薬よりゆるい規制の下、大量かつ派手な広告・宣伝を出しまくる――。
広告表示の規制が厳しい医薬品業界には、こうした「健康食品」「サプリ」のマーケティング手法を苦々しく思っている人は少なくないはずだ。もっとも、昔よりも各種規制や“パトロール”はずいぶん強化され、企業が消費者庁などの監督者から“お叱り”を受けるケースは増えている。
企業のコンプライアンス重視の流れもあって、大手企業の法務部門は薬機法や食品表示法など各種の法令違反にはかなり神経質になった。マーケティング部門があげてくる宣伝の内容に「法務部門から強烈な“ダメ出し”がなされて、企画がイチからやり直しになった」といった話もあるほどだ。
それでも、一向に怪しげな健康食品が減った気がしないと感じる向きは少なくないだろう。『健康食品・サプリそのネーミングにだまされてますよ』を読んで、その謎が解けた。
著者は50年のものキャリアを持つ消費生活アドバイザーの若村育子氏。食品表示法などの各種ルールに精通している専門家が、①疑問が生じる→②調べる・考える→③当事者に直接聞いてみる・指摘してみる――という本書の手法はジャーナリストの取材手法に通じるものがある。
企業は商品名を決めるのに知恵を絞る。わかりやすく、消費者の感覚に直接訴えるものが選ばれやすい。ネーミングにはインパクトが必要なのだ。
それでも実際の商品より効果・効能があると誤解されるような記載は許されないはずである。著者は消費者庁の取り締まりの強化を認めつつも、商品名などの〈ネーミングはどうやら“穴”になっているようなのです〉と指摘する。
規制する側としても明確な基準がなければ、取り締まることは難しい。「法律の運用」という部分では、〈他の表示や広告全体から総合的に判断して〉〈明らかに誤認を与えるネーミングであってもそれを補うような表示広告があれば……〉というのが実態だ。
このため消費者に誤解を与えかねない、“おかしなネーミング”の健康食品が、規制が厳しくなった今でも、店頭やネット上から一向になくならないのである。
■「糖類ゼロ」でもカロリーゼロではない
野菜ジュース、青汁、黒酢……。個々の事例は本書を読んでほしいが、パッケージに必要な栄養を取れることが謳われていながら、加工することで必要な栄養分が失われていたり、成分がわずかしか含まれていなかったりと“看板に偽りあり”の製品も続々登場する。
パッケージの“あおり文句”には、落とし穴もある。本書では、「砂糖ゼロ」「糖類ゼロ」「ノンシュガー(シュガーレス)」の定義と起こしやすい勘違いが紹介されている。これらの定義を理解していても、〈カロリーは普通の製品と変わらない〉という製品もある。ダイエット目的で「ゼロ」商品を選ぶ人は、細かい表示まで読んだほうがよい(糖質は制限できるのだろうが……)。
「ダイエット」「自然」「天然」……一見、体によさそうな言葉にも注意が必要だ。明確な法律や基準がないまま、パッケージや広告に使用されているからだ。
バランスのいい食事をとっていれば、基本的に日本人の栄養状態はおおむね良好だ。足りていないのは、カルシウムと食物繊維くらい。これとて通常の人なら牛乳1杯、野菜を少し多めにとることを心掛けるくらいで調整できる。病気で何かの栄養状態が悪くなっているとか多くなりすぎているなら、生活習慣をあらためたり、病院にいって薬を処方してもらえばよい。
著者がメーカーにしつこく健康食品の効果について尋ねたところ、ある会社の担当者が〈効果がはっきりしていたら薬として出しますよ〉と語ったという。ちなみに、製薬会社の中にも健康食品を出している会社がいくつかあって、ある会社の担当者から同様の話を聞いたことがある(正直、製薬会社のスタンスとしてはいかがなものかと思われたが……)。
実態と商品名の一致や誤解を招きかねないネーミングを禁じるような規制強化も必要だが、そもそも健康食品とは「効果・効能がはっきりしないもの」という消費者の認識も必要だろう(そして、多くはリスクも検証されていない)。
そう考えると「健康食品」という呼び方自体も、「特別に健康によい食べ物」という印象を与えかねないという点では“問題あり”である。(鎌)
<書籍データ>
若村育子著(ワニブックス|PLUS|新書880円+税)