イギリスでヘンリー王子とメーガン妃に対する王室内の様子を暴露する本が出版されて話題になっている。ロイヤル・ファミリーのスキャンダルとあって、タブロイド紙がトップで取り上げていた。執筆者はロイヤル・ファミリーに近い人とされているが、ヘンリー王子に取材した話だ、いや、メーガン妃から聞いた話だ、等々、話題になっているそうだ。日本でも内容の一部が報道されたが、暴露本には「ヘンリー王子は兄のチャールズ王子から『あの娘(こ)とはもっと時間をかけたほうがいい』と言われた」と、メーガン妃を差別するような言動をされたことなどがあるらしい。爵位が残るイギリスだし、外国人のメーガン妃がそんな目で見られることもあるのだろう。


 しかし、戦後の日本でも似たようなことがあったようだ。上皇后陛下の美智子さまがご成婚された後である。上皇陛下が皇太子時代に軽井沢の「テニスコートのロマンス」から美智子さまを見染め、ご成婚されたのは周知の通りだ。当時、皇太子殿下がプリンセスを一般国民から選ばれたことに日本中が喜びに沸いた。このときほど国民が皇室を身近に感じ、尊敬を集めたことはなかったのではなかろうか。ニューヨークタイムズ紙は「ジャパニーズ・プリンスがフラワーズ・ドーターと結婚した」と報じ、女性週刊誌が『皇太子殿下が粉屋の娘と結婚』と直訳して、外国紙の見方を紹介していたが、外国紙も大いに好意的だった。


 だが、あまり好意的に見ない人々が一部にいたことも事実である。皇太子殿下が天皇に即位された後のこと。ある週刊誌に『美智子さまが皇居の木を端から切らせた』という批判的な特集記事が出た。美智子さまが周囲に命じて庭園の木を軒並み伐採させたといった内容だった。記事を見たとき、「あっ」と思った。元になった情報がどこから出たかがおおよそ推測されるからである。私がいた週刊誌では反論の特集記事を出せると感じた。今までたびたび皇室ものを書いてきた経験から平民出身の美智子さまに好意的でない人々が一部にいることを知っていたからで、そういう人たちは美智子さまが1本の木を切ったり、枝を落としてもらったりすると、針小棒大に言いふらすことがあるのだ。


 どういう人たちかというと、女子学習院の同窓会に「常盤会」というのがあり、そのなかに旧華族の子女がいて、皇太子殿下が平民の、それも学習院ではなく、下々では名門とされるのだが、双葉から聖心女子大卒の美智子さまをお妃に選ばれたことに不満があるようだった。彼らには家柄のよい旧華族から選ばれるべきだという明治以来の発想があった。そういう人たちの一部が美智子さまに批判的だったのである。


 たとえば、美智子さまが今上陛下である浩宮を出産されたとき、美智子さまは旧来の乳母による授乳を拒否し、自ら母乳で育てる、と主張し実行された。このときも国民は当然のことと喝采した。上皇陛下が美智子さまを支持されたことで騒ぎにはならなかったが、常盤会のメンバーの一部には不満があったと聞く。こういうことがあるから美智子さまが皇居の木を端から切らせたという話の出所がおおよそ推察できたのである。


 当然、特集記事の筆頭は反論記事になると思ったが、編集会議では「ある作家から『反論執筆したいが、協力してもらえないか』という申し出があったので、作家に書いてもらうことにする」ということになった。


 今では想像つかないが、美智子さまはロイヤル・ファミリーにありがちな目に見えない批判にさらされたようで、苦労も多かっただろう。今日、日本の皇室にはイギリス王室に関する暴露本のようなことがないのも、皇室批判は右寄りの人たちから攻撃されるから、ということだけでなく、美智子さまの忍耐と苦労されてきたことが多分にあるように感じられる。(常)