5月31日時点――関西圏、休業要請は6月1日から全面解除


●あらわになった業種別の“世間”の風当たり


 吉村洋文大阪府知事が、新型コロナウイルス対策としての自粛要請解除の段階的目標を掲げたのは5月5日。このいわゆる「大阪モデル」は、5月14日までに達成され、吉村知事は同日、段階的解除方針の具体策を公表し、15日から一部の休業要請解除が行われた。【大阪モデル】※必要に応じて見直される予定。


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  • 新規感染者における感染経路不明者が10人未満
  • 検査に占める陽性率7%未満
  • 重症病床の使用率6割未満

   この基準を7日間連続で達成すれば自粛要請を段階的に解除する。

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 そして、それから2週間を経た5月28日、大阪府は新型コロナウイルス対策本部会議を開いて、一部飲食店や、ライブハウス、カラオケボックスなどに対して継続していた休業要請の解除を決定した。6月1日からの措置で、4月半ばから行われてきた休業要請は「全面解除」となった。兵庫県や京都府も同一歩調をとる。


 休業要請が続いていたのは、「接待を伴うナイトクラブなどの飲食店」、ライブハウス、スポーツジム、カラオケボックスだが、病院や高齢者施設を除くと、大阪でのクラスター発生は初期に報告されたライブハウス、接待の行われるナイトクラブが最も関心を集めたと言ってよい。


 評価や賛否は分かれるところだろうが、ライブハウスは4軒がクラスターだとされ、店名も公表された。この4ライブハウスには、他府県からの来場者も多く、感染は全国に影響した。店名公表は、感染者追跡、濃厚接触者追跡への必要からだと思えるが、一部メディアには批判も強かった。一方で、印象論からすると、公表されたライブハウス側も市民側にもあまり抵抗は強くなかったようにみえる。


 一方で、大阪・梅田のクラブを感染源とするクラスター発生に関しては、国の専門家会議でも強い関心がもたれ、全国的なクラブ、スナックの休業要請体制への認識を強める結果となった。「接待の行われる」という言葉の持つ意味は、持続化給付金の対象が風俗産業にまですそ野を広げる、ある種の国民的合意の後押しパワーにつながった気配もある。その点では、クラスターとしての報告がないにもかかわらず、休業要請への厳しい世論が形成され続けた感のあるパチンコ店は、もともとの法的位置づけの曖昧さが、世論の理解を阻むハードルとなっているようにみえる。


 国民意識のなかに、風俗店は必要があるもの、パチンコ店は必要がないものという漠然とした区分があり、それがコロナ禍のなかで、ひょいと具体化してしまった。そういうことは、例えばスポーツジムでの非正規のインストラクターに対する報酬補償が行われなかったりするのには、社会的に大きな非難が寄せられたのに対し、パチンコ店従業員の生活不安は労働所得の場の喪失という構造問題のなかで語られるという側面も引き出している。


 スポーツジムは、いわば加害者(雇用側)対被害者(非正規従業者)という単純な構図が描けるのに対し、パチンコ店従業者は生活手段としての「やむを得ない」存在というワンクッション置いた理解、つまりコロナ禍の中で一般的にみられる「困窮者」群の中に落とし込む作業が報道側にも無意識的に行われていることを垣間見ることができる。


 コロナ禍は、パチンコ店に関してある意味、明確な位置づけを行えるチャンスだったのかもしれない。世間的にはパチンコ店はギャンブル場としての認識は確立していると言えるが、法的には遊技施設である。歴史学者の故阿部謹也さんは、「日本には世間はあるが社会はない」と語っているが、パチンコ店の位置づけはまさにそうした日本風土に依存した考え方で堂々とまかり通っている。そうして日本のギャンブル人口の大半はパチンコ店に存在していることは、帚木蓬生氏らが従来から指摘しているとおりなのである。


 そこが分かっているから、この度はパチンコ店に対する批判が厳しくなったとみるべきだろう。社会的理解ではないかもしれないが、世間常識の健全性は示されている。この点の矛盾をいつまでも放置するこの国のメディアの不思議さはどうだろうか。大阪にカジノを誘致するということだけで、日本社会はギャンブル依存症に気が付いたらしいのであるから。


 こうした世間的常識が、風俗産業には優しかったのは社会ではない「世間」の存在の幸福な一面なのかもしれない。大阪では、まるで語ることもタブーだったかつての色町「飛田」をレポートするメディアも複数現れた。そこで働く人々への視線はおおむね温かく向けられているが、それだってメディアが「世間」に教えられただけにすぎない。


 大阪のメディアは「大阪目線」で報道することを恥だと思っている。東京目線で語るので、何やら「日本社会」は均一でなくてはならず、「世間」には、とくに地方の世間には疎い。3月の3連休に「大阪―兵庫」往来自粛を呼びかけた際の、専門家会議資料の公表が大阪で行われたときのメディアのヒステリックな非難は象徴的だ。自分たちの取材ソースの「あり方」への関心が第一で、関西住民の感染や健康への関心は二の次なのである。


●プロ野球観戦も視野に


 さて、ここまで全国のコロナウイルス対策をリードしてきた大阪の今後、解決すべき課題は、イベントの規模をどの程度許容するかになる。大きな規模で人が集まる場所には、規制はやはり当面は必要だろう。


 大阪府は5月28日にこのテーマに関しても対策を示した。むろん、これまで示してきた感染防止策の実施を要請するとともに、新たに「大阪コロナ追跡システム」(参照)の導入を公表、そのうえで参加人数や収容率などを示した。


 具体策は2段階。まず6月18日までは屋内イベントでは100人以下、屋外は200人以下。次に6月19日から7月9日までは屋内外ともに1000人以下とし、全国的に人の移動を伴うイベントは無観客であることとした。7月10日から31日までは屋内外ともに5000人以下で開催を認める。また屋内は収容定員の半分以下、屋外はソーシャルディスタンスを十分にとれる範囲内ということが目安となった。


 こうした条件から、6月19日開幕が決まったプロ野球は、当面、無観客で試合が行われる公算だが、7月には観客の入った試合が可能になりそうな気配だ。すでに広島カープは練習試合に少数の観客を入れるお試しを行ったようだが、こうした試みは関西でも徐々に行われるだろう。


 筆者の個人的な関心を言えば、プロ野球観戦が鳴り物入り応援を許容するのかどうか。コロナウイルス対策でのマスク、手洗い、三密回避などを考えると鳴り物は禁止されるだろう。筆者にとって今年のプロ医野球観戦はチャンスだ。とにかくあの騒々しい鳴り物が大嫌いでスタジアムには行かなくなった。しかし、このところ吹奏楽の話題に引っ掛けて、野球応援に鳴り物がないのは寂しいという論調も現れ始めた。筆者には、野球観戦の楽しみ方を知らない「世間」は嘆かわしい。


●緊急事態宣言の関西経済への影響は4兆円近い損失


 5月28日には関西経済をウオッチしているシンクタンク、「アジア太平洋研究所」(APIR)が、「関西経済の現況と予測」を公表している。当然のことだが、レポートの見出しは「弱含みの関西経済にCOVID-19が追い打ち」。以下、要約を示す。


 20年1~3月期の実質GDPは前期比年率▲3.4%(前期比▲0.9%)で、2四半期連続のマイナス成長だった。新型コロナウイルス感染拡大の影響による経済活動の自粛により、民間最終消費支出を中心に民間需要が減少し、財とサービスの輸出も大幅に減少した。


 また、消費税率の引き上げと中国経済の減速に加えて、コロナ禍による外出自粛と外国人観光客の入国規制が追い打ちとなり、景況感やインバウンド関連の指標では統計開始以来、最低となった指標もある。


 関西の実質GRP(域内総生産)成長率は20年度▼5.1%、21年度は+2.6%予測。20年度は記録的な大幅マイナス。21年度は回復に転じるが以前の水準に戻るのは22年度以降。


 緊急事態宣言が20年関西経済に与えた影響は、民間最終消費支出2兆1543億円、民間企業設備8252億円、輸出3兆2118億円、GRP3兆7537億円の損失であり、追加的な失業者は15万7966人に上るとみられる。


 この連載は今回で終了する。約束していた、大阪におけるコロナ専用病院「十三市民病院」のレポートは取材ができていない。機会があれば、この場を借りて詳報させていただきたい。(幸)