今年の女子ゴルフツアーがようやく開幕した。4日間競技としては公式戦を除いて最高賞金額のアース・モンダミン・カップ (千葉県・カメリアヒルズCC)は6月29日、1日順延となった最終日に渡辺綾香が5年ぶりの復活優勝を遂げた。


 解せないことがある。インターネット中継はあったが、テレビ中継がなかったことだ。コロナ禍による無観客試合だったが、テレビCMに最も熱心な企業の代表格であるアース製薬が主催する4日間大会で、高額の優勝賞金を出すスポンサーが中継費用をケチるとは考えにくい。しかし、アース側は「ネットでやるほうがトータル的には安い費用で済む」と大会会長自身が語っている。それが本音だとしたら、今年はテレビで女子ツアーを見る機会は極めて少ないだろう。国内で一番金を出しているツアー主催企業の発言は重い。



 優勝した渡辺綾香は172センチの長身で、飛ばし屋として有名だ。ややオーバースイング美味に振り下ろすドライバーショットが一番の魅力で、本人もそれを最大の武器と自負している。しかし報道によれば、2015年に2勝して以降、海外に挑戦することを見据えてスイング改造に着手。持ち球をパワーフェードからドローに変えようとして迷路にはまったという。


 先日、シニアプロとアマチュアが9ホールで勝負する番組の再放送を放映していた。オーガスタ2勝のベルンハルト・ランガーが「ゴルフはとても繊細なスポーツだ。スイング軌道が2センチずれるとボールの方向は50メートル変化する」と話していた。2年ほど前に渡辺綾香が出たツアーを思い出す。ティーショットでドライバーが大きく曲がり、2度のOB。打ち直した第5打はスプーン(3W)。下を向いたままフェアウエイを降りていく姿がなんとも侘しかった。


 プロともなれば、わずか数センチのスイングの狂いが生活を脅かす。いいときのスイングはできるだけ改造しないほうがいいと、岡本綾子などかつての名プレーヤーは異口同音に強調する。今大会で予選落ちした渋野日向子に対しても、スタンスを狭くするなどスイング改造したことに対して「去年よりも悪くなった」(デイリースポーツ)と明言している。ちなみに岡本綾子は現在、女子プロ協会から離れていることもあって、その直言内容がいつも面白い。昨年、笠りつ子の悪態を指摘したのもこの人。



 目についたのは、原英莉花、西郷真央、笹生優花の3人が5位タイに入ったことだ。いずれもジャンボ尾崎の門下生。原は昨年初優勝し、親分の存在を改めて知らしめた21歳。抜群のスタイルでファンも多い。西郷と笹生はプロデビュー戦を果たしたティーンエイジャーで、大会終了後ジャンボ邸に直行し練習に向かったという。


 協会の要職に就きながら評判が芳しくない青木功、米国ツアー参戦中の畑岡奈砂などを指導した中島常幸とともに一時代を築いた尾崎将司の名を弟子の活躍で聞くのは懐かしい。指導ぶりはあまり伝わってこないが、本人もまんざらではないはず。いまだに開幕すらしていない男子プロツアー。早くても8月の開催というが、果たして実現するのか疑わしい。ジャンボや中島は青木に加勢して発言する気もないだろうが、コロナのせいばかりではない。すでにスポンサーから見捨てられた印象だ。


鈴木愛のクネクネ

 

 プレーオフの相手は昨年賞金女王の鈴木愛だった。結果的に2日目のショートでの池ポチャが響いたが、さすがに実力者。この人がパッティングの動作に入ると、どんなに遠くても全部カップインしそうな気配が漂う。ヘボな小生が言うのもおこがましいが、パットは多くのプロが言う「練習すれば上手くなる」ものでは決してない。距離に合ったヒッティングの強弱は天性のものが必要だ。野球で言えば、長距離打者だけが先天的に身に付けている飛距離のようなものだ。



 ただし鈴木愛には、プレー以外に言いたいことがある。ショットをミスしたりカップインできなかったときに見せる特有の「身体クネクネ」だ。拗ねたように全身を揺らして悔しさを表すが、とても印象が悪い。小学生じゃあるまいし、そこまで身をよじることもなかろう。悔しさの表現のつもりかもしれないが、ゴルフは我慢が似合う。


 それにプレー終了後の談話である。「話したくないです」「負けたので全然嬉しくない」などと語っていたが、これも見苦しい。正直に話せばいいというものではない。プレーオフ決着直後は渡辺綾香のバーディーパットに拍手を送っていた。その気持ちを口にすればいいではないか。相手を讃える。それだけでいい。2度の賞金女王を誇る第一人者が口を尖らすようでは情けない。年齢的には渡辺綾香と同世代。誠実そうな人柄を思わせる渡辺に比べて、鈴木の態度や物腰、佇まいは女王のそれではない。以前から指摘されていることなのに、まったく改善されていない。


 この国は昔から、トップに立った者の有頂天を諫める気風に欠ける。スポーツは人に見られてなんぼの世界。外見が第一である。この世界の牽引者のひとりだけに、ここはひとつ、岡本綾子のズバリ直言を待ちたい。岡本綾子もぶっきらぼうで決して愛想のいい人ではなかったが、クネクネはしなかった。(三)