過去の「総選挙前」と比較したわけではなく、あくまでも印象での話だが、投票日目前の週としてはやはり、各誌とも選挙報道の扱いが素っ気ない。それでも、今週ぐらいはその内容を一応、見ておこう。
文春にコラムを持つ、小泉元首相の秘書官・飯島勲氏は、新聞が各党の議席予測に「プラスマイナス」の誤差幅を併記することを「卑怯」と斬って捨て、自身による予想議席数をピンポイントで示している。それによると、自民党は295の小選挙区のうち240議席を占め、比例を加えると313議席の大勝利。公明党の32議席を加えると、与党両党で345議席を獲得するという。
似た予測を示すのが現代で、小選挙区234、比例79という自民のトータルは飯島氏と同じだ。公明については1議席少なく見ているが、両党を合わせると344議席。サンデー毎日はやや低く、自民は計302、公明は34議席で、与党計を336議席と踏んでいる。
両誌によれば、民主党では、海江田万里代表や枝野幸男幹事長、元首相の菅直人氏ら大物が苦戦を強いられ、みんなの党で天敵同士だった渡辺喜美氏と浅尾慶一郎氏、次世代の党党首の平沼赳夫氏や、国民新党元代表の亀井静香氏らも厳しい状況だという。
元共同通信の政治ジャーナリスト野上忠興氏の当落予想を載せた週刊朝日は、サンデー毎日よりさらに控えめに、与党の獲得議席数は自民295、公明32の計327と見積もるが、どの予測から見ても与党の圧勝は揺るがないようだ。
週朝では、うちわ問題の松島みどり前法相のほか、不正疑惑が報じられている西川公也農水相と塩崎恭久厚労相も“苦戦組”に含めている。さすがに、小渕優子前経産相の強さに関しては、他誌と同様の見方である。
まぁ、それが民意だというのなら、そうなのであろう。ただ、この大勝利によって長期政権がほぼ約束され、平成を代表する“大宰相”になりそうな安倍首相の、あまりの“小ささ”が気にかかる。
ポストは『安倍自民は北朝鮮、中国と同じか 「メディア統制で一党独裁」選挙戦』というトップ記事で、安倍氏側近の萩生田光一・特別葬祭補佐がテレビ各局に「公正中立並びに公正の確保についてのお願い」を申し入れた“事件”を取り上げた。
その効果はてきめんで、11月29日のテレ朝『朝まで生テレビ』では評論家の荻上チキ氏らの出演が見送られた。さらに驚かされるのが、首相自身のフェイスブックにまつわる話で、そこでは、支持者によるヘイトスピーチ的書き込みが放置され、それをたしなめようとするコメントは、逆にブロックされてしまうのだという。
この件は、現代も報じている。ネトウヨ的な支持者だけを受け入れて、異論には徹底して耳をふさごうとする。そんな首相が議席増でさらに力を得て、長期政権に突入しつつある。この国はいったい、どこに進みつつあるのか。暗澹たる思いが湧く。
その安倍氏と親密な例の百田尚樹氏の一件。一部ウェブメディアが予測した通り、文春では、百田氏が1ページにわたって持論を書き、新潮やフライデーも、百田氏を擁護する記事を掲載した。反対に、週刊朝日とサンデー毎日は、百田作品の発行差し止めを訴えた故たかじん氏の娘の言い分を載せた。
文春の百田手記は『林真理子さんの疑問に答えます』と題されていて、その実、林さんの指摘した“メディア統制”には一切言及がない。次号のコラムで、林さんが何を言うのか。興味深い展開になりそうな気がする。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』(東海教育研究所刊)など。