7月19日(日)~8月3日(日) 両国国技館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 夏場所(5月24日~6月7日)が中止になり、名古屋場所を東京に移し2500人の観客を入れて開催した「七月場所」。元大関照ノ富士の5年ぶりの優勝で幕を閉じた。無給の序二段まで降格した力士が、番付を上げて、幕の内優勝を遂げた例は皆無。見事な復活劇だった。



 久しぶりに2横綱が揃ったが、鶴竜が初日遠藤(東前頭筆頭)に「腰砕け」という不名誉な決まり手で敗れ、翌日から早くも休場。いきなりミソを付けた。横綱は相手の左足を狙ってけたぐりに出たが、相撲勘のいい遠藤が察知。よけながら鶴竜の右ひじを払いのけると、鶴竜はたまらず崩れ落ちた。


 聞けば、場所前から右ひじを痛めていた由。怪我したところを打ち付けては堪らない。鶴竜はヒールの白鵬と違い、誰もが認める角界一の人格者。悪評はまず聞いたことがない。はたき込んで勝っても土俵上で照れ笑いを浮かべ申し訳なさそうに勝ち名乗りを受ける。そんな人柄で愛されているだけに、わずか1日でのお勤めは寂しすぎた。



 一方の白鵬は10日目まで全勝で天下無敵の様相を呈していた。今場所は評判の悪い張り手・かち上げを封印し正攻法で圧倒。しかし、12日目の御嶽海(西関脇)との一番。立ち合いから一気に出て、寄り切りで勝負ありの流れが一転、土俵際で足が付いていかず突き落としを食らってしまった。


 土俵下に落ちた横綱は、手を貸そうとする御嶽海に目もくれず、茫然。右足を引きずるようにして東の土俵に回り込んだ。支度部屋に去っていくその様は、「明日は休場!」と語っていた。前日大栄翔(東小結)に敗れて勢いを失い、連敗。この時点では1敗の新大関朝乃山と優勝争いを演じると見られていたが、あっさり休場した。



 13日目を終わって、優勝は1敗の照ノ富士(東前頭17枚目)と朝乃山の2人に絞られた。そこへ乱戦に持ち込む力士が現れる。以前は照ノ富士の付き人だった照強(東前頭7枚目)だ。14日目、朝乃山に当てられた小兵力士は、部屋頭の元大関の援護射撃に、前日から真っ赤に燃え上がっていた。付き人にけたぐりを打診して賛同され、意を決して本番に臨む。塩を目いっぱい掴んで撒くそのポーズはイヤミで大嫌いだが、当たるはずのない平幕に戸惑った大関は、2横綱1大関が休場しひとり奮闘する緊張感から、全身が硬くなっていた。


 勝ってドヤ顔を見せる照強に、落胆する朝乃山のコントラスト。この日、照ノ富士は正代(東関脇)に気迫負けして2敗に後退していた。それを見た部屋の後輩は、余計に一杯食わせてやろうと異様な目つきだった。



 そして千秋楽。2敗でトップの照ノ富士に3敗で朝乃山、御嶽海と正代。結びとその前で4人がまみえ、3敗の巴戦を期待する向きも多かったが、照ノ富士が御嶽海を寄り切って賜杯を手にした。5年前はすぐにでも横綱と言われた強者だったが、当時新横綱だった稀勢の里との優勝決定戦(2017年春場所)で敗れてから一気に転落した。両者はともにこれ以降引退、番付降下と苦難の道を辿った。両ひざのサポーターは痛々しく、引退するまで取れることはないだろうが、再び大関まで駈け上ってほしい。



 人気の炎鵬(東前頭6枚目)が曲がり角に差しかっている。14日目に大栄翔に負けた一番は無様だった。まともに立ち会って突っ張りの応酬になったが通用せずに後退。最後は突き落とされて盛り塩の近くでうずくまった。取組後の談話で炎鵬は「情けない」と落胆した。白鵬とは同部屋で当たらない。だから炎鵬は幕内上位の場所では自動的に1敗は回避できるメリットがある。しかし奇策もマンネリ化し、幕内在位が長くなればなるほど対戦回数は増えて、相手の研究が進む。小兵力士の宿命だが、一番怖いのは、このように炎鵬が見せた弱気だ。体格で劣る者が気力を落とせば武器はない。(三)