1月10日(日)~1月24日(日) 両国国技館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 2横綱が休場、2大関がカド番での出場、綱とりの貴景勝にスポットが当たった初場所だったが、その注目大関が初日から4連敗で10日目から休場。新年早々気勢の上がらない場所になった。番付がモノを言う世界での不甲斐ない役力士のオンパレード。大相撲ではなくて中相撲、小相撲である。この5年間の初場所は初優勝力士が続いている。今場所も西前頭筆頭の大栄翔が初めての栄冠を手にした。


 大栄翔は初日から朝乃山、貴景勝、正代を次々と撃破。カド番や昇進の場所を迎えて固くなる大関が調子を上げる前に対戦できたツキもあった。関脇や小結など三役ではない前頭筆頭という番付が上位と思い切りぶつかれる精神状態を生み出したように見えた。6日目に優勝候補の一角・照ノ富士と当たったのも幸運。前日まで勝ちと負けを繰り返して調子が今ひとつだった関脇をのど輪攻めで追い込んで押し出し。その後照ノ富士は8勝1敗と盛り返して11勝まで星を伸ばしただけに、調子の上がらない前半で対戦したこの白星も効いた。


<6日目 照ノ富士―大栄翔戦>


野心が足りない正代、気持ちが甘い朝乃山


 正代は9日目に玉鷲(西前頭4枚目)に勝ち越して引き揚げると、思わず相好を崩した。大関昇進後の場所で怪我をして欠場、早速カド番を迎えただけに嬉しいのはわかるが、これで喜ぶのは情けない。それからは気が緩んだのか勝ち越ししたものの辛勝の連続。11日目の隠岐の海(西前頭5枚目)戦は物言い後の一番も微妙で、ヒヤヒヤの連続。優勝を左右する14日目の照ノ富士戦で詰めの甘さを露呈して3度あった寄り切りのチャンスをことごとく潰して2度目の賜杯を逃した。


<11日目 正代―隠岐の海戦>


 朝乃山は序盤1勝2敗と調子の波に乗れずにいたが、盛り返してカド番を脱出。翌日の照ノ富士戦は、優勝戦線に踏み止まるには負けられない一戦だったが、一度も勝ったことのない力士相手に今場所も完敗。どん底を味わった元大関の底力の前になすすべがなかった。思えば、この大関が上昇機運に乗ったのが2019年5月場所の初優勝。狂気の大統領トランプの祝福を受けたのがケチの始まりか。四つ相撲の正統派で期待は大きいが、気持ちが甘い。いかに照ノ富士が実力者といえども、4度の対戦はいずれも完膚なきまでに土俵に転がった。長身の元大関の懐に入って頭をつけるくらいのことをなぜしないのか。このままでは綱を締めるのは時間がかかる。


目立つ押し相撲、光るいぶし銀


 大栄翔の躍進は認めるが、このタイプの力士が増えるのは物足りない。阿武咲(東前頭3枚目)、明生(西前頭7枚目)を含めた3人は、勝てば小気味よい相撲で場内も湧くが、一瞬で勝負が決まるだけに呆気ない。押し相撲は出足の良し悪しで決まるだけに、番付を上げていけばいくほど地位を守るのが難しい。近年、大関から陥落して復帰できなかった力士は大体このタイプだ。


 一方で、今場所はいぶし銀の宝富士(東前頭2枚目)が健闘した。35歳になるベテランで近大出身。地味だがしぶとく、相手の得意技を消す動きが光る。9日目、優勝した大栄翔に土を付けた。立ち合いの変化は一切なく、正攻法で相撲を取る。相手の出足を食い止めることができれば、善戦すること請け合いである。隠岐の海同様、真摯な取り口に好感が持てる。取り立てて人気者ではなく、口数も多いほうではない。しかし、殊勲の星を挙げたときの語り口は実に味がある。息の長い相撲人気は、こういう脇役がその一端を担っているのではないか。


<9日目 大栄翔―宝富士戦>


まわしを叩くのはやめろ


 気になることがある。力士のほとんどが「まわし」をバンバンと叩く仕草である。緩まないようにするためだと聞いたことがあるが、効き目はあるのか疑問だ。数分間の間に10回前後、力士によってはその倍近くやることがある。品のないことおびただしい。昔、こんなことをする力士はいなかった。土俵態度というものがある。己を鼓舞するためという見方もできるが、すぐにでもやめてほしい。取組後のガッツポーズもグータッチも駄目。耐え忍ぶのも美徳。せめて相撲くらいは「やせ我慢」を重んじてほしい。聞いているか正代、爪をかじるのもやめろ!(三)