約四半世紀前、衆議院議員選挙に小選挙区制が導入された背景には、「政治とカネ」にまつわる相次ぐ醜聞への危機感が存在した。同じ党の政治家が競合する中選挙区制度では、どうしても飲食の付き合いや旅行など後援会活動が過熱して、その資金調達のため、“違法なカネ”に手を出す政治家が跡を絶たないのだと。政治家個々人の倫理より、システムの「欠陥」を強調する議論には、「論点ずらし」の意図も透けて見えていたが、それでも当時の政治家はまだ、世間の“不信の目”をそれなりに気にしていた。


 しかし今ではもう、「政治とカネ」の問題は刑事事件に発展しない限り、政治家の致命傷にはなり得ない。もり・かけ・さくらなど、前政権の“疑惑”にしたところで、コアな支持層は追及する側をむしろ非難、選挙結果にも影響は出なかった。米国の政治潮流とも共通する「対立と分断」のなせる業である。少なくとも政権支持層には、「あるべき政権の姿」を問うことより、「敵対勢力への憎悪」が勝ってしまうのだ。かつては与党の支持者でも、ことと次第では“お灸をすえる投票行動”をしたものだが、そんな風景も今は昔。もはや、与野党伯仲さえあり得ないほどに分断は固定化し、腐敗を牽制する手立ては見当たらない。


 今週の週刊新潮は、『「利権の島」に血税120億円が消えた! 防衛省「馬毛島」買収に暗躍した「加藤勝信官房長官」』という疑惑をスクープした。米軍空母艦載機の発着訓練場として国が買い取った鹿児島県の島で、地権者の企業は当初買収でなく、政府との賃貸借契約にこだわったため交渉は難航していたが、この企業に債権を持つ加藤官房長官(当時は内閣府特命担当大臣)の関連企業が、両者の間に入り、45億円という土地評価額だったこの島を160億円で国が買い取る契約をまとめ上げたという。交渉のプロセスには、加藤氏本人のほか官房長官時代の菅首相の名も登場する。記事はこの取引を《売買の立場は逆とはいえ、「森友疑惑」同様のきな臭さが感じられる》と評している。


 月刊誌の『文藝春秋』にもノンフィクション作家・森功氏の疑惑追及記事が載った。『破産した弟がなぜJR企業の役員に? 菅首相と慶応大卒弟のJR“既得権益”』。菅首相は若き日に運輸族だった小此木彦三郎代議士の秘書になった関係で、JR東日本初代会長の住田正二氏や松田昌士元社長らとのつながりが深かった。3歳下の弟・菅秀介氏はその縁もあったのか、繊維商社を脱サラ後、菓子店を起業、東京駅のキヨスクに2つの店舗を持つことになったという。しかし、この会社は放漫経営のため2002年に倒産、秀介氏も自己破産してしまうが、氏はそのわずか半年後にJR東日本の子会社の駅ビル運営会社に職を得て、10年には重役にまで上り詰めている。


 森氏の直撃に対し、秀介氏は「兄とは関係ない」とその支援を否定したが、森氏は「秀介の話にはウソが多い」として、彼の就職や出世には、菅首相による口利きがあったと結論付けている。《弟がピンチを迎えるたび、自らの政治力で助け、尻拭いをする。それが菅の唱える「自助、共助、公助」なのだろうか(略)菅義偉が自ら醸し出す世襲議員でない“庶民宰相”のイメージは、私にはない》。辛辣にそう綴っている。


 しかし、これらの報道も、コアな政権支持層に響くことはないだろう。文藝春秋の同じ号に、ノンフィクションライター石戸諭氏が『中国「千人計画」デマに踊る国会議員たち』という記事を書いている。それによれば、読売新聞の世論調査で日本学術会議問題への政府対応に「納得できない」とした回答は47%、これに対し「納得できる」とした人も32%にのぼった。政権からは何ひとつ理由が説明されていない6会員の任命拒否。にもかかわらず、一定数の人は理由など関係なくこの措置に納得しているのだ。石戸氏はこの約3割の人々を、「学術会議が中国に軍事協力している」というネット上の根拠なき陰謀論を信じ込んでいる「コアな政権支持層」と見なしている。


………………………………………………………………

三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。