5月4日に「緊急事態宣言を全国で5月末まで延長」という決定を聞いたときは「やはり」という感じが強かった。5月1日と2日、東京都の新規感染者は160人を超え「休業要請や外出自粛で本当にオーバーシュートを抑えられるのか」という半信半疑のゴールデンウィークが過ぎていた。
しかし、連休明けから徐々に成果が表れてきた。5月14日の39県での緊急事態宣言解除後、新規の感染者数や死亡者数がどう変化するか。今は、「先生(=都道府県知事)から返却される2週間前の試験(=行動)結果」をドキドキして待っているかのような毎日だ。
■感染爆発抑制の主役は「私たち」
政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は5月14日の提言で、緊急事態宣言の解除や再指定の際に考慮する感染状況の目安として、「①直近1週間の10万人あたり累積新規感染者の報告数」「②直近1週間の倍加時間」「③直近1週間の感染経路不明の症例の割合」を挙げた。
特定警戒都道府県で①をみると、直近では概ね減少傾向にあり、兵庫のように「0.5未満程度」を満たしている県もある。②も4月上・中旬は7~10日だったが、5月17日には160日を超えた。
感染拡大抑制策で考慮される主な要素は、「感染の状況」「医療提供体制」「検査体制」の3つ。
「まだ緩んではいけない」のは確かだが、「感染の状況」を好転させる鍵を握る主役は、私たち国民自身であることが示された。
日本の全人口に対し、現在の8特定警戒都道府県が占める割合は46.6%だ(2019年10月1日現在)。日本全体で感染を抑え込むうえで、各知事のリーダーシップと連携がますます重要になる。
■接触確認は「本人が行動を変える」ために使う
日本の国内感染対応は、クラスター対策期と全国的な自粛期を経て、欧米のような「突然のオーバーシュート」はどうにか免れた。これまでは、感染拡大の抑制と経済活動がいわばトレードオフの関係にあったが、今後は両立の道を探らねばならない。そのためのツールのひとつとされているのが、「接触追跡(contact tracing)」だ。
従来型の接触追跡は、保健当局者が感染者に面談して情報を収集し、自己隔離や濃厚接触者の安全策実施などで「感染の鎖を断ち切る」ことを目指す。ところが、過去数日から数週間に会った相手について正確に覚えている人は少ないし、虚偽の申告もある。そこで、モバイル機器を用い、感染が判明した人に「曝露した人(濃厚接触者)」を自動測定して通知し(digital exposure notification)、次に適切な行動をとれるようにするためのアプリが開発されている。
よく話題にのぼるのは、中国の「健康コード」、シンガポールの「Trace Together」などだ。多くの国が最も過酷な時期を乗り越えつつあるEUも5月13日に、今後の域内移動制限の段階的緩和に向けたガイドラインを公表。その中で、各国に接触追跡アプリの導入を要請した。
接触追跡アプリが効果を発揮するための条件は、「多くの人がアプリをダウンロードすること」「納得して情報提供に同意すること」だ。そのためには、保健当局やアプリ開発者が測定した情報を他の目的に使うことはないという信頼性や、自分の意志でいつでも利用する・しないを選択できる保証が必須だ。また、「新型コロナウイルス感染者」の烙印を押して差別する風潮がある社会では、個人情報が漏れないかとの不安で利用者数も伸びない。適正な運用がなされているか、第三者機関によるチェックも必要とされる。
日本でも「内閣官房テックチーム」で開発と運用方法の検討が進められている。あくまで個人を特定するものではないという意図で、接触追跡ではなく「接触確認」と銘打ったアプリは、5月中下旬に正式な仕様書が確定する予定だ。
NHKとLINEが5月上旬、2,000人を対象に行ったアンケートでは、「COVID-19対策に政府や自治体がスマホの位置情報や検索履歴などビッグデータを活用すること」について、「感染拡大など、危機を逃れる目的なら問題ない」との回答が50.8%と半数強を占めたという。「接触確認」のしくみそのものと説明のしかた次第で、活用の度合いが決まるだろう。
【最新リンク】
◎新型コロナウイルス感染症対策専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(令和2年5月14日)」[2020年5月18日アクセス]
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000630600.pdf
◎Apple/Google「Exposure Notification FAQ May 2020 v1.1」[2020年5月18日アクセス]
◎政府CIOポータル 新型コロナウイルス感染症対策テックチーム事務局「接触確認導入アプリの導入に向けた取組について(令和2年5月8日テックチーム会合資料)」[2020年5月18日アクセス]
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/techteam_20200509_04.pdf
下記より今週の動きが閲覧できます(動画)
https://player.vimeo.com/video/419830943/
[2020年5月18日9時現在の情報に基づき作成]
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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。