早いもので、NHK朝ドラの面白さを久々に味わった『あまちゃん』放映からもう7年。脚本家の宮藤官九郎氏はその後、大河ドラマ『いだてん』でも手腕を発揮したが、主演女優として初々しい魅力を振り撒いた能年玲奈さんは、所属事務所との関係がこじれ、独立後「のん」と改名してテレビCMに出たり、声優の活動をしたりしているが、本格的な女優活動は“目に見えない制約”によって八方塞がりのままだ。


 こうした「のん」さんの事務所問題を2015年に報じた週刊文春記事について、最高裁は7日、事務所への名誉棄損に当たるとして、計440万円の損害賠償を支払うよう命じた高裁判決を支持、文春の敗訴が確定した。これに対し、今週の文春は『「能年玲奈はなぜ消えたのか」 判決確定 本誌はこう考える』という記事を掲載した。


 それによれば、判決では、5年前の記事にある「彼女の逼迫した経済状況」「希望しても仕事が入らないこと」「社長のパワハラ」についての言及が「事務所と対立する能年側の主張に基づくに過ぎない」と判断、記述の「真実相当性」を認めなかったという。


 一方で今週の文春は、近年の芸能界の傾向として、ジャニーズ事務所による元スマップメンバーへの「活動妨害」の疑いに、公取委が注意を与えるなど、事務所とタレントの関係に変化の兆しがあることに着目する。「のん」さんのケースはまさに“前時代的な芸能界”を象徴する出来事であり、最高裁判決がこれを容認してしまうと、せっかくの業界正常化の動きに水が差されるのでは、と懸念を示すのだ。


「のん」さんの場合、声優として出演したアニメ映画『この世界の片隅に』でも、絶大な高評価を集めるなど、その才能は本来、引く手あまたのはずなのに、所属事務所による水面下の牽制が各方面にあるのだろう、事実上、女優業での活躍は道が塞がれている。「能年玲奈」という自身の本名さえ名乗らせない仕打ちにも、異様な陰湿さを感じる。今回の訴訟はあくまでも文春と事務所の問題で、彼女の現況とは無関係な話だが、タレントと事務所との関係、ということの本質に目を向ければ、退所後の活動まで制限する嫌がらせには、厳格にこれを違法行為とする措置が必要だろう。


 日本学術会議の問題は、新会員6人の任命拒否をめぐる議論の核心と、学術会議そのものに問題が山積する、と吹聴する自民党側の宣伝が混沌と入り混じっているが、後者に関しては、学術会議と無関係な学士院会員の終身年金を、フジテレビの解説委員が学術会議の「利権だ」とこじつけたり、中国の千人計画に「積極的に協力している」という国会議員ブログが元会長にデマ認定されたり、欧米各国の科学アカデミーに国費は払われていない、などと事実と真逆の著名人ツイッターが拡散したりと、ことごとくその論点がデマ塗れなことが嘆かわしい。


 このグロテスクな状況を、週刊ポストは『学術会議“解体計画”の先に待つのは“令和の文化大革命”か──菅義偉の因縁深き「学者嫌い」』、週刊文春は『学術会議ウソ情報がバレて菅首相「国会答弁」猛特訓』という記事を載せ、批判的に見ているが、新潮は『「学術会議」会員もいる! 日本の科学技術を盗む「中国千人計画」』というトップ記事で、“ネット右派世論”に迎合した誌面を作っている。ポストの版元はSAPIOと同じ小学館、文春も言わずと知れた保守雑誌であり、そもそも今回の泥仕合は、保守であれ、リベラルであれ、憂うべき事態だが、新潮はあくまでも政権に寄り添うスタンスを貫く。反知性主義の行き着く先に、出版産業の未来があるようには到底思えないのだが……。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。