2020年1月15日に国内初感染例が確認されてから4か月近くが過ぎ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の性質が少しずつ明らかになってきた。主な感染経路である飛沫感染と接触感染は「話す」「手を使う」という人間の基本的な行動と密接に関わる。軽症者の割合が多く、無症状の人からも二次感染が起こる。有効な治療薬やワクチンの開発にはまだ時間を要する。


 人類が撲滅した唯一の病原体は痘瘡ウイルス。その要因として、①効果的なワクチンの存在、②ウイルス抗原の安定性、③不顕性感染の少なさ、④ヒト以外の感染がない(人獣共通感染症ではない)こと、⑤致死率の高さや天然痘患者の外観が醜くなることへの感情的影響から撲滅活動に対する大衆の協力が得られやすかったこと等が挙げられている。


 引き比べると、「新型コロナウイルスの撲滅」を目指すのは現実的ではなく、当面は「賢く共生する」ことが得策に思える。そこで、共生に役立つ動きをひろってみた。


■判断材料の「見える化」


 WHOがパンデミック宣言をした3月11日前後から、時期の差はあるものの、世界各国は怒涛のような感染拡大に見舞われた。その結果、医療資源や国民性などに応じて、制限項目や罰則の有無などの異なるさまざまな対策措置が月単位で講じられてきた。



 現在は、欧米やアジアを中心に制限緩和や解除の方法と時期が模索されている。「検査数の少なさ」「対策の緩さ」が国内外から指摘される日本でも、「大型在宅週間」を経て、多くの県で感染者数の増加が頭打ちになる傾向がみえてきた。(【動画+】参照)


 政府は「5月14日を目途に専門家会議を開催し、5月末を待たず、県によっては救急事態宣言を解除することもある」としている。「それまでの暫定的な措置」としながらも、いち早く独自基準 を作成したのが大阪府だ。次いで、茨城県が4ステージに分けた対策指針を示した。東京都も、過去7日間平均の陽性者数を検査実施数で割った「陽性率」を提案。これらはすべて、各都府県のサイトで公表されている。





 最初に独自基準を打ち出した大阪府のインパクトもさることながら、茨城県もなかなかユニークだ。首都圏との人の往来をある程度行わざるを得ないという地域性を考慮し、茨城県への影響が大きい「都内の感染状況」を指標に加えている。


 これほど、各都道府県と知事に脚光が当たる機会はない。今後、国が公表する指標を踏まえつつ、各自治体や経済圏の特性を加味したさまざまなアイディアが出てくることを期待したい。


■専門分野を超えた知識の共有


 政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は、公衆衛生や数理疫学のエキスパートが中心になって進められてきた。一方で、医学・医療の視点から、4月18日に「日本医師会COVID-19有識者会議」が発足した(座長:永井良三自治医科大学学長)が、先週になって同会議のサイトが公開された。


 その内容は、外来診療ガイドやCOVID-19症例データベースをはじめ、医療現場における現状認識、(PCR)検査の俯瞰、抗体検査の現状と課題、治療薬開発の現状から有用なサイト紹介まで幅広い。上記データベースは「医療関係者」向けとしながら、誰でも閲覧可能である点も評価できる。


 5月10日のテレビ番組で、政府専門家会議の尾身茂副座長(座長は脇田隆宇国立感染症研究所長)は、「社会、経済、教育などさまざまな専門家と、政府、市民が一体になって取り組むフェーズに来ている」ことを訴えていた。多様な視点をもちながら、どう調整して最善の方向に意思決定していくかが大きな課題だ。


■リスクとベネフィットの明示


 抗ウイルス薬や対症治療薬などの選択肢が得られるようになっても、「一発逆転」は難しい。国民に過大な期待を抱かせることは禁物だ。


 5月7日に「SARS-CoV-2による感染症」を効能・効果として特例承認されたレムデシビル製剤[販売名:ベクルリー点滴静注液100mg(水性注射液)、同点滴静注液用100mg(凍結乾燥製剤)]の添付文書(第1版、全10ページ)をみると、通常の承認薬と同様の体裁で用法・用量が書かれている。


 一方、FDAの緊急時使用許可(EUA: Emergency Use Authorization)にあたっての医療従事者向けファクトシート(全36ページ)は、まず投与患者の条件があり、太い黒枠内に「至適治療期間は明らかにされていない」ことを明示したうえで、詳細情報が箇条書きされている。


 また、患者向けのファクトシート(全2ページ)で驚いたのは、「(私が)もしレムデシビルを使わないと決めたらどうなりますか?」というQ&Aだ。答えは、「レムデシビルを使わなければ、悪化するか、死ぬこともあるかもしれません。ただし、COVID-19治療にレムデシビルを指示どおり使っても、悪化や死亡の可能性はあります」。あくまで重篤な入院患者を対象に、差し迫った状況での「緊急時使用」する薬ということではあろうが、その時点での意思決定は患者でも家族でも難しいように思う。リスクとベネフィットは理解したいが、明示すれば済むというものでもなさそうだ。


 たとえ一般向けでもシビアな表現ばかりかと思えば、EUAの位置づけに関するわかりやすい動画もある。米国におけるCOVID-19の拡がりは惨憺たるものだが、リスクコミュニケーションの懐は深い。


 長いトンネルの先は真っ暗闇ではないが、抜けた先は元の世界とは違う可能性が高い。他の先進国と同様、日本でも人口が集中する都市部を中心に感染が拡がった。近い将来、リモートでできる仕事は「いやいや」でなく、もう少し地方に分散できるだろう。ウイルスとの共生で気づくのは、悪いことばかりではなさそうだ。



【最新リンク】

◎Hale T et al. “Variation in government responses to COVID-19” Version 5.0, Blavatnik School of Government Working Paper. April 29, 2020. [2020年5月11日アクセス]

https://www.bsg.ox.ac.uk/research/research-projects/coronavirus-government-response-tracker


◎日本医師会COVID-19有識者会議→毎週金曜日更新[2020年5月11日アクセス]

https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/


◎FDA. Coronavirus (COVID-19) update: FDA issues Emergency Use Authorization for potential COVID-19 treatment. →医療従事者、患者向けファクトシートへのリンクあり[2020年5月11日アクセス]

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/coronavirus-covid-19-update-fda-issues-emergency-use-authorization-potential-covid-19-treatment


◎FDA. What is an EUA (Emergency Use Authorization)? 「緊急使用許可って何?」[2020年5月11日アクセス]

https://www.youtube.com/watch?v=iGkwaESsGBQ&feature=youtu.be


下記より今週の動きが閲覧できます(動画)

https://player.vimeo.com/video/417106495/

[2020年5月11日9時現在の情報に基づき作成]


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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。