累積感染者数の変化をみると、4月7日に対象となった7都府県は依然として増加傾向だ。院内感染や感染経路不明例が問題になりつつあるという北海道は、直近の増加が気になる。茨城・愛知・岐阜・京都の増加度合いは比較的抑えられている(【動画+】参照)。
全国の累積感染者の3割を占める東京都で、PCR検査実施者における陽性者割合は4月1~23日の期間に倍増した。米国の判断基準に照らすと、「検査実施者における陽性者割合の増加」は状況の悪化を示す指標と考えられる。ただし、厚生労働省が設置したクラスター対策班で感染状況の分析を担当している西浦博氏(北海道大学大学院教授、数理疫学)によれば、そう単純なものではなく、診断される割合が日々増加している時期には医師の診断能力の向上などの影響がみられるため、陽性率の変化を補正して分析している。そのうえで、4月25日時点では東京都の流行に若干の鈍化がみられるものの、大型連休に向け油断はできないとのこと。
また、PCR検査のキャパに上限があると、確定日別の患者数から流行状況を把握するのが難しい。そこで、西浦教授らはできる限り発症日や感染日の情報を得て分析を進めており、近日中に結果を明らかにする予定という。
(2)感冒様症状の有訴者―調査結果の経時的変化に期待
米国の基準にある「インフルエンザ様/COVID様症状報告の減少傾向」は通常であればつかみにくい。しかし、国内でのCOVID-19拡大にあたり、厚生労働省はLINE株式会社と提携を結び、これまでに3回(第1回:3月31日~4月1日、第2回:4月5~6日、第3回:4月12~13日)、アプリを用いた全国調査を行った。
公表された第1回調査結果によれば、「37.5℃以上の発熱が4日以上続いている」人は、全体(約2,400万人)の0.11%(約27,000人)だった。「発熱=新型コロナウイルス感染」ではないが、国立感染症研究所の報告によれば、2019/20シーズンは2020年第5週以降にインフルエンザの患者がほとんど報告されておらず、通常の年に比べればインフルエンザの影響は少ない。
また、第1回調査では職業・職種別のグループ別の分析がなされ、大都市圏で主要なクラスター発生源となっている「比較的長時間の接客を伴う飲食店を含む対人サービス業」などの「グループ(1)」では全体より発熱者割合が高い(→介入が必要である)こと、「専業主婦」など自分の行動次第で3密回避や社会的距離の確保が容易な「グループ(5)」では全体の発熱者割合の影響を受けにくい(→働きかけ次第で効果が高まる)ことなどが示された。
あくまで補助的手段ではあるが、同じ調査による結果の経時変化は、制限の緩和を判断する手がかりになるだろう。
(3)医療体制―ハードとソフトで守る
4月23日現在、特定警戒都道府県のうち1,000床程度以上の対策病床を確保しているのは、東京、神奈川、大阪、福岡、愛知の5都府県だが、東京都では入院患者が対策病床の1.8倍に達している。埼玉、千葉、兵庫、北海道も、入院患者が対策病床を上回っている。EUの基準にある「制限緩和後の症例増加にも対応可能」というフェーズではなく、まずは患者増加期の医療体制維持に追われる状況である。
病床というハードを確保しても、ひとたび院内感染が起きたり、感染場所が院外であっても医療従事者が濃厚接触者に該当して自宅待機になったりすると、臨時急診に追い込まれる場合がある。患者だけでなく「医療従事者を守る」ことが医療体制を維持する鍵だ。
従来の個人防護具(PPE)供給がひっ迫する中、アパレル企業が医療用ガウン製造を開始するとの報道がある。大阪府のように、広く医療用物資の寄付を求めるアイディアもある。一方、COVID-19以外の理由で受診や救急搬送される患者から医療従事者への感染を防ぐ、感染不明のまま患者がたらい回されることを避けるという意味でも、検査の拡充が望まれる。
(4)検査体制―さらなる拡充が課題
先述の北大・西浦教授は「PCR検査のキャパ上限」による分析の難しさを吐露している。東京都の場合、地方衛生研究所・保健所で行われるPCRの1日当たり実施可能件数は220件、全国で最も多い千葉県でも564件だ(2020年4月6日現在)。民間検査会社や医療機関が実施し検査で陰性となった分は数字に表れにくく、検査の母数がつかめないために、感染実態も把握しくにいのが日本の現状だ。
PCR検査が少しでも容易に行えるよう、医師会との連携で自治体独自の検査所を設けるなどの動きが始まっている。また、歯科医師による検体採取も特例的に認められる方向だ。危機にあたっては、人材を含め「使える資源を柔軟に使う」発想が必要になる。
■真っ向勝負だけでないリスコミで人を動かす
2月下旬から4月初めまで、新型コロナウイルス感染が限定的であった時期には、現実的な検査キャパとの折り合いや、検査待ちの場所(発熱外来等)での2次感染への懸念もあり、「3密回避」と「クラスター対策」での対応が進められてきた。緊急事態宣言後には政策がスイッチされ、「社会全体で」「接触8割減」という方針が打ち出された。「クラスター対策」についても、これまでの良かった点・良くなかった点を分析し、改善する予定という。
「接触8割減」には、「①曝露を受ける人口(感受性人口)を減らす」「②ひとりひとりが経験する接触の割合(接触率)を減らす」という2つの要素がある。①の指標は、NTT、Google、ソフトバンクなどがそれぞれ計測・推計している「人流」の変化。②については現在、対策班を中心に「社会的接触のアンケート調査」が行われている。
新規感染者の発生は、これまでの数理疫学である程度確立されてきた推計法により、「①と②の積」に左右されることがわかっている。したがって、「人流」か「接触率」のいずれか単独で8割減できなくてもよいそうだが、①②とも達成には「人の行動の変化」が必要だ。大型連休を前に「いまは来ないで」と訴える観光地。休業要請に応じないパチンコ屋前にできた長蛇の列。いずれも「行動変容」の難しさを痛感させる。
出口が見えない中で、クスっと笑える取り組みもある。一例がニュージーランド警察のTwitterだ。「人類史上初めて。寝転がってテレビを見ているだけで、人命を救える」といった名言や、「油断しないこと」をジェットコースターで表したアニメなど、ノリがよく印象に残る。ニュージーランドは、アーダーン首相(39歳の女性)をはじめ、政府のリスコミの上手さでも定評がある。「ステイホーム週間」にチェックしてみてはいかがだろうか。
【最新リンク】
◎時事通信映像センター「東京で感染の伸び鈍化か 大型連休前に緩み懸念も―北大教授(2020年4月25日)」→西浦教授が4月25日時点の分析を記者向けに詳説[2020年4月27日アクセス]
https://sp.m.jiji.com/movie/show/1178
◎New Zealand Police Twitter[2020年4月27日アクセス]
◎New Zealand Government「Current COVID-19 Alert Level」[2020年4月27日アクセス]
https://covid19.govt.nz/alert-system/current-covid-19-alert-level/
下記より今週の動きが閲覧できます(動画)
https://player.vimeo.com/video/414633176/
[2020年4月27日9時現在の情報に基づき作成]
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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、