先日、テレビを見ていたら「山を買うのがブームになっている」という。てっきり保守系の人たちが問題視していた中国人による山林買い占めかと思ったら、さにあらず。都心に住む30代後半から40代の人たちが買っているというのである。理由は第一に安いことだ。もちろん山を買うといってもひと山そっくり買うのではなく、ごく一部分だけを買うという話である。長野県や岐阜県の山の中の少し平らな部分の100坪とか500坪を20万円で買ったとか、120万円で買ったとかいうものだ。嘘か真か、テレビでは地元の人も若い人が来てくれたと喜んでいるという。


 2番目の理由は多くのグループが来るキャンプ場や河川敷と違って「自分だけのバーベキューができる」ことで、これが山を買う最大の魅力だという。


 まぁ、テレビのことだから企画がなくていい加減な話をオーバーに伝えたということもある。かつて親しい大手新聞社会部のベテラン記者とある事件の話をしていたとき、「お宅の系列のテレビではちょっと違うことを言っていたよ」と言ったら、ベテラン新聞記者氏は「あぁ、テレビはジャーナリズムじゃないからね」と平気で言うのだ。思わず、「じゃあ何なの?」と聞くと、彼は「テレビはマスメディアだよ。マスメディアとジャーナリズムとは別ものだからね」と答えた。


 確かに彼の言う通りだ。下らない番組や下品な番組が時々ある。そんな番組を週刊誌や新聞がからかったり、問題視したりしても、当の番組プロデューサーは蛙の面に何とやらで平気だ。何の痛痒も感じない。いや、むしろ、プロデューサーは喜んでいる。批判されようが、問題にされようが、話題になりさえすればいい、という発想だ。とにかく番組が話題になりさえすれば、スポンサーが多くつくことになり、テレビ局の収入は増えるし、番組もゴールデンタイムに格上げされる、というのである。昨今、大学で文系学部だが、マスメディア論などを講義している教授や准教授がいる。学生にも人気があるそうだが、一体、メディア論の講義とはどんなことを研究発表しているのだろう。


 話を本題に戻す。山の中でバーベキューとは、確かに空気はいいし、焼いた肉や野菜もうまいだろう。山を買った人はテントを張って1泊したり、手作りでブランコをつくり子供たちが楽しんでいる。新型コロナの時代にぴったりの生活で、ご本人は「家族で過ごす時間が増えた」と言い、「夫人はブルーベリーや梨の木を植え野菜を育て、新鮮な野菜、果物を食べられる」と満喫ぶりを話していた。レポーターは「心配は熊が出るかもしれないことくらい」と言っていたが、山の中で家族そろってキャーキャー騒いでいたら、熊のほうが出てくるのを遠慮しそうだ。


 だが、心配すべきなのは、熊よりも失火のほうではなかろうか。カリフォルニアの山火事ほどではないにしても、山火事が発生したら、大変だ。その場だけでは済まず、隣接する山にも広がる。消火は水を掛けるだけではなく、周囲の樹木を切り倒し、草を刈り、延焼を防ぐしかない。それも風がない場合だけである。カリフォルニアのように強風が吹いたら手の施しようがない。


 かつてゴルフ場の経営雑誌を担当したことからゴルフ場開発のコンサルタントを経験したことがある。昭和40年代に第1次ゴルフブームが起こったとき、あちこちにゴルフ場がつくられ、山林の乱開発が進んだことで、大規模開発に対する規制が厳しくなった。その結果、ゴルフ場をつくりたい開発会社のためにコンサルタントをする仕事だ。


 内容は大規模開発規制法や林地開発規制法、農業振興法などの規制に沿った計画をつくり、土地所有者が望めば、代替え地の確保と造成を行い、提供する。さらに地上げ屋との調整、設計者との打ち合わせや図面作成もするし、土木会社との調節や指導に加え、会員募集のアドバイスなどのお手伝いである。ゴルフ場としては27ホールが経営上、一番効率的だが、18ホールにしても、ゴルフ場は広大な面積を要する。


 山や谷がいくつもある。そんな山の中に何度も入るのだが、大概、そういう山の山頂には国土地理院の三角点がある。測量するためのもので一等三角点は絶対に動かすことはできないが、ゴルフ場用地の中にある三角点はたいがい3等三角点だから許可を得て移動が可能である。そんなとき、国土地理院に移動予定地を記した航空測量図を提出し、職員に来てもらい移動を現認してもらうのだが、山の所有者や開発会社側の役員か担当者に同道してもらうことになる。そんな具合で、山に入ったとき、途中で一行はひと休みするが、休憩中に一服する人もいる。


 ここからが大事なのだが、喫煙者は吸い終わったタバコを靴で踏み消して歩こうとする。だが、山の所有者や国土地理院の職員はそれを注意するのだ。山の中でタバコを吸ったときは、吸殻をもみ消せばよいのではなく、必ず穴を掘ってその中に消した吸殻を入れ、土をかぶせてからさらに靴で踏みつけなければいけない、というのである。もし踏みつけが不十分で火が再燃したら山火事になる、という意識だ。ことほど山を利用する人たちは火について気を付けているのである。


 山を買って自分だけのバーベキューも結構だが、残り火の後始末は大丈夫なのか心配になる。林業経営者や山を利用する職業の人にとって、山というのは火に十分すぎるほど気を付けるものなのである。テレビはブームだといって喜んで放映しているが、山の中のバーベキューなど、どうみても歓迎すべきものではない。


 付け加えれば、カリフォルニアの山火事の原因のなかに、山の中に家族、友人が集まり焚き火をしてお祝いをしていたという行為があったと報道されている。昔から「地震、雷、火事、親父」と言う通りである。(常)