小渕経産相の政治資金をめぐる新潮のスクープは、わずか数日で女性大臣のW辞任という急展開を生んだ。安倍首相の“天敵”朝日新聞に対する猛攻を一段落させた後、何らかのバランス感覚が働いてのことか、ここに来て週刊誌各誌は、その矛先を一転して、政権のスキャンダル探しにシフトしつつあるように見える。
ポストが前号から追及しているのは、松山市で特養老人ホームの開設基準をクリアできずにいた社会福祉法人のために、同市を地盤とする塩崎厚労相の事務所が、厚労省を通じて市に開設を許可するよう“口利き”をした、という疑惑だ。
文春に載った政治記者の談話によれば、すでに政治資金の問題を抱える西川農水相と江渡防衛相に加えて、塩崎氏のこの問題についても野党は厳しく追及する構えで、もしさらなる閣僚辞任につながれば、安倍政権は第1次政権と同様の末路にもなりかねないという。
その文春は、安倍首相との親密さを資金集めに利用して、最先端技術のビジネスを試みたものの、結局は破産に追い込まれたベンチャー企業家の存在を『安倍首相と悪徳ベンチャー社長 “裏切りの2ショット写真”』というタイトルで報じている。
これらの新ネタは、新潮スクープほどのインパクトには欠けるが、アベノミクスの失速や消費増税への懸念が強まるなか、盤石かに見えた安倍政権に注がれる視線は、急速に厳しさを増しつつある。
さて、現代やポストが毎号掲載する壮年向けセックス記事をはじめとして、週刊誌各紙に読者の高齢化を意識した誌面づくりが目立つのはご承知の通り。そうしたなか、文春はまさにシニア世代が直面する最大の関心事「死」をテーマにした立花隆氏の「特別語り下ろし企画」をスタートした。
連載タイトルはズバリ『死は怖くない』。サブタイトルには『臨死体験研究、ガン闘病を経て「知の巨人」が到達した究極の死生観』とある。
氏を案内役とした九月のNHKスペシャル『臨死体験 死ぬとき心はどうなるのか』に連動した企画、ということで、好評を博したと伝えられるその番組を見逃した筆者は、中高年読者のひとりとして興味をそそられた。
雑誌連載の初回は、最新の脳科学研究によって死の間際の精神状態「臨死体験」に迫ろうとした番組に沿った内容で、例えばマウスの実験では、心肺停止後も脳の活動が数十秒続くことや、人間の視覚と触覚を切り離せば脳の認識にとんでもない錯覚が生まれること、脳内で本能を司る部分の働きが死の間際、白昼夢のような現象を引き起こしている可能性がある、といったことを簡潔に解説している。
氏によれば、番組放映後、新興宗教的な立場から、「死後の世界」を否定しかねない科学的アプローチへの反発も現れているそうだが、高齢の女性を中心に番組への感謝を伝える異例の反響も続いているらしい。
死を迎えるプロセスは、夢の世界に入っていくのに近い体験ではないか──。今年、74歳になる立花氏は、そんな推論へとつながる今回の探求から、彼自身、死を恐れる気持ちが薄らいでおり、今後も続く一連の番組で、「死は怖くない」というメッセージを伝えてゆくつもりだという。
考えてみれば、高齢者の急増は、宗教ビジネスにとってまたとない商機になりつつあるわけだが、「死と心」を科学的に捉えようとする斬新な視点には、怪しげなオカルト商法の蔓延に歯止めをかける効果が期待できるかもしれない。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所刊)など。