5月21日の関西2府1県での「緊急事態宣言」解除に続き、首都圏1都3県と北海道の解除も打ち出された。国内の反応は安堵と不安が半々だ。
一方、CNNを見ると、感染拡大が続くなか全州で行動制限が部分的に緩和された米国では、戦没将兵追悼記念日の連休を迎えて人々がビーチに繰り出し、マスクもつけずに密集している様子が映し出されている。さらに、自国は棚に上げて「日本は景気後退が深刻なため、緊急事態宣言解除に踏み切るようだ」と伝えている。
ゼロリスクではない世界。経済活動とのバランスや政治的な思惑を背景に、どの時点で活動を再開するか、どうやって再拡大の兆候を早くつかみブレーキをかけるかは難しい共通課題だ。
■依然つかみにくい真の感染者数
政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が5月14日の提言で掲げた感染状況の目安のうち、「直近1週間の10万人あたり累積新規感染者の報告数」を5月17日~23日で計算すると、神奈川(0.77)と北海道(0.59)が0.5を超えるが、東京、埼玉、千葉は0.5未満になった。大阪、京都、兵庫は5月20日までの1週間でも既に0.5を切っており、23日までにはさらに低下した(【動画+参照】)
一方、厚労省が把握する「疑似症サーベイランス報告」で、検査実施数における陽性割合を1週間ごとにみると、東京では4月16日~22日のピークから微減、北海道では感染者の再増加がみられた4月下旬に一旦上昇した後に微減という状況だ。大阪は4月上旬から一貫して減少しているが、母数となる検査数が大きく増加しており、一概に比較はできない。
国内のPCR検査数は、保険適用前の1か月当たり2万件から、保険適用後の75日間に40万件超(1か月当たり17万件弱)に増加した。民間検査会社、大学等、医療機関が担ってきた検査(民間分)約15万件のうち、7割が保険適用分だ。
「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の提言(5月14日)で、緊急事態宣言の対象地域は「医師が必要とするPCR検査等が遅滞なく行われる体制が整備されているかも踏まえて総合的に判断する」とされたことから、厚労省は5月19日に各都道府県あて事務連絡を発出。その中で「民間分の検査実施件数を把握できているか」も尋ねた。これは「民間分は国レベルで把握できていない」現状を示している。
また、同じ提言で「医療提供体制の確保、検査体制の構築に当たっては、都道府県の果たす役割が大きい」ことから、国は、「都道府県との連携強化に努める」とともに、「都道府県の医療提供体制に対する逼迫の度合い等や今後の課題等について認識を把握することが求められる」とされた。そこで急遽、厚労省は全都道府県知事に回答を依頼し、同省サイトで公開した。
東京都と大阪府は、検査キャパや直近の検査数と、「疑似症サーベイランス」分との差が大きいことから、民間分の割合が多いものと考えられる。民間分検査の総実施件数および陰性者の人数は現状では把握されておらず、国内の感染実態はいまだにわからない。今後行われる抗体検査と合わせて推計されることになるのだろう。
オックスフォード大学が中心となって運営し、さまざまな社会問題のデータを収集・分析する「Our World in Data」では、各国の検査方針とともにCOVID-19の確定例1例当たりの実施検査数を算出している。ニュージーランド、台湾、韓国は、感染拡大への早期対応と抑制に「概ね成功した」国々ではあるが、検査数を増やせば増やすほど良いとは限らない。フェーズに合わせた検査目的の設定と実務者への徹底、迅速な検査を実現するための体制づくりが必要になる。
■経験を忘れず、国内とグローバルの複眼視で
緊急事態宣言の全面解除で一息つきたいところだが、そうはいかない。最近よく話題にのぼる、1918年から1921年にかけてのインフルエンザパンデミック、いわゆる「スペイン風邪」では、第2波の際により多くの国民が感染、第3波に至ると感染者は少ないものの致死率が高まったという。
国立感染症研究所は、2020年2月1日にCOVID-19が指定感染症となってから5月13日までに「感染症発生動向調査」に報告された15,184例を分析した。同調査上、報告数が最も多かった日は4月9日(627例)、発症の最多は4月1日(発症日判明分のうち404例)だったという。直近の1週間は全国の新規感染者数が10~60台だったことを考えると、ピーク時の医療機関の負担の大きさが改めて感じられる。今年2月からこれまで4か月の経験も、100年前の経験も、ともに活かしていきたいと思う。
今後、国内の感染拡大防止と経済活動のバランスをとっていく一方で、大きな課題となるのは東京五輪開催の判断だ。「スペイン風邪」は、戦時の世界的な兵隊の移動と国内での交通網の発達で拡大したという。オリンピックイヤーでなくても、多くの人が集まるマスギャザリングは感染拡大の契機となる。ラグビーワールドカップ2019日本大会の際も、感染研から全国の健康危機管理・保健所関係者あて「参加国からの輸入例の可能性がある感染症」の一覧が公表され、注意喚起がなされていた。世界レベルで流行しているからこその「パンデミック」だ。「完全な形での実施」を掲げて1年延期したが、自国の状況だけでは判断できない難しい問いに、改めて向き合うことになる。
【最新リンク】
◎厚生労働省「新型コロナウイルス感染症発生下における医療提供体制及び検査体制の現状に関する各都道府県知事の御認識について」[2020年5月25日アクセス]
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00022.html
◎国立感染症研究所「注目すべき感染症 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」[2020年5月25日アクセス]
下記より今週の動きが閲覧できます(動画)
https://player.vimeo.com/video/422345573/
[2020年5月25日12時現在の情報に基づき作成]
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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。