5月25日に緊急事態宣言が解除された首都圏。5月末日までの自粛を覚悟していただけに、デパート、ジムなど約1週間の余裕を感染予防対策に充てて営業を再開した施設が多い。「新しい日常」を感じるのは、マスク姿の人波やビニールやアクリル板の仕切りを目にしたり、電車や店内など「密ってる」と思わず避けたりするときだ。
全国的にみても、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況はかなり落ち着いてきた。6月7日は、3月6日以来3か月ぶりに死亡報告ゼロだった。少し気になるのは、わずかずつながら、新規感染と死亡がじわじわ増える北海道。医療機関や高齢者施設等で時折クラスター発生が報告された神奈川県。自粛再要請まではいかないものの、安全な緩和レベルでもない東京都。そして、5月23日以降、急に新規感染報告が増えた福岡県だ。
■明確な理由が見いだせない北九州市の増加
5月14日に厚労省は、「医療提供体制及び検査体制の現状に関する認識」を全知事に照会した。同19日付の回答の中で福岡県の小川洋知事は、感染が落ち着いてきており、「感染症調整本部が患者の受入調整を全県的に実施するなど、医療現場は直ちに逼迫する状況ではない」「医療機関も徐々に通常の診療体制に移行していく」「今後は感染の再拡大に備え、病床の準備など受入体制を備え、患者の症状に合わせ適切な医療を提供できる体制を維持していくことが重要」と述べている。
福岡市で2月20日に初報告があって以来、県内での「第1波」のピークは4月8~14日頃で、経路不明者の割合は51%、4月11日は最多となる1日43人を記録した。その後、新規感染は、4月8日からの1週間平均30人から、5月19日までの1週間平均で0.4人へと減少した。また、北九州市では、4月30日から5月22日まで新規感染ゼロだった。
ところが、5月23日に3人の感染が判明。発熱と全身症状、あるいは呼吸症状があって受診した30代男性と20代女性の軽症例。胸部CTで肺炎像があったものの、入院当初無症状だった50代女性。以後、6月7日まで16日間連続で感染者が発生しているが、5月29日の24人をピークに新規感染は減少傾向にある。
症状別では、無症状が5割弱を占め、4割は軽症か中等症、重症者は約2%だ。年代では20~30代が約35%、70~80代が約25%。市内の複数の小中学校等で報告例があり、5人の児童が感染した小学校もあったが、「校内感染によるクラスターかどうか」の判断は、全国の学校への影響が大きく慎重を期するためか、現段階ではなされていない。
北九州市では、今回の「第2波」が始まる直前、株式会社キューリン(八幡西区)など地域の臨床検査会社に行政検査を一部委託する動きが始まっていた。「新型コロナ以前」、件数の少ないPCR検査を行う地方の検査会社は少なく、全国展開する会社の中央に検体を送って実施することが多かった。
「第2波」を受けて、市は「感染者数が増えることを覚悟で」すべての濃厚接触者にPCR検査を行うことを決定。検査件数を大幅に増やす中で、陽性者数も陽性者割合も減少しているので、感染拡大を抑え込みつつあるといえるだろう。
ただ、「夜の街対策」に力点を置く東京都と異なり、感染者急増の理由は依然不明だ。市中感染が静かに拡がっていたのか。北九州市では6月5日から小中学校の分散登校を実施しているが、本人も親も不安は尽きないようだ。また、感染者や発生した学校への「差別」を避けるため、小中学生の発表にあたっては性別などを非公表にした。
■基幹病院が休診すれば確保病床は激減
全国メディアでは「大阪モデル」や「東京アラート」が大きく報じられたが、福岡県も「福岡コロナ警報」を発出するための基準を設定している。
6月1日以降、福岡県の感染者数は明らかに減っている。感染経路不明者が100%の日もあるが、母数が1桁になったうえでの計算だ。確保病床の稼働率は、重症病床を含め、数字上は余裕がある。6月4日の全国知事会で小川知事は、「感染者が23日ゼロだった北九州市で急増したものの、県内の他地域では殆ど出ていない。市外に波及しないよう全力をあげながら、社会経済活動レベルを引き上げていくことが基本」とした。
北九州市は、九州の玄関口として栄えた歴史をもつ、人口約94万人の政令指定都市で、周囲の5市町とともに北九州医療圏を構成する。
医療圏における人口10万人あたりの①病院数は9.48、②一般診療所数は84.61、③結核・感染症病床数は7.93、④医師数は338.46で、いずれも全国および福岡県の平均を上回る。ちなみに東京都は、①4.79、②92.44、③3.77、④328.31で、東京都の方が多いのは診療所だけだ。
北九州市の「第2波」で、新患受け入れの停止などが判明している病院が6軒あった。特定機能病院、外来透析実施、慢性期病院、3次救急医療提供病院、労災病院など、それぞれに特徴がある施設だけに、受診者への影響は大きい。別の理由で救急搬送された例を含めて、患者が検査陽性となり、診療や看護に携わった医療従事者等の濃厚接触者を検査した結果、複数の感染が判明し休診という流れが多かった。
一度「徹底した行動制限」をした一般市民としては、同じ経験を繰り返さないように、2週間程度ごとに行政が見直す情報をもとに気を引き締め、当面「新しい日常」を続けていくしかないが、医療機関はどうすればよいのか。
日本病院会など3団体が5月7~21日に行った「新型コロナウイルス感染症拡大による病院経営状況緊急調査」で、2020年4月に前年同期と医業収入を尋ねたところ、全体では-10.5%(n=1,203)、「コロナ患者入院受入病院」は-12.4%(n=339)、「一時的病棟閉鎖病院」は-14.3%(n=180)だった。一般診療所も患者の受診抑制傾向で苦しい経営が続いているという。
欧米と比べれば、日本のCOVID-19による死者数が圧倒的に少ない理由のひとつに、高度医療も含めた医療へのアクセスの良さがある。「日常診療の中で必ず感染者がいることを想定して診療に当たればよい」と言うためには、人・モノ・金の手当てや政策上の支援が必要だ。
【最新リンク】
◎福岡県 「福岡県内での発生状況」[2020年6月8日アクセス]
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/covid19-hassei.html
◎日本医師会地域医療情報システム「福岡県 北九州医療圏」[2020年6月8日アクセス]
http://jmap.jp/cities/detail/medical_area/4012
◎内閣官房 新型コロナウイルス感染症対策「全国医療機関の医療提供体制の状況 インフォグラフィックス」[2020年6月8日アクセス]
https://corona.go.jp/dashboard/
◎日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会「新型コロナウイルス感染症拡大による病院経営状況緊急調査(最終報告)2020年5月27日」[2020年6月8日アクセス]
http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20200527_01.pdf
下記より今週の動きが閲覧できます(動画)
https://player.vimeo.com/video/426899078/
[2020年6月8日12時現在の情報に基づき作成]
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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。