5月15日時点――点灯したグリーンライト


●あっさりと大阪モデル目標達成


 吉村洋文大阪府知事が、新型コロナウイルス対策としての自粛要請解除の段階的目標を掲げたのは5月5日。いわゆる「大阪モデル」で、これは社会的には国の数値的目標がハッキリしない対応策との比較で、大きな全国的な期待を得たものだったと言えよう。


 さて、モデルとなる「大阪基準」(3項目)を簡単に列挙すると、以下の通りだが、結論としては14日までに達成され、吉村知事は同日、段階的解除方針の具体策を公表、15日から一部の休業要請解除が始まった。参考(http://www.pref.osaka.lg.jp/default.html


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①新規感染者における感染経路不明者が10人未満

②検査に占める陽性率7%未満

③重症病床の使用率6割未満

 この基準を7日間連続で達成すれば自粛要請を段階的に解除する。

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 この方針が発表された5月14日夜は、大阪新世界の通天閣と、万博公園の太陽の塔が緑色にライトアップされた。13日までは黄色に点灯されており、大阪ローカルテレビ報道では、毎日黄色に浮かぶ通天閣が映し出され、府民の期待や願いを象徴する光景となっていた。14日夜からのグリーン点灯は、上記基準がひとつでも崩れると今度は赤点灯となり、段階的な自粛要請、休業要請に再び入らざるを得ないと吉村氏は説明している。現状ではその可能性は低いとみられているが、韓国での第2波の状況などをみると、「緩み」への警戒が強いのは行政側としては当然だと言える。


 なお、政府も14日に39県で緊急事態宣言を解除したのは周知のとおりだ。


●解放感はそれでも徐々に


 関西のメディアは、こうした大阪府の独自出口戦略に一応の好感を示しているとは言える。経済活動が停滞することへの焦燥が、感染への畏怖を凌駕し始めたと言えるかもしれないが、大阪に限らず、この感染症の輪郭がぼんやりだが少し見え始めたこともあるし、消毒、手洗い、うがい、三密を避けるなどの対応が常識化してきたこともあるのだろう。倦んできたとか、ストレスがたまりすぎているといった分析を好む報道もあるが、そういう要素は言われるほど社会を覆って、爆発寸前だという観測は見当たらない。


 ただ、大阪の出口戦略が関西経済に希望を持たせているのは確かで、それが解放感につながっている側面は否めない。この大阪人の受け止め方は、例えば段階的解除初日の土曜日となった15日、翌日の日曜日16日の人出でもわかる。例えば、キタの梅田は昨年までの休日に比して明らかに人出は少なく、ミナミのなんばでも同様の印象があった。


 道頓堀は、多くの飲食店が店を開けたが、当然のことながら多数を占めていたインバウンド客もなく、相当にさびしい風景であった。両日ともに天候がよくなかったということもあるだろうが、17日に街の状況を伝えたメディアの多くは、梅田やなんばの光景を中心に「そろり」とか「自粛ムードつづく」、「まず一歩」といった大人しい報告が大勢。一方で、日本一の規模といわれる天神橋商店街は、映像でもハッキリとわかるほど人出は倍増した印象だった。それでもインタビューを受ける店などは、まだ6割程度、程遠いといった感想で一致しており、社会経済活動が元通りになるには相当な時間がかかることは目に見える状況であることに変わりはない。


●科学的根拠がないと大阪モデルを批判するメディア


 関西に住む筆者は、関西メディアは本質的に東京目線であり、“大阪独自”といった政策など評価はしないといったことを指摘してきた。特にそのことが端的に出たのは3月の3連休の前日、19日に吉村知事が「大阪、兵庫間の往来自粛」を呼びかけた際、その理由を国の専門家会議から示されたデータによるものであることが明らかになったときだ。


 当時、専門家会議のデータは公表されておらず(今でもすべて公開されているわけではないが)、東京のメディアが持たないデータに基づいて大阪が判断する妥当性について、メディアは大きく批判した。東京のワイドショーは吉村氏を口を極めて批判し、その実効性を鼻で笑った。しかし、今になってみれば、いわゆる「具体的な自粛要請」はこのときが初めてであり、そのことが大阪や関西の人々のマインドに大きな影響を与えたと筆者はみる。


 緊急事態宣言後、当初、東京のメディアは大阪の自粛度合いを測定するのに、梅田駅周辺のデータを報じた。これは9割近くの減少を示し、全国でも減少率は1位だった。ところがいつの間にか、報道データは「なんば駅周辺」に変わり、関西メディアもそれに応じて梅田中心からなんば中心にシフトした。結果、減少率は新宿駅周辺が最も大きくなった。「よい子」の一番は東京でなければならないという幼稚な視座がわかる。


 こうしたメディアの姿勢は「大阪モデル」に対しても厳しい論調となって現れる。3基準をもとに段階的解除方針が明らかになった15日からは、一応の評価を示しながらも、識者の言葉を借りながら、「科学的根拠がない」という批判が多く伝えられた。その多くの根拠が、3基準が「実効再生産数」の指標が使われてないこと。大阪府や吉村知事はこの計算式や数値がわかりにくく、人々に届きにくいという理由を示しているが、批判するメディアの根拠理由は「海外で使われているから」だ。


 また、「大阪モデル」が失敗に終わり、大きな第2波が来たときには吉村氏は責任を問われるとの観測も強調している。それは当然だし、吉村氏は記者会見で「政策判断は自分の責任だ」と述べている。この感染症の輪郭がもっとハッキリすれば、出口戦略の手探り部分は減るだろう。科学的根拠がつくられるまで戦略判断すべきでないというのは一見まともな見解に見えるが、社会経済活動へのダメージを修復する動きも必要なはずだ。どのくらい経済活動を絞れば自殺者は増えないか、そんなデータがあるのだろうか。自殺者を出さない科学的根拠も知りたい。


●コロナ専門の十三市民病院は22日からスタート


 当初は大阪が先鞭を切ったようにみえたが、コロナ専門病院、病棟の開設は全国でも準備が進められているようだし、一部の民間病院の意欲的な取り組みも報じられている。


 計画として国内初だった専門病院、大阪市の十三市民病院は5月22日に公式に専門病院としてスタートする。第2波に備えた中等症の患者受け入れ施設で、大阪ではこれによって、医療機関のトリアージ機能が活性化することが期待されている。


 スタート時は263床のうち90床で稼働する。病院内を安全区域と危険区域に分けるゾーニング工事も6月初旬には終える見込みだ。この施設の動向については次回に詳報したい。(幸)