6月19日からプロ野球の公式戦が始まる。今年は60試合程度が望ましいと考えていたが、球界が出した結論はその倍の120試合。米メジャーでは現在、開催の是非を巡って揉めている。本場アメリカでさえ80、あるいは50という数字が報じられているのに比べると、ずいぶん多い。プロ野球ファンとしては嬉しいが、果たして無事に乗り切ることができるのか。そちらのほうの心配が先に立つ。


 変則日程の今季、ペナントレースの行方は、強行日程をいかにして乗り切るかにかかっている。最初に3連戦をこなしたあとは、8月下旬まで同一カード6連戦が続く。火曜日から日曜日までプレーし、月曜に移動または休養をとる。わが国のプロ野球は3連戦を基本として日程を組む伝統だから、先発投手は6人揃えるのが理想である。そして野手はできるだけ固定し出続けてもらうのが常道だ。これに代打、代走の職人を揃えることができれば陣容が整う。


 人並外れた体力の持ち主であるプロの選手にとって、連戦による体力の消耗は織り込み済みだ。問題は精神力。同一カード6連戦は、その地に1週間とどまり、ホテルから一歩も出ない禁欲的な生活を強いられる。本拠地ならわが家で静養できるが、半分の60試合は忍の一字で翌日の試合に備えることになる。そこで羽目を外して感染でもしたら、公式戦はその時点で中止になる可能性さえある。自覚の足りない愚か者がひとりでもいたらアウトだ。


 


 3ヵ月延びたとはいえ、選手は2月のキャンプから戦闘モードをつくる準備をしていた。それを解除してもう一度つくり直すには、並みの精神力ではできない。その意味で2人の選手の去就に注目している。内川聖一(ソフトバンクホークス)と松坂大輔(西武ライオンズ)である。


 6月13日の広島との練習試合を見た。9回1死3塁で代打・内川。外のスライダーを追いかけて3球3振だった。この打席で開幕2軍が決まった。内川はここ数年打撃不振が深刻で、怪我もあり満足に試合に出ていない。今年37歳になる年齢的、肉体的な限界もあるだろうが、気持ちの問題が最大の原因だ。両リーグで首位打者になり名球会入り。強豪チームに移籍して美酒に酔った。燃え尽きても不思議ではない。


 近年とくに目立つのが、ストレートへの対応と選球眼の悪さだ。145キロ以上は大体打てない。内角への速球で構えを崩され、外に逃げる変化球をボール気味に決められるとバットがクルリである。当たっても力のないゴロ。三振、併殺が多くなるのもこのパターンでやられているからだ。技術的な問題というより、何としても打ってやろうという気持ちが以前に比べて格段に希薄になっている。本人は否定しても体は正直だ。それを認めたくないから内川はよく不貞腐れる。こうなると、指揮官はチームの和を優先して外したくなる。ベテランが使いにくいと言われるのは、まさにこういうことがあるからだ。2015年に退団した松中信彦を思い起こす。



 松坂はもう、誰の目にも限界だと写っている。客寄せパンダとしてオープン戦でもあれば資金回収もできたが、無観客でそれも叶わない。押し付けられた辻監督こそ被害者である。内川同様、本人が一番わかっているのに認めない。昨年、呼んでくれた監督・コーチの退団で中日を辞めたまでは常識があったが、古巣の西武にノコノコと戻った。ホークスで3年無駄飯を食らったが、中日で6勝したところでキレイに引退しておけば、まだ「世代」を代表する投手として名を残せた。まるで砲丸投げのように振りかぶるフォームを見ても、肩の調子がよくないことは素人の目でもわかる。


 前述したように、今季は強行日程が組まれたシーズンである。本来なら、ベテラン選手は時々出てレギュラーのバックアップ要員になる大きな役目がある。しかし、気持ちの切れた選手や限界を知りながら我を通そうとするベテランは、ストイックな試合が続く今季に復活することは不可能に近い。


 ボロボロになるまでやることを美化する向きがある。昔、阪神の川藤は給料が減っても試合に出たいと懇願し残留した。それを浪花節と喝采する人がいるが、とんでもないことだ。1軍でも2軍でも支配下登録には限りがある。ゴネて居座れば若手の芽を摘む。実力の世界にそれがあってはならない。見事に立ち直って快打・快投を見せてくれれば問題はない。奮い立つ気持ちがなく、漫然と練習するなら去り際を考えるべきだ。(三)