ネットで見つけた世論調査結果がとても興味深かった。JX通信社が調べた購読新聞別の現政権、および東京都知事への支持率である。安倍政権に対する支持率は、産経購読者の86%を筆頭に、読売、日経、朝日、毎日、東京新聞の順で数値が下がってゆく。ある種、紙面のイメージとも重なり合う結果だが、問題はその落差だ。最下位の東京読者に至っては実に1ケタの5%。産経読者とは真逆の意味で極端な数値だった。


 同じアンケートで、小池百合子・東京都知事の支持のされ方はまるで違っていた。“購読紙のカラー”では、ほとんど差がつかないのだ。最高値は朝日と日経読者による55%、以下毎日、読売、東京、産経の順。最低値の産経読者では、支持・不支持が36%ずつ同率だが、それ以外はみな、支持率が不支持率を「ダブルスコア以上」の差をつけて上回った。


 このように“幅広く分厚い支持”を受け、先の知事選は小池氏の圧勝に終わったが、正直な感想を言うならば、私には彼女の持つ人気の「正体」が皆目わからない。4年前、初出馬したときの公約はほとんど反故にされ、「希望の党」立ち上げの失敗も、市場移転問題の結末も“空騒ぎ”の印象が残るだけだ。春以降、コロナ対策でメディアにこそ連日露出するが、東京アラートのレインボーブリッジ照明も、ほんの一時のニュース素材になっただけで終った。7月に入っての「第2波の兆し」には、ほとんど無為無策に見える。


 何よりもこの間に石井妙子氏の『女帝 小池百合子』がベストセラーになり、カイロ大学卒業の経歴疑惑のほか、裏切りや策略に塗れた政治家人生が赤裸々になったにもかかわらず、選挙結果にはまるで影響しなかった。当の石井氏は、最新の月刊文藝春秋に『小池百合子に屈した新聞とテレビ』という手記を寄せ、表面的だった選挙報道への失望を綴ったが、一方でNHKによるアンケート調査結果では、小池氏に欠落する「資質・能力」として、「弱者への共感」を挙げた人が最多(62%)となり、石井氏が訴えた彼女の非情さや権力欲のニュアンスは、ある程度人々に伝わっていたことがわかる。ところが、大勢は彼女に票を投じたのだ。ちなみにこのNHK調査で、小池氏の持つプラス面の「資質・能力」は、「発信力」(82%)がトップだった。


 今週の週刊ポストには、石原慎太郎・元都知事の秘書を務め、石原都政では副知事にもなった浜渦武生氏の独占インタビュー『小池父娘との愛憎50年を初告白 「百合ちゃん、今幸せか?」』が載った。記事によれば、浜渦氏は関西での大学生時代、参議院議員になった石原氏の支援団体幹部として小池氏の父・勇二郎氏と知り合った。勇二郎氏が兵庫の選挙区で衆院選に挑戦した際には、のちに自民党衆議院議員となる鴻池祥肇氏とともに“同志”として選挙運動を手伝った。高校生だった“百合ちゃん”ともこの時期に出会っている。


 ところが、時が流れ、浜渦氏が鴻池議員の秘書になると、日本新党の参議院議員から衆議院転身を図った百合子氏が鴻池氏と同じ選挙区から出馬。このあおりで鴻池氏は落選してしまった。4年前の都知事選挑戦で百合子氏は、縁の深い石原ファミリーともついに対立した。市場問題の都議会百条委で、元知事の石原氏だけでなく浜渦元副知事も批判の矢面に立たされたのだった。


 浜渦氏も小池氏にまつわる報道の「甘さ」に触れ、《結果、彼女の言いたい放題になってしまい、イメージが膨らんでいく。今の彼女は、メディアが作り上げた“虚怪”だと思います》と嘆いている。それでも彼女に集中した都民の票。人々は、彼女の持つパワーが、個人的野心でなく公共の目的に使われる可能性に賭けたのか。一都民として今後さらに4年、“小池圧勝”の行方を見守りたい。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。