今週は国会閉幕後の河井克行・案里夫妻逮捕を想定し、文春・新潮ともこの事件の特集を組んでいる。とくに昨年秋、参院選・案里氏陣営のウグイス嬢超過報酬疑惑の一報を書き、追及の口火を切った文春のトップ記事『スクープした本誌だけが知る 「河井捜査を妨害」安倍vs.特捜検察暗闘230日』はタイトル通りの力作になっている。そしてさらにもう1本、渦中の当事者をつかまえた『「もらい事故って感じですよ」 河井案里独占告白3時間』というフリー記者・常井健一氏によるロング・インタビューもある。


 疑惑発覚以後、メディア対応を避け続けてきた案里氏だが、今回は常井氏と対面し、「(地方議員らへの陣中見舞いが)全部『買収』となる、というのであれば、他のみんなもやられてしまう」「私は裁判で勝てますよ」と開き直り、個別の状況には「(夫や秘書に)任せっきりでした」と、知らぬ存ぜぬで通している。検察の強制捜査に腹を立て、衆人環視のなか、突然素っ裸になった逸話をとくとくと語ったり、夫による記者へのセクハラ発覚では「最後までやらないからこんなことになる」と、“セクハラの中途半端さ”をなじってみせたりと、その語り口はとにかく破天荒だ。その“天然さ”はどこか首相夫人・安倍昭恵さんを連想させ、内省や葛藤とは縁遠い性格が察せられる。


 新潮のほうは『ついに逮捕でも検事総長を悩ます 「河井案里」捜査担当検事の自殺』という独自記事をぶつけている。河井夫妻の捜査が本格化する少し前、昨年12月に広島地検の若手検事が命を絶っていて、原因は皆目不明だが、この情報を聞き及んだ案里氏が「自分たちに何かあれば(逮捕されるようなことがあれば)この件を暴露してやる」と検察当局に息巻いているという。


 だが、新潮ではこれよりも、巻頭の特集記事『疫病禍を拡大させた「竹中平蔵」がコロナで潤う! 「GoToキャンペーン」も食い物にする「パソナ」の政治化饗宴リスト』のほうにインパクトがある。今国会終盤、持続化給付金委託の「中抜き疑惑」が火を噴いたが、この一件に電通の下請けとして関与しているほか、“コロナ後”の復興事業にも受注が有力視されている人材派遣大手・パソナの政界人脈にまつわる記事である。


 この会社は“規制緩和の旗手”竹中平蔵会長が学識経験者枠で政府のさまざまな政策立案を牽引し、いざ新たなビジネス環境が生まれると自社で次々と仕事を受注する“政商的立ち回り”で目立っている。東京五輪の膨大な「ボランティア」を仕切るのもこの会社だ。新潮記事は、このパソナの豪華接待所に招かれてきた有力政治家を列挙、とくにいま、新型コロナ対策担当相として注目度の高い経産相・西村康稔氏をその代表格と見なしている。


 文春の人物ドキュメント『家の履歴書』で今週取り上げられたのは、なんとあの「政治ジャーナリスト」スシローこと田崎史郎氏。安倍政権を徹頭徹尾擁護することで有名な時事通信の政治部OBだ。実は以前、私自身も別雑誌の人物ドキュメントで彼のことを書きたい、と申し出たことがある(賛同を得られず実現しなかった)。若き日に成田闘争に加わって逮捕歴もある極左の元活動家が、いったいどのような思想的変遷で、右派色の強い安倍首相の「代弁者」になったのか。その内面の軌跡を知りたかったからだ。


 だが、この文春記事を読む限り、その半生に驚くほど思索の痕跡はない。ただひたすら、あっけらかんと生きてきたようだ。その意味では彼もまた、昭恵夫人や案里氏と「似たような系統の人」に見えてしまう。自身の“転向”や社会規範との対立は、政治を人生のテーマとする人に、重大な意味を持つように思えるが、現実には露ほどもそうした煩悶のない政治家や活動家、関係者も少なくない。むしろ権力の中枢には、その手の人をこそ集める吸引力があるのかもしれない。記事を見て改めてそう感じた。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。