冬本番を間近に控えて、新型とコロナウイルス感染症が再び勢いを増してきた。日本では1日に当たりの感染者が1000人を超える日もあり、欧州では再びロックダウンや夜間の外出規制が始まっている。
執筆時点(11月上旬)で、日本人が摂取できる新型コロナウイルス感染症のワクチンは存在していない。ワクチンができても効果が持続しない可能性もあるし、ワクチンができない可能性もある。治療薬についても「レムデシビル」「デキサメタゾン」が承認されているものの、効果を疑問視する声もある。
コロナ禍にあって、子を持ちたいと考える夫婦にとって不安要素は多い。「アビガン」のように、新型コロナウイルス感染症に関連する効能・効果が期待されつつも、妊婦には使えない薬もある。
『産婦人科医が伝えたいコロナ時代の妊娠と出産』は、さまざまな不安を払拭し、〈自分の希望とその優先順位、そして年齢〉を考慮した“妊活戦略”を考える際に有用な1冊である。
コロナ禍にあっても、各種検査やさまざまな感染症への対策、事前に接種しておくべきワクチンなど、妊婦ができることは基本的にはコロナ前と同じだ。しかし、平時と違う部分もある。
本書で大きく取り上げている「産院選び」は、環境が大きく変わった要素のひとつ。
食事やサービスが充実している小規模なクリニック、医療面の態勢が整っている大規模の総合病院など、普段からさまざまな選択肢があるなか、コロナという新しいリスク要因が加わったことで、選び方はより複雑になった。
総合病院の場合、感染が疑われる高熱の患者が受診することもある。実際、コロナの感染が広がって以降、〈感染リスクが気になるため、安全を考えて小規模の産婦人科しか扱っていない産院を選ぶという人も出てくるように〉なったという。
小さな産院の場合、感染が疑われる患者が来院する可能性は低くなるものの、もし妊婦が感染すれば別の施設に移されるだろう。感染病棟があるような総合病院なら、感染しても病棟を移って対応してもらえる可能性が高い。
産院のスタンスは施設ごとに異なるので、事前によく確認しておくこと。
産院に限った話ではないが、コロナ禍で面会など人の出入りを制限している病院やクリニックは多い。感染症のリスクは制限している産院のほうが小さいが、立ち合い出産や面会できることを優先するなら、人の出入りを過度に制限しない産院を選ぶという考え方もある。
緊急事態宣言中は、分娩時に妊婦にマスク着用を求めた産院も多かったようだ。想像するだけで苦しそうであるが、やむを得ない部分もある。
■「里帰り出産」のリスク
とくに注意したいのが、かなりの数(一説には半数とも)とみられる「里帰り出産」である。妻の実家の近くでの出産は、親が何かと面倒を見てくれたり、無理を聞いてもらえたりと妊婦にとっては心強い環境だ。
しかし、再び緊急事態宣言が出されたり、現在住んでいる地域や出産予定の実家周辺で感染が広がったりすれば、移動がしにくくなる可能性もある。ルール上はOKでも、東京など大都市から感染者が出ていない地域への帰省が嫌がられるケースもある。
実際、〈緊急事態宣言が解除されたあとも、日本産婦人科感染症学会では、長距離の移動自体がリスクであるため、感染終息まではなるべく里帰り出産を自粛することをすすめています〉という。
なお、感染者が出産したケースでは、感染が広がるのを避ける意味で、帝王切開が基本になりそうだ。実際に、新型コロナ感染症患者が出産した北里大学病院でも帝王切開が行われたという(このケースでは、子への感染はなかった)。
本書では、コロナ禍で始まった新しい法律や制度に加えて、妊婦が受けられないワクチンや、感染者が子への感染を避けつつ母乳を与える方法など具体的なケースがふんだんに紹介されている。しばらく待つのか、今までどおり妊活を続けるのか、さまざまな選択肢があるなかどう産むのか。コロナ禍で妊娠・出産を考える夫婦は読んでおいて損はない。(鎌)
<書籍データ>
宋美玄著(星海社900円+税)