日本の野山では珍しくもなく、あちこちに生えている薬用植物で、果実は可食ではあるがほとんど店頭販売されていないものの、若年時代に山でよく遊んだ者は秋に熟した果実を見つけて食した経験があるせいか、中高年熟年世代の者にはそこそこ有名である。が、花は、例えば京都あたりでは黄金週間前後に咲くのだが、知っている者は多くないようである。蔓になる茎を生薬にするが、さまざまな理由からその消費量をかつては100%国産で、また近年でも大半を国産で賄っている。なぞなぞのような書き出しになってしまったが、さて、この薬用植物はなんでしょう?



 答えはアケビである。太めの蔓は生薬名を木通といって、利尿作用や通経作用等を期待して、消風散や当帰四逆加呉茱萸生姜湯など各種漢方処方に配合される。日本での年間使用量は、変動があるが概ね40から50トン程度で、超汎用生薬というわけではない。



 これだけを書くと、木通は、言い方はよくなくて恐縮だが、限られた時間数で多くのことを教えようとする大学の生薬学の講義では、日本でそこそこ使われる約300種類ほどの生薬の中で、わざわざ授業で取り上げる生薬には選ばれそうもない。ところが、木通は近年はおそらくすべての薬系大学で講義されている生薬のひとつではないかと思う。その理由は木通にあるというよりは、“木通もどき”とでもいうべき好ましくない外国産生薬がいくつかあって、それらを講義する際に、本家本元の安全安心な日局生薬として木通が紹介される、という格好だろうか。

 木通はそこそこ太くなったアケビの蔓を輪切りにすることが多く、そうすると、ちょうど自転車の車輪のような、外周円があってそれに向かって中心の髄から放射状に線が延びる構造が見える。植物形態学を修めた者にはなんの変哲もない茎の構造であろうが、良くも悪くも木通を見るときのひとつのポイントとなる構造である。

 太くなった茎を薬用部位とする生薬は水平方向の断面が同様の見た目になる可能性があるわけで、例えば防已(ボウイ)も太くなった蔓(地上茎)を用いる生薬で、自転車の車輪のスポークのような模様がはっきりと確認できる。また茎は土中に延びる場合もあって、それらも基本的構造は地上茎と同じである。

 この木通や防已と非常によく似た名前で、また見た目もよく似ている生薬に、関木通(かんもくつう)や広防已(こうぼうい)といった、日本では使用しないが外国では使われている生薬がある。木通や防已に1文字加えられただけの名前なので、品種か何かでほとんど同じものと思うかもしれないが、これらは日本薬局方で定める木通や防已とはまったく異なる生薬で、重篤な健康被害事例の原因となったものである。

 関木通や広防已はウマノスズクサ属植物を基原とする生薬で、アケビ(木通)やオオツヅラフジ(防已)を基原とする日局基準の生薬とはそもそもまったく異なるのである。さらに、ウマノスズクサ属植物には多くの場合、アリストロキア酸という成分が含まれており、これを継続的に服用すると、慢性の腎臓機能不全をきたし、人工透析が必要な状態になってしまう。

 ひと昔前、外国で購入したりネット販売で購入したりした生薬製剤やダイエット茶に、関木通や広防已が含まれていて、知らず知らずのうちに腎機能が回復不能なほど損なわれていた、という不幸な事象が世界のあちらこちらから報告され、アリストロキア酸腎症として知られるようになった。日本でも、日本の製薬会社が日本の基準に従って製造した製品ならば、アリストロキア酸が含まれているという心配はまず無いが、そうではない製品を利用した場合にアリストロキア酸が原因とされる健康被害事例が起きている。

 これが全国の薬系大学で木通が必ず講義されている理由のひとつである。木通自身の素晴らしい薬効が必修になっていることの理由ではないところが恐縮だが、木通にはアケボシドなどのトリテルペン配糖体(いわゆるサポニンの一種)が特徴的に多く含まれており、確認試験では水抽出液が泡立つことを確認する作業となっている。

 花の話が最後になってしまったが、アケビの花は雄花と雌花が別々で、雌花は1個ずつ、雄花は複数がセットになってつく。雌花の真ん中に丸い頭の小さな濃紫色のこけしのような構造が6つほど見えているが、これが受粉すると太ってアケビの果実になる。写真の雌花では、全部が育てば6個の実が一つの雌花からできることになる。花の時には極小なのと、ひとつの雌花に意外とたくさんの実のモトがついているので、それが大きくなって実になるというと、驚く方が多いようだが、プロペラのようにたくさんの実がぐるりとついている様子見ていただけば、少しは納得していただけるだろうか。




 今年は順調に気温が高いので、秋の山ではきっとたくさんのアケビの実が見つけられるに違いない。その頃には、マスク無しで楽しく談笑しながら山歩きを楽しめるようになっていてほしいものである。

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伊藤美千穂(いとうみちほ) 1969年大阪生まれ。京都大学大学院薬学研究科准教授。専門は生薬学・薬用植物学。18歳で京都大学に入学して以来、1年弱の米国留学期間を除けばずっと京都大学にいるが、研究手法のひとつにフィールドワークをとりいれており、途上国から先進国まで海外経験は豊富。大学での教育・研究の傍ら厚生労働省、内閣府やPMDAの各種委員、日本学術会議連携会員としての活動、WHOやISOの国際会議出席なども多い。