●医療費への国民的合意を進める装置


 医療は経済上の実態からみれば、実は少し奇妙な位置にいるなぁと思うことがある。これだけの「消費」の実状があるのに、消費税は非課税である。にもかかわらず、「医療経済」という言葉は現実に大手を振っている。


 10月からその消費税引き上げが行われる。世間は軽減税率への対応で大騒ぎだが、非課税とされながら、医療の行程のなかで費消される医薬品には消費税はかかることが、今回はあまり関心を集めていない。患者の段階では非課税ということで、社会は納得しているが、医療界ではその按分が課題として浮上して久しい。


 しかし、医療界も印象論ではあるが、医薬品の消費税課税に関して、今回はそれほど憂慮する動きは大きくはない。むしろ、薬価そのものへの関心のほうが高くなっていると言っていいだろう。高額薬価新薬が医療費財政を圧迫するとの警戒論と、知的産業である医薬品産業、とくに新薬開発企業のモチベーション阻害論とが混ざり合い、それは疾病構造との対比、疾病の位置づけ、新薬開発技術の進捗と将来展望、製薬企業のポテンシャルの測定などの大くくりの各論に分枝し、さらにそれが細かい各論に枝分かれしていく様子が見える。


 その枝分かれが進むと、現実にはそのテーマが何によってもたらされ、何が要因だったのか曖昧にしながら、そこを捨象して細部の各論の具体化・現実化が最大のテーマになっていく要素も孕み始めている。


●日常の消費財となってきた慢性疾患用医薬品


 医療は、端的に言えば病気になってから消費されるものだが、高齢化と健康ブームが「病気」と「健康」を接着させ、病気の「非日常」を日常化し、健康維持と背中合わせの日常をつくり出している。そのために医薬品は、非日常と日常で使い分けるものとの認識が醸成され始めているのではないか。がんや難病系の病気になるのは非日常であり、風邪や頭痛、足腰の痛みなどは日常になりつつある。


 ある意味、慢性疾患は日常の光景であり、そのためのコストは低廉であるべきだというロジックが浸透し始めている。後発医薬品がそのなかで、薬剤費適正化に対する一定のアレルギー解消に役立っている側面がある。高血圧などで、高額な医薬品を使う理由が希薄になり、低薬価品目でいいという感覚のなかにある国民感覚は「消費」財としての位置づけだ。


 さらに言えば、高額の抗がん剤は治療への期待値は多少高くなったとはいえ、絶対のアウトカムを期待するものでもない。慢性期疾患は、「付き合っていく疾患」だとはいえ、寿命が尽きるまでの、消費財だ。治癒したり、長寿への期待は相対的に低下している様子が見えなくもない。さらに、いたずらに医療費を湯水のように使うことに、現在の高齢者には次世代へのツケを残すという認識が広がり始めている。


 そうした幅広い原因、理由、問題意識が前提となっているなかで、後発医薬品の使用促進が加速しているという分析は可能かもしれない。


「医療は医学の社会的適応である」と言われるが、後発医薬品の使用が数量ベースで75%を超える状況は、「医療の社会的・国民的適応」と言える。そうした観点に立てば、すでに後発医薬品使用は常識になり始めているし、常識にかなう経済戦略として認識されていると言える。その「装置」をまだ阻害しているのは何か、という検証に現状は入り始めているのではないかという印象が強くなってくるのである。


 今回のシリーズでは、後発医薬品使用促進の後進地域であるが、後発医薬品を社会常識化しながら、促進を進めようという戦略が窺える大阪をみながら、医療費適正化がそこを核として、どのような展開をみせるのかを展望してみたい。


●ターゲットは後期高齢者


 大阪府は8月までに、後発医薬品使用促進を活性化することを目的に、2018年度までに府内2ヵ所で行ってきたモデル事業を、今年度から府下全域で水平展開する方針を固めている。大阪府薬剤師会の協力を得て、薬剤師の説明等による患者の後発医薬品への変更状況の調査を行い、9月と来年1月にデータをまとめ、来年度以降の予算確保と事業拡大をめざすことにしている。


 大阪府の後発医薬品使用促進事業の結果は、これまであまり芳しいものではない。数量ベースによる使用割合は19年2月時点で75.0%。全国平均を2.5ポイントも下回っている。言い換えると、数量ベースではたぶん全国平均に追いつけないのではないかとの厳しい見方もある。その要因としては、大阪の高齢者には新薬企業への信頼感が強く、後発医薬品への不信感が他地域より強いとの分析もある。


 実は、ここに視点を当てて対応事業も検討されているが、それはこのシリーズのなか中で説明していきたい。ただ、以下の表で説明するように、実はこの傾向は大阪だけの特徴でもない。


 全体は全国平均よりは低いが、使用促進のテンポは他地域にあまり劣ってはいない。15年度末には使用割合は60.2%(全国平均63.1%)、16年度末65.5%(68.6%)、17年度末70.0%(73.0%)だ。全国順位も15年度末41位、19年2月43位と低迷、全国平均との差も少し開いているが、素人目には目くじらを立てるほどかなという印象。


 一方で、関係者が関心を寄せるのは、大阪府内での地域別の落差の大きさだ。使用割合が高いほうからみると、大阪府では最も南に位置する泉南郡岬町は78.5%で全国平均を上回る。ただ、全国平均を超えるのは、岬町に続く豊能郡豊能町(78.5%)、高石市(77.6%)しかなく、残りの36市町村は全国平均を下回る。大阪市はちょうど中間あたりの70.0%で、最下位の豊中市は64.7%。


 17年度の制度区分別の数量ベースの使用割合、後発医薬品薬剤料(単位・億円)をみると以下のようになる。

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                被用者保険   国民健康保険    後期高齢者

使用割合・全国平均 73.0%     74.5%      73.6%      70.7%

薬剤料(全国)   10,092     3,128       2,735      3,708

大阪府・使用割合  70.%     71.3%      69.9%      67.7%

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 全国的にもそうだが、後発医薬品の使用促進でブレーキ的な役割を演じているのが後期高齢者である。その要因が外来調剤にあるとしたら、医療機関には高齢者への変化に対する信頼感が低いため、患者アドヒアランスに関する不安が大きいことを反映している反面、ポリファーマシーの遠因となっていることも推定ができる。


 このため、後期高齢者の適正治療の側面からも使用促進の必要がみえてくる。こうした状況から、大阪府は8月に開催した協議会で、保険者との提携で後期高齢者の使用促進に本格的に取り組む方針を明確にしている。保険者との提携は、厚生労働省が18年3月に、保険者協議会と地方後発医薬品協議会の連携による使用促進策を講じるよう、関係5課長連名通知で促した経緯があるが、実際に両者の連携は現実化しておらず、軌道に乗れば大阪府が先鞭をつけることになる。


 具体的には、後期高齢者が参加するGE体験型小規模イベントを、11月にも八尾市で開催することが決まっている。18年度は今年2月に実験的に豊中市で開催した。この開催経費は日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)が負担することになっており、GE薬協、自治体、保険者の三者連携の様相も帯びる。


 また、協会けんぽは、同けんぽ加入者10人以上の処方者数を数える府内の調剤薬局3680薬局に、「ジェネリック医薬品に関するお知らせ――貴薬局の調剤状況について」を送付する方針で、薬局の積極的な後発医薬品使用説明を促していく方針だ。


 次回は、こうした大阪における保険者と自治体の連携や、モデル事業の水平展開を軸にしながら、後発医薬品促進への期待と課題について考えていきたい。(幸)