5月6日時点――緊急事態宣言から1ヵ月、5月末までの延長決まるも


●15日がメルクマールに


 4月14日の大阪府、大阪市の共同記者会見で、松井一郎大阪市長が、医療従事者の防護服不足に関連して、大阪市民に未使用の雨がっぱ提供を要請した。この会見には専門紙記者である筆者も出席していた。このときの松井市長の口振りは、いささか誤解を招くかもしれないが、案外にのんびりしたようなものだった。府庁職員が、2時間近く続いた会見の質問が途切れたのを見計らって終了を告げた瞬間だった。


「あ、ちょっとお願いが。すみません、メディアの皆さん。医療従事者の防護服が足らんのですワ。家庭にある雨がっぱ、まだ使ってないものに限りますけど、それを寄付してほしいと報道してくれませんか。届け先は大阪市健康局です」。ニュアンスが伝わるかどうかわからないが、これを大阪弁で言うから、輪が解けかけた記者団からも微苦笑がもれたのも仕方がない。大新聞や放送メディアには関係ない筆者はこうしたドタバタなやり取りをみて、大手メディアが大きく報道するとは考えていなかった。


 しかし、これは思い違いだった。この会見終了のタイミングで放たれた松井市長の「お願い」がその日の夜、翌朝の関西ローカルニュースでは、トップ扱いで報じられたのだ。4月7日の国による緊急事態宣言が発出されて1週間。大阪でも、国からの政策情報ばかりに報道の視点が偏っている印象が拭えなかったこともあり、こうした溝板の上で交わされるような「お願い」は、メディア側にも「ほっこり」した気分のニュースが欲しかったことを想像させた。


 実際、これが報道されると、2日後の17日までに30万着の雨がっぱ、レインコートが府民から届けられた。松井市長は慌てた感じで会見を開いて「ストップ」の声をかけた。むろん、彼は満面の笑みで感謝を何度も告げた。「ほっこり」ニュースは「ほっこり」を再生産した。


 ところが、この話には何とも後味の悪い後日談も生まれた。雨がっぱ報道について、自民党大阪府連の岡下昌平衆院議員、宗清皇一衆院議員がTwitterで吉村洋文知事を批判。中国の感染蔓延時に防護服支援したのに、不足したから雨がっぱってどういうことだ、と非難したのである。これに対し吉村知事が、防護服供給は国の供給予定などに沿って計画に抜かりはなかったことなど数値を示して反論、自民党国会議員は高見の見物だと一喝した。この一連の喧嘩は、関西メディアも扱いは小さかったがほとんどが報じた。


 それからの経緯はネットで議員たちへの非難が集中したので、全国的にも知っている人は多いかもしれない。吉村氏の熱血的な行動力と決断力、反応の速さはこうした場面でも発揮されたが、彼への支持はたぶん、東京あたりで想像されているより数倍のインパクトを持っていると思う。大阪のメディアも、基本的には目線は東京である。だから、そうした「吉村人気」については関心のそぶりも示そうとはしない。むろん、大阪が始めた感染者の症状の程度に応じた医療体制(トリアージ方式)構築を神奈川県が導入すると、「神奈川方式」と報道した首都圏メディアの「頓珍漢」ぶりは大阪市民はよくわかっている。


 自民党大阪府連の議員による大阪府市政批判は、すぐに結果として跳ね返っている。4月19日に行われた大東市議会議員選挙(定数17、立候補者数19)で、大阪維新の会候補が上位を独占、自民党議員は下位争いを続けて翌朝まで当選が打たれず、ついに1人が落選した。この動きにも大阪メディアは無反応だった。


 こうした情勢は、大阪政治の特異性をさらに際立たせることになるとの観測を容易にさせる。大阪都構想の住民再投票は「賛成」が圧倒するのは間違いないし、国政選挙でも自民党の大幅な退潮が予測される。


●東京と国にお鉢は持っていかれそうだが


 こうした動静に、さらにインパクトを与えたのが5月5日の自粛要請の段階的解除の大阪府独自基準発表であろう。安倍晋三首相は4日に特別措置法に基づく休業と外出自粛要請について、5月31日までに延長することを発表したが、この発表では自粛解除に向けた数値目標などの具体性を欠いたことで国民に強い不満を残したのは周知のとおりだ。


 さすがに翌日に公表された「大阪基準」は全国トップニュース扱いで報道された。さすがに首都圏メディアも、前日の首相会見に業を煮やした感も否めない。東京都がこれに続くかどうかも関心を集め(5月6日時点)ている。また、政府も延長方針については5月14日、21日の2次にわたって見直す可能性も示し始めた。経済的な課題については、休業補償の課題を含めて多数の報道、論考が集まり始めているが、ここでは触れない。


●データ的にはすでに基準クリア


 さて、「大阪基準」(3項目)である。簡単に列挙しておく。大阪府は「警戒信号の消灯基準」としている。


①新規感染者における感染経路不明者が10人未満(5月4日時点で7.29人)

②検査に占める陽性率7%未満(5月4日時点で4.5%)

③重症病床の使用率6割未満(5月4日時点で33%)


 この基準を7日間連続で達成すれば自粛要請を段階的に解除する。具体的な解除方針は現段階では明らかにされていない。解除判断は早ければ15日だとみられている。

 

 大阪のこうした方針は、国や他の府県に強い影響を与えるのは必然だ。現実に、「消灯基準」をみても、最近の数値はすでにクリア状態にある。5月5日の感染者数も大阪府は7人と1ケタ台になった。国内全体では121人(東京58人)で、4月半ばに1日700人を超えていた頃からみると、全国的にも感染規模は縮小している傾向は明らかになっている。


 こうした動向からみると、現状の自粛要請体制は15日頃に一定の緩和が示されることはかなり濃厚になったとみることができる。


 15日頃にこの続きのレポートを試みたい。また国内で初めて、新型コロナウイルス感染症中等症患者の専門病院となった十三市民病院の状況もみたい。(幸)