5月24日開催予定の大相撲夏場所が中止になった。外出自粛で国民の多くが自宅にとどまるなか、高齢者のファンが多い「国技」だけは先場所に続いて無観客での強行かと思われたが、高田川親方など身内に感染者が出たことで力士保護を優先した。プロ野球も4月7日の非常事態宣言後に当初計画の5月11日開催を諦め、宣言解除後に再検討のはずだったが、宣言延長で開催のメドが立たなくなっている。


 サッカーのJリーグ、男女のプロゴルフも同様に開催の見通しが立っていない状況で、選手たちはSNSを通じて近況を知らせたり、自宅でできるエクササイズなどを紹介。ファンとの交流に時間を割いている。それはそれで健気な涙ぐましい努力ではあるが、ゲームの醍醐味、面白さと比較すべくもない。あるいはまた、「名勝負」などと称して過去の対戦を盛んに流すテレビメディアも増えているが、これまた、興味をそそるほどではない。



 これだけ開催の延期が伝えられると、大方のファンは「今年中の試合観戦は難しいだろう」と考える。しかし、プロスポーツは興行であり、ビジネスである。採算を考えないわけにいかない。観客を入れない試合を敢行した場合に得られる収益は放映権料くらいだ。例えばプロ野球は、近年客層が広がり赤字球団は少なくなったものの、売上減は避けられないので、経費カットが俎上にのぼる。


 それは当然人件費で、年俸である。今季のギャラは昨年中に契約済みだから減俸は厳しい。できるとすれば、労働組合であるプロ野球選手会と経営側が交渉して決めるほかない。それができなければ、来期年俸を大幅に減らすことになるのではないか。そうした経費削減をしてもなお、コロナ禍による活動低下で金銭的に窮して経営が立ち行かなくなった球団は、支援を求めて事業継続するか営業譲渡に踏み切るか、親会社の判断に従うしかない。


 しかし最も切実な問題は、選手の体調管理と気力にある。プロ野球は5月12日に臨時オーナー会議を開いて善後策を協議し開催日を決めるようだが、選手が試合に臨めるだけのコンディションを整えるには最低でも1ヵ月。それから試合形式のオープン戦をもう一度こなしてさらに1ヵ月、どんなに早くても7月中旬の開幕が関の山である。


 例年ならば7月中旬の試合消化数は1チームあたり約60試合。143試合から差し引くと83試合である。先発投手が中6日で投げた場合、出場は13試合程度にとどまる。野手は1試合3打席強として270打席くらいか。2月からキャンプに入り、3月にオープン戦を消化していた頃からの長期中断である。球場は満足に使えず、自宅にこもりきりだった選手が、今月下旬にトレーニングを再開し体調を整えるのも厳しい日程だ。80試合程度の公式戦では、スタートダッシュに成功したチームが突っ走れば他球団はもう追いつけないし、団子レースになれば地力のあるチームが最後は上位に行く。


 そうした展開は、普通のシーズンでもさほど変わりはないと思うかもしれない。プロだから当然、開幕に照準を合わせて身体をアジャストしてくるだろう。しかし、ここまで短期のシーズンだと、先が見通せて挽回できる手立てが従来に比べて非常に少ないのだ。素人でさえこの程度は想像できるのだから、プロの選手がイメージしないわけがない。急ごしらえでつくった体調はアクシデントを生むリスクもある。だからといって、今季は全試合中止になれば、放映権料も入らず、大事な商品である選手たちの劣化は進む。


6連戦2回を5チームで


 あれこれ考えると、最善の方法は、選手の移動を極力減らして無観客のゲームを可能な限り成立させることだ。現行の1カード3連戦を倍の6連戦形式に増やして、ホームとアウエイで対戦カード数は12試合。交流戦なしで5チームが対戦して合計60試合。これなら、移動日と休養日も取れるし、調整可能な日程ではないか。また、年間にこれだけの試合数でCSを開くのも気が引けるが、日本シリーズを入れてポストシーズンゲームは、少ない試合数を補填する意味からも開催すればいい。



「史上初の球宴中止濃厚」などと、能天気なことを書くスポーツ紙の見識にも呆れる。すでに見出しにもならないオールスターの心配など誰もしていない。開幕できる時期は、感染拡大が鈍化したときだ。その判断基準は、残念ながら国が引いた線をなぞって決める以外に見当たらない。あとは、観客がこれまで通りの観戦スタイルを放棄して心穏やかに見る気持ちを醸成することである。今回のコロナ禍のなかで、プロ野球の観戦スタイルに多少でも言及したスポーツ紙は、私の知る限りではサンケイスポーツなどごくわずかだった。


 コロナ禍に胡坐を掻いているスポーツ紙の劣化は、選手たち以上に進んでいる。運動記者に限ったことでもないが、阪神・藤浪の感染騒ぎでも一役買った記者がいた。開幕日の予想など、この期に及んで関心を持つファンは多くない。五輪の開催延期あるいは中止と同程度に興味は薄れている。今季は大方の人がプロ野球観戦を半ば諦めている。今年はともかく来年以降、見ることができるのか。そのためには何をどうしたらいいのか。この際、いい機会だからプロ野球を巨視的に捉えた記事が欲しい。(三)