6月1日、社会経済活動が本格的に再開されて2週間。北海道・札幌市の「昼カラ(オケ)」クラスター、東京都の「夜の街」で働く人の集団PCR検査などによる感染判明が目立つものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全国的な感染状況は、4月のピーク時に比べれば低いレベルにとどまっている。現在の一部地域での増加は「あくまで第1波の中での動き」であり、「本格的な第2波とは別物」との指摘もある。


 国内外の機関や職能団体がCOVID-19への対処について作成する指針や手引きも、さまざまな知見の蓄積を反映して改訂され、充実してきており、今後に備えて一読の価値がある。



■患者は退院後も一連の「網」の中でケア


 先週6月12日、厚生労働省はCOVID-19に感染した「有症状者」の退院基準を見直し、「①発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合、退院可能とする」とした(改訂前の14日間から短縮)。「②症状軽快後24時間経過した後、24時間以上間隔をあけ、2回のPCR検査で陰性を確認できれば、退院可能とする」という項目は維持されている。①の根拠は、WHOが5月27日に公表した「COVID-19 臨床的管理のための暫定的ガイダンス」だ。


 WHOのCOVID-19対策は、「感染拡大を遅らせ、止める」「すべての患者に最適のケアを提供する」「流行が医療体制や社会経済活動に与える影響を最少にする」を3本柱にしている。同ガイダンスはこの戦略に基づき、疑い例を含む患者の診療を行っている最前線の臨床医のために作られた。


 通常の診療・診療ガイドラインほど膨大な文献のレビューを行う時間はなかったが、作成グループが遠隔で議論を重ねた。その結果、感染症としてのCOVID-19だけでなく、併存する疾患・症状やハイリスク患者の問題、感染後のリハ、倫理課題まで24項目がまとめられた。


 各項目内には、「緑:強く推奨することや最善の介入方法に関すること」「赤:最善の介入方法に反すること」「黄:条件付きの推奨や、実行にあたって注意を要すること」の簡潔な記載があり、その根拠や背景が述べられている。



 新たに追加された項目で強調しているのは、「local(コミュニティ等)」「regional(地区・地方等)」「National(国)」の各レベルで、疑い例を含む患者のケアと管理の道筋を予め明確にしておくことだ。COVID-19のスクリーニング対象となった人は「COVID-19 Care Pathway」という網(経路)の中から漏らさないよう扱う。


 ここから患者を「release(ケア・管理の網から放す)」する条件が、「有症状者」については「発症から10日を経過し、かつ、3日以上無症状(熱や呼吸器症状がない)」、「無症状者」は「検査陽性から10日経過」、ただし「実際の退院にあたっては患者の状態や既往歴その他の要因を考慮すること」とされた。


 備考には、「専門誌に未公表・未掲載の限定的データではあるが、ウイルスの排出は、軽症患者で最長9日間、入院患者では最長20日間続き得るとの推定があること」「PCR検査陽性が数週間続く患者や、PCR検査陰性から数日~数週間経って陽性となる患者がいること」が記されている。ただし、これらの知見から「10日間」との判断に至った経緯は書かれていない。


 なお、「release=退院や転院等」とは限らない。退院後もリハが必要な患者はこの網の中に入れてケアする。こうした包括的なケアと管理を行うには、多職種や多セクターの協働が必要になる。



■現場主義を貫く日医の外来診療ガイド


 日本医師会の「新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド」も、2020年4月30日の第1版から、ひと月ほどで改訂された第2版で、かなり充実した内容になった。



 日医のガイドは表紙に、「診療所などの外来医が、無理なく新型コロナ感染症に対応できること」「市民の皆さんが安心して普段の外来診療を受けられること」「医療関係者が無事に流行期を乗り切り、次の流行に備えること」という3つの理念を掲げている。


 内容は非常に具体的で、個人防護具の着脱方法や気道からの検体採取に関する写真、各種資料や咳の動画へのリンクなども工夫されている。


 COVID-19に感染した場合、高度専門医療機関が「最後の砦」であるのに対し、地域の外来医は最初の「ゲートキーパー」だ。特に風邪様症状の患者が増える時期には、多くの診療所が否応なく疑い患者を扱うことになる。現場の疑問や要望を吸い上げながら充実させたガイドは、外来医が日常診療の流れを整理して備えるための助けになることだろう。


【リンク】

◎新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(第16回 令和2年6月12日)資料「退院基準等の見直しについて」[2020年6月15日アクセス]

https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/senmonka_sidai_r020612.pdf

https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/senmonka_sidai_r020612_02.pdf


◎WHO「Clinical management of COVID-19 interim guidance, 27 May 2020」[2020年6月15日アクセス]

https://www.who.int/publications/i/item/clinical-management-of-covid-19


◎日本医師会「新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド 第2版(2020年5月29日)」[2020年6月15日アクセス]

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20200610_5.pdf


下記より今週の動きが閲覧できます(動画)

https://player.vimeo.com/video/429473645/


[2020年6月15日12時現在の情報に基づき作成]


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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。