プロ野球は11月25日の日本シリーズ第4戦で幕を閉じた。新型コロナウイルスの感染拡大で開幕が6月19日と大幅に延びたなか、ソフトバンクホークスが選手層の厚さを見せつけて予想通り実力を発揮、パリーグ初のシリーズ4連覇を達成した。


危機的なリーグの実力差

 

 パリーグ愛好家でホークス贔屓の筆者にとって、この結果は予想通りだった。今季のパリーグは、同一カード6連戦が10週間にわたって続き、その後も6日間にカード3連戦を2回組み込む強行日程。札幌から福岡と国内を縦断する移動は、東名阪と広島のセリーグの比ではない。



 このスケジュールで勝ち抜くには6人の先発投手が必要で、ホークスを除けば他の5チームは4戦目あたりから経験不足の投手を先発に起用しなくてはならなくなる。ホークスは開幕投手の東浜を筆頭に千賀・石川の右腕3人、和田・ムーアの左腕が続く。この時点で他球団を圧倒する。6人目は相手も駒不足で格落ちの投手が出てくるから打撃戦になるが、5戦戦って勝ち越せば、ここで負けても痛手にならない勘定である。開幕当初から9月までは苦戦の時期があったが、最後は12連勝でその勢いのまま巨人を寄せ付けなかったのが、なによりの証拠だ。


 日本シリーズで年をまたいで同一チームに8連敗というのは、屈辱以外のなにものでもない。ラグビー日本選手権は長い間、大学と社会人の優勝チーム同士による決定だったが、実力差が顕著になって社会人チームを対象とするゲームになってしまった。リーグの代表が2年間で1勝もできないようでは、日本シリーズや2リーグ制の存在意義はなくなってしまう。なにより、プロ野球ファンでさえ興覚めなのだから、関心の薄い人にとってはなおさらだ。


 この実力差はどこから来るのか。簡潔に言えば、指名打者制が最も影響している。このことを詳しく説明する報道はあまりないが、こういうことである。9人の打者を相手にする投手と、8人(の打者)を相手にする投手は、どちらが楽か。答えは自明だろう。



 野球は27個のアウトを取ればよい。先発投手が完投し、投手が3回打席に立つと仮定すると、セリーグは27個のうち3個はアウトを計算できる。完投しないで継投になる場合は投手に代打を出すが、その分だけ野手の駒を減らすことになり、イニングを重ねるにしたがって戦力を落とすことになる。


 たった3個のアウトと思うだろうが、プロの将棋と同じで最後の27のアウトまでを逆算して投手のやり繰りを決めるものだ。密に組み立てはしないまでも、最初から3個のアウトが取れるとわかっていれば、気持ちは楽。8番打者を仕留めて回を終了させれば、次の回は投手から。セリーグはそんな環境で試合をしているが、パリーグにその余裕はない。そうした試合を年間通じてこなすリーグとの差が出ないはずがない。投手の打撃も見たいというのは詭弁である。


 中学までは巨人ファンだった。その後は広島、中日と浮気を重ねて99年のダイエー優勝で、西鉄以来40年ぶりに故郷福岡を拠点とするチームの贔屓に戻った。野球の質はそう変わらない。最も顕著なのは、リーグ内の競争意識が違うことだ。巨人戦はすでに視聴率が取れないのに、相変わらず巨人戦重視の興行を続けている。


 交流戦は当初、12球団がホームとビジターで各3試合、計36試合を戦った。それが24試合の時期を経て現在では18試合と半減している。報道によれば、巨人戦の減少を嫌うセの5球団からの要請だという。筆者はよいゲームが見られれば勝敗は別物と考えるほうだが、今の巨人に何の魅力も感じない。今年の日本シリーズを見てさらにその思いを強くした。スター不在が最大の理由である。菅野はただのスライダー投手。坂本は迫力に欠ける。原辰徳は、途中で加入したウィーラーを見て「水を得たフィッシュ」と宣ったまではよかったが、ふたこと目には「わが軍は」が口癖でユーモアがない。


 セリーグは一刻も早く指名打者制を導入すべきである。同じ土俵に立たなければ、日本シリーズは、巷で言われているように、両リーグの2、3位を入れ、現在のCSを変形した方式にしてみるのも手だ。


球場に響く素晴らしい球音

 

 両リーグとも120試合、交流戦なしの変則日程で野球好きには不満のシーズンだったが、球音が聞けたことだけはコロナに感謝しなければならない。この20数年、大音声で一斉にわめいたり、飛んだり跳ねたり、風船飛ばしたりの喧騒な応援にホトホト参っていた。じっくり野球を観戦するのは時代遅れとされて多勢に無勢。かつて実施された「球音を楽しむ日」の試合も、いつの間にかなくなった。



 どれが正解というものではないが、プロの技を見るのに一斉に大声を出し続けたり風船を飛ばすのは、あまりにも配慮を欠いているのではないか。こんな喧噪の中でプレーするから、選手も大味な技に堕してしまうのだ。観客におもねる選手の発言も情けない。日本シリーズ4戦目の1回裏。柳田の豪快な一発で、カキーンという乾いた打球音が球場内に響いた。来季もまたこの打球音を楽しみたい。(三)