またまた「学術会議」問題の話である。国会が開会するや、野党がここぞとばかり攻め立てている。その野党の質問に対し、菅義偉首相の答弁ぶりはシドロモドロで、これがわが国の首相なのか、と思うと情けなくなる。


 なにしろ、6人を任命しなかった理由は、相変わらず、「個人情報だから」と回答を拒否しているが、その任命拒否の判断では「女性が少ない」と回答したら、「かつては女性会員は1%だったが、現在は38%に達している」と逆襲されている。新聞報道では「菅内閣の女性閣僚数より、多い」と書かれている。菅首相が「会員の(出身や所属する)大学に偏りがある」と言えば、「任命されなかった6人には私大出身者が多いし、初めて会員候補になった大学もある」と反撃されている。聞いていると、まるでバカではないのか、とさえ思えるのだ。


 一体、誰がこんな答弁書を首相に渡したのだろうか。内閣府には文部科学省出身者もいるはずだ。学術会議が提出した105人の会員候補の名簿、任命しない6人の名簿を見れば、女性会員数や東大ばかりではないことが子供だってわかるはず。こんな幼稚な答弁しているようでは首相の器が問われる。


 しかも、驚いたのは、菅首相が「名簿を渡されたのは杉田(和博・官房)副長官からだったと思う」と答えたことだ。少し前から「杉田副長官が安保法制など政府の方針に反対した6人を外した模様だ」と報道されているから、やはり報道が事実だったということを裏付けた発言である。


「首相が任命する」という建前になっているにもかかわらず、こんなことが罷り通っていいのだろうか。首相から「この人はどういう人ですか」と聞かれて答えるのならわかるが、首相より先に官房副長官が任命しない人をより分けているのだ。今まで菅内閣と思っていたが、これでは菅内閣ではなく“杉田内閣”であり、杉田氏は“影の首相”ではないか。


 思わず、4年前のトランプ政権初期のスティーブン・バノン氏を思い出した。周知のようにバノン氏はトランプ氏が民主党のヒラリー・クリントン氏と大統領選挙を争っていた2016年にトランプ陣営の選挙対策チーム本部長に就任。トランプ氏が大統領に就任するや、ホワイトハウスに新設した首席戦略官に任命される。さらに国家安全保障会議のメンバーになり、国務長官や国防長官と列する立場だった。


 しかも、トランプ政権が実行したパリ協定からの脱退、メキシコとの国境に壁を築くことを進言していたから、“影の大統領”とか“バノン大統領”などとマスコミから言われた。すると、生来、自分より上に立つ人物を認めないトランプ大統領は、バノン氏を首席戦略官から解雇。政権から追い出した。


 では、わが菅首相は杉田副長官の処遇をどうするのだろう。首相より先に学術会議会員の名簿から6人を外し、「任命すべきでない」と首相に進言した杉田副長官はバノン氏と同じような立場だ。しかも、わが政府の安全保障会議でも閣僚とともに出席し、会議をリードしているのである。果たして菅首相はトランプ大統領がバノン氏を解任したように杉田副長官を解任するだろうか。それともそのままにするのだろうか。


 解任しなければ、いや解任できなければ、杉田副長官は裏で首相を操る“影の首相”のまま、なお生き残ることになる。これこそ、菅首相の真価を問われる問題だろう。トランプ大統領が大統領選に敗れただけに、かえって気になる。(常)