コロナ禍を受けて多くの病院が苦境に立たされていれる。福祉医療機構の調べによれば、新型コロナウイルス感染が拡大した4月、一般病院の 74.3%が減収(前年同月比)となり、3割以上の大幅減収となった病院も15.8%あったという。


 感染症患者の対応や病棟の受入制限など医療や病院側の事情によるものもあったが、「患者の受診を控える動き」も影響しているとみられている。


 7月以降、感染者が再び急増を始めたことから、医療機関や医療従事者にとっては当面、厳しい状況が続きそうだ(景気のいい話が聞こえてくるのは美容外科くらいだ)。


『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』は、病院にかかる際に注意したい34の事項を記した一冊だ。検査、診察、薬、医師とのコミュニケーションといった分野で、一般の患者の素朴な疑問に答えてくれる。つい余計な心配や思い込みをしてしまう患者の心理を捉えた本書は、おそらく“平時”を想定して書かれている。しかし、コロナ禍における受診を考えるうえでも非常に有用である。


 冒頭は「検査」。高級人間ドックの広告を真に受けすぎるのか、やたらと早期診断・早期発見を重視する人がいるが、本書を読めば、必ずしもそうではないことがわかる。治療や薬と同様に、「リスクとベネフィット」の世界だ。


 多くの一般人が持つイメージは「検査は万能」「検査は完璧」というものだろう。しかし、〈「検査で異常がない」というのは、「今の時点では精密検査や特別な治療が必要な状態ではない」ということは意味しますが、「今後もずっと、まったく心配ない」ということではない〉。100%の精度で異常を検知してくれるわけでもない。


 例えば、コロナ禍で注目された、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査。新型コロナウイルス感染症に対して行うPCR検査は、〈ウイルスに感染している患者さんのうち、約30~70%が「陽性」になる検査だとされています〉という。感染を疑って検査をしても、3割以上は見逃されている可能性があるのだ。体調が悪いのに、「陰性だった」と、仕事に行ったり、遊びまわったりするのは、周囲に病気をまき散らすリスクがある。


 今回のコロナ禍では、誤った検査の使い方も指摘された。都内の劇場で発生した集団感染では、体調不良の出演者に「抗体検査」を行い、陰性だったことから出演させてしまった。抗体がない=今、感染していないではない。しかし、陰性だったことをもって、感染していない“お墨付き”と判断したことも感染が広がった一因となったようだ。


 病院やクリニックにかかる以前に、職場や学校で〈体調が悪いときも何とか踏ん張ってやり遂げることを美徳と考える〉、休むことに〈背徳感〉を抱いてしまう風土も変えていくべきだろう。


■誤解だらけの「セカンドオピニオン」


 受診の抑制状況を見ていると、今は「過剰診断」や必要以上に薬を飲んでしまう「ポリファーマシー」のリスクは減っている可能性がある。逆に怖いのが、必要な治療を受けていなかったり、薬を飲んでいなかったりするケースだ。


 周囲を見渡しても、感染リスクを恐れて本来受けるべき検診を受けていない同僚や、薬を受け取りに行っていない知人がいる(緊急事態宣言の終了後、ファックスによる処方箋の発行を受けられなくなったことも影響しているようだ)。


〈「薬の飲み方」はしっかり守る〉が基本である。独自の判断で用法用量を変えたり、休薬するのはリスクが高い。


 第4章では、時にストレスを感じることもある、医者との上手なコミュニケーションの取り方を指南してくれる。〈目次を用意する〉質問の技法やメモの取り方は、記者さながらで少々難易度が高いが、コツをつかめば、短い時間で聞きたいことが聞けるようになるはずだ。


 医者とのかかわり方では、「セカンドオピニン」は誤解が多い分野のひとつだ。本来、別の医者の意見を聞くのが目的で、〈主治医から紹介状(診断情報提供書)を書いてもらい、それを持って他の医者の話を聞きに行く仕組み〉である。「相談」なので、原則として身体の診察や検査は行われない。


 しかし、なかにはセカンドオピニオンと称して、複数の大学病院を渡り歩く「ドクターショッピング」してしまい、多額の医療費がかかったうえに、混乱を生じるケースもある。セカンドオピニオンは、仕組みをよく理解して上手に使いたい。ちなみに、著者は〈「セカンド」があるなら「サード」「フォース」も……と考えてしまう患者さんもいますが、そこまではおすすめできません〉という。

 

 ワクチンや治療薬がないなかで、7月以降、新型コロナウイルスの感染者が急増しており、当面今の状況が続く可能性が高まっている。医療者側にとっても同じだが、「遠隔診療」「オンライン診療」など新たな医療の使いこなしが、一般患者の重要なノウハウに加わることになりそうである。(鎌)


<書籍データ>

『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』

山本健人著(KADOKAWA 1400円+税)