コロナ禍で外出やスポーツの機会がめっきり減って、以前にもまして増えているとみられるのが「腰痛」だ。夫婦ともにテレワークとなって、ダイニングの椅子で仕事という環境で働く会社員も少なくないだろう。


 もともと腰痛に悩む人は多い。2019年の「国民生活基礎調査」によれば、病気やけが等で自覚症状のある者(有訴者)で、男性では腰痛がトップ。女性では、女では肩こりに次いで2位である。2013年の厚生労働省研究班の調査では、2770万人が腰痛を抱えているとの推定もある。まさに“国民病”である。


『腰痛難民』は、なかなか治らない腰痛や、原因不明の腰痛で悩んでいる人々に向けて、腰痛の原因から、病院のかかり方、対処法を解説した一冊だ。


 一口に「腰痛」といっても、タイプはさまざまだ。


 腰のどこが痛いのか? お尻に近い部分、脇腹、広い範囲やピンポイントの1ヵ所……。


 痛みの出方も〈「重い」「だるい」「張っている」「なんだか違和感がある」〉〈「動けないほどの痛み」〉等々、ひとつではない。


 原因も多岐にわたる。


 厄介なのは、〈画像検査の結果と症状が必ずしも一致しないこと〉。著者自身も〈あまりにも痛くて歩けないほどだった時に整形外科に行って画像検査を受けたところ、腰椎椎間板ヘルニアが見つかりましたが、「軽度」〉だったという。


 本書を読むまで気が付かなかったのが、〈痛みというのは主観的なもの〉という点だ。考えてみれば、子ども時代に痛みに強い子というのはいた。出産を経験することなどで、女性には痛みに強い人も多いという。


 逆に痛みに弱い人も。だからこそ、必ずしも画像検査の結果が症状と一致しないのだろう。ちなみに、オーストラリアでは、20年ほど前に「腰痛を気にしないキャンペーン」が大々的に行われ、障害保険の請求額の医療費の節約が実現したとか。


■腰痛に潜む重大な病気


 腰痛といえば、腰の骨や周辺の筋肉の痛みと考えがちだが、注意したいのは内臓の病気や血管の病気が原因になることもある点だ。


 脊髄腫瘍といった、がんが潜んでいるケース、腎結石、尿路結石、子宮内膜症などの内臓の病気、腹部大動脈瘤など血管の病気……、腰痛から重大な病気が見つかることもある。


 腰痛になったらマッサージ、鍼灸という人は多いが、〈腰痛だと思って接骨院や鍼灸院、整体院に通い続けていたら、じつはがんの骨転移だった〉といったことも。まずは、病院やクリニックで、痛みの原因をきちんと調べておきたい。


 では、どのように診療を受けるべきか。腰痛のタイプによっては、整形外科ではない診療科がよさそうだが、著者が勧めるのは〈整形外科に行って検査を受けて、まずは1、2ヵ月様子を見る。それでも良くならなかったら、その陰に整形外科疾患以外の病気が隠れていないかを疑って、次の診療科にかかる〉という方法だ。


 著者は、長引く腰痛には、まずは大病院より開業医(クリニック)を推奨する。画像診断と症状が一致しないことも多いし、いわゆる「不定愁訴」的な患者は、大病院では敬遠されがちだ。きめ細かな対応ができるクリニックのメリットは少なくない。


 受診の際に注意したいのは患者から医師への「伝え方」。


 前述のとおり、腰痛のタイプによって、痛みの場所も痛み方もさまざまだ。痛みの程度や場所、痛みはじめた時期、痛みが出たきっかけの有無……、〈できるだけ具体的かつ簡潔に〉伝えるのが大切だ。事前に伝えるべき内容をまとめておくとよいだろう。


 本書には、腰痛をラクにする体操、温湿布・冷湿布の使い分け、顔の洗い方など生活の中でのしぐさなど、具体的ノウハウも満載である。未然に腰痛を防ぎたい人にも参考になる。


「腰痛を防ぐため、立派な椅子でも買おう!」と思ったのだが、実は座り心地のいい椅子は逆効果。そもそも長時間座りっぱなしは健康に悪い。


 著者によれば、座面が固めで、しばらく座っていると立ち上がりたくなる椅子がむしろよいという(著者が診察で使うのは、背もたれのない丸椅子だとか)。「ダイニングの椅子で仕事」はまだまだ続きそうである。(鎌)

 

<書籍データ>

腰痛難民

池谷敏郎著(PHP新書930円+税)