今週の週刊ポストは「スクープ入手」と銘打って、『小池百合子の「卒業証書」を現物公開する!』という記事を載せた。経歴詐称が疑われる小池・都知事のカイロ大卒業をめぐるタイムリーなテーマだが、わずか見開き2ページで終る情報量の少なさに、正直、拍子抜けしてしまった。


 小池氏は若手衆議院議員だった1993年当時、週刊ポストに『ミニスカートの国会報告』という連載コラムを書き、そのなかの一話で「(自分の経歴詐称が取りざたされているが)残念ながら私のカイロ大学卒業証書はホンモノ。このページで証明します」と、卒業証書の写真を公開した。目下、ベストセラーになっている石井妙子氏の人物伝『女帝 小池百合子』では、このときの写真を「名刺の半分の大きさで、何が書かれているかまったく読めず、『証明』にはなっていない」と切り捨てているのだが、今回はそれをハガキ大ほどのサイズに引き伸ばし再掲した。


 それでも、アラビア語を解さないほとんどの読者には、その真贋など見分けられるはずもない。記事本文には編集部が翻訳を依頼したカイロ在住の通訳・翻訳家「モハメット・ショクバ」という人物の「見たところ何も疑問点はない」というコメントがひとつあるだけだ。それ以上は「怪しい」とも「信憑性がある」とも言っていない。〈これで真贋論争に決着がつくか〉。そんな結語で判断を読者に丸投げしてしまっている。


 石井氏は82年刊行の小池氏の著書に載った卒業証書の写真、そして2016年のフジテレビ『とくダネ』で短時間映された証書写真(ポスト掲載の写真と同一と思われる)の2種類がこれまで公開されたものだと言い、この両者は大学のロゴマークの違いから明白に“別物”と判別できるという。


 ポスト編集部も、せっかくその一方の鮮明な写真を保管しているのなら、小池氏の“卒業年”前後のカイロ大卒業生を複数見つけ出し、彼らの持つ“本物”と書式・デザインを照合するなどして、それなりの検証も可能だっただろう。だがもはや、そんな取材力を編集部は失って久しいのか。古い写真をただ掲載して終ってしまっている(公開しないよりは、それでもましなのだが)。


 世間へのインパクトという点では、やはり今週も文春砲だった。『佐々木希、逆上 アンジャッシュ渡部建 相手女性が告白 「テイクアウト不倫」』というスクープは、全メディアの芸能記者たちを飛び上がらせる衝撃記事だった。当代屈指の美人女優を妻に持ち、グルメなど多彩な分野で活躍する「好感度芸人」の醜聞で、意外性、話題性とも抜群の記事だった。文春の芸能スクープは、その取材力はもちろんのこと、対象者の好イメージと“裏の顔”の落差が際立っていて、ターゲット選別の際の“猟犬のような嗅覚”において、他メディアの追随を許さない。


 同じ号の文春には『経産省最高幹部と幽霊邦人電通社員 テキサス“癒着”旅行 写真入手』などの“硬派ネタ”スクープもある。芸能界から国会まで毎週のようにこの一誌の報道が世間を振り回す。ライバル誌ばかりでなく、新聞やテレビ、ウェブメディアの記者たちも、たまには一矢報いる意地を見せてほしい。


 紙幅がなくなったが、ジャーナリスト・江川紹子氏と歴史学者・馬場隆弘氏による文春の特別対談『「気持ちいいフェイクニュース」との戦い方』も興味深い。馬場氏による話題の著書『椿井文書』をめぐる対談だが、“文春本”のパブ記事かと思いきや、同書の版元は中央公論新社だった。良書なら他社本でも大きな企画にする。文春ならではの「懐の深さ」を感じさせる。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。