「スマホの料金が高すぎる」


 そう言われたのは2年前である。菅義偉官房長官が「外国と比べて高すぎる」と4割の値下げを求めたのが発端だ。早速、高市早苗総務大臣が解約違約金を1000円に引き下げさせたり、SIMロックを解除しやすくしたりした。


 政府もたまにはいいことをすると感心したが、2年経った今、ちっとも「安くなった」という声を聞かない。NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社の寡占状態も変わらないらしい。一体、どうして安くならないのか。何かカラクリがあるのだろうか。


 実は、高市総務相のスマホ料金を引き下げさせる方法に気にかかることがあった。高市総務相は携帯電話会社が機種と通信料がセットにしていることを問題視、機種と通信料を別売りにするように迫った。通信会社は機種の代金を通信料に含めて回収しているため、料金が安くならないという論理で、機種代金と通信料を別にすれば携帯料金は安くなると、当時、新聞・テレビが大きく報じた。


 確かに、3Gがスタートしたとき、携帯の販売ショップは「電話機ゼロ円」、家電量販店は「1円」と謳い、契約を集めた。むろん、電話会社は機種の代金を2年から3年に分割し毎月の通信料に上乗せして回収していたから、機種の代金と通信料を別にすれば、スマホの料金は外国並みに安くなるように見える。


 だが、この論法を不審に思ったのだ。というのも、もう大昔になるが、世界で電話が普及し始めたとき、日本では遅々として広まらなかった。この違いは何なのか。日本では電話は当時、逓信省(戦後、電電公社に分離し、現在はNTT)が扱い、アメリカでは民間会社のAT&Tが担当した。政府と民間会社の違いはあるが、どちらも独占体制である。だが、日本では電話機を高額なまま販売したため、大金持ちでもないと電話機を買えない。当然、電話を持っている人が極端に少ないため、電話をする相手もいなかったから普及しなかった。ところが、アメリカではAT&Tは高額な電話機を無料で各家庭に配ったのだ。無料だからみんな電話機を持つことになり、必然的に通話する相手がいるので盛んに電話をするようになった。むろん、AT&Tは通話料がバカバカ入り、大儲けしたのは言うまでもない。


 日本で3Gが始まったとき、携帯電話会社はAT&Tを参考に携帯端末をゼロ円にして契約を集めた。ただ、AT&Tと違うのは、日本の通信会社は機種の代金を通信料に含めて分割で回収したことだ。代理店への手数料も通信料に含めた。それでも端末機種が安かったため、3Gの携帯は多いに普及した。だが、4Gでもこの姿勢は変わらなかった。この辺りがスマホ料金の高さに直結しているのではなかろうか。


 電話もスマホも基地局や通信施設など初期投資は巨額に上る。だが、完成後は維持費だけになる。AT&Tは通信料を安くして使用を増やすという薄利多売で儲けたが、日本の携帯会社は通信料を据え置くことで回収を図った。さらに他社からの乗り換えに鎬を削った。料金を安くすることで他社からの乗り換えを促さなかったことが、日本の携帯の通信料金が外国と比べて高止まりしている原因なのではなかろうか。


 いま、高市総務相の指示で、携帯各社は機種を別売りにしている。ファーウエイは5万円と7万円、シャープは5万5000円などと言った具合で、即金で買うか、分割で買うかを選ばせている。客は大概、2年程度の分割で買うから通信料と合わせると以前とちっとも変わらない。むしろ、通信会社はメーカーから大量に買うことで1台当たりの携帯の仕入れ値を安く仕入れて利益を上げているかもしれない。


 機種を別売りにすれば、安くなるわけではない。機種の別売りではなく、純粋の通信料の利益から機種の代金を回収させることにしないと料金は安くならないのではないか。総務省の知恵者が機種を別売りにすればよい、と総務大臣に入れ知恵したのではないか、と勘繰りたくなる。(常)