気がつけば身近な場所で「テレワーク用ブース」が増えている。気軽に使える「シェアオフィス」、法人登記も可能な「レンタルオフィス」の広告も目につく。実際の使い心地はどうなのか。急増にはどのような背景があるのだろうか。



■まずは体験「個室ブース」


 東京都西部の多摩地域。その中ほどに位置する立川市は、東京駅からJR中央線で約1時間。1977年に返還された広大な米軍立川基地跡地の再開発が段階的に進められてきた。5年前には(事業主のしゃれで)ヤギが雑草を食んでいた建設用地に2020年春、緑に溢れた街区「GREEN SPRINGS」がオープン。コロナ禍を予測してはいなかっただろうが、大型ホール、商業施設、オフィスビルやホテルを備えながら密にはならない快適なスペースがいくらでもある。都心が勤務先だと仮定して、必要であれば出勤は容易だが、在宅勤務が可能なら敢えて都心に出向く必要はないと思える立地だ。


 その「GREEN SPRINGS」内に株式会社ブイキューブが設置した個室ブース「テレキューブ」を探した。読書やPC作業にいそしむ姿が目立つ屋内休憩スペースとトイレを通り過ぎた自販機脇に1台。中は、一人用のシートとデスク。「delfino(デルフィーノ):抗菌・防臭・ウイルス加工済」のシールが貼られ、小さなサーキュレーター、電源、USBポートはある。Wi-Fiは自前だが接続は問題なし。事前に支払い用のクレジットカードも含めて利用登録し、スマホで予約や開閉の操作をする。空いていれば「即時利用」も可能だ。開ける際にもたついていると自動ロックされ、再解錠の操作が必要なので勝手に使われる可能性は少ない。利用料金は15分単位で250円(税別、従量料金プラン)だ。


 恐る恐る入って施錠してみると「閉所恐怖症なら無理かも」と感じる圧迫感。デルフィーノは、光触媒(酸化チタン)、抗菌触媒(銀)、三元触媒(プラチナ)などの触媒を組み合わせた抗菌・防臭剤で、司法解剖などでご遺体からの感染リスクに悩んでいた解剖医や検査技師のニーズで開発されたという。また、「テレキューブ」は換気ファンの24時間稼働を謳っているが、小さい空間に残された飛沫による新型コロナウイルス感染がないか少し不安は感じる。


 JR東日本は、同社のブースを利用した「SATATION BOOTH」を展開中だ。立川駅ソトには、1人用と2人用のブースがある。こちらも利用登録が必要だが、Suica登録でタッチ決済も可能だ。構造は同じだが、周囲のスペースは広め。ブース内にはPCにつなげるモニターがあり、消毒用のアルコールボトルとペーパータオルが置かれている。薄暗い中で電源と間違えてうっかり「非常用」ボタンを押したところ、隣接するタリーズの店員さんがブースの合鍵を持ってとんできてくれた。施設管理者が常駐しているわけではないというが、同じ設備でも設置環境や運用次第で印象はかなり異なる。利用料金はやはり15分単位で、1人用250円、2人用300円(税別)だ。



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■無料で快適な都のモデルオフィス


 一方で、自治体もテレワークを推進しつつある。例えば東京・千葉・埼玉・神奈川は、2月8日~3月7日の1か月を「1都3県テレワーク集中実施期間」としている。


 都は2020年7月、府中市・久留米市・国立市に「TOKYOテレワーク・モデルオフィス」を設置した。利用者要件は「都内在住または在勤で、企業等で働く方(個人事業主を含む)」で、フリーランスでも利用可能だ。月~金の9~17時に限られるが、事前に利用登録しPCやスマホから予約することで、ワークスペースを無料で使える。


 早速、国立市のモデルオフィスを予約してみた。JR国立駅から徒歩3分程のビルの2階にあり、朝9時に次々と人が入っていく。初めての利用者には、施設の担当者が利用方法をていねいに説明してくれる。オフィス内は、対面と隣席の間に簡易の仕切りがある「オープンワークスペース」を中心に、個人作業に集中できるよう周囲の視線を遮断した「パーソナルワークスペース」、音漏れの心配がない「テレフォン(防音個室)ブース」、Web会議や会話をして構わない「イノベーションワークスペース」、6~8名の会議が可能な「会議室」がある。見ればテレフォンブースは、ブイキューブとオカムラとの提携による「テレキューブ」のサブスクリプションモデルだ。


 Wi-Fi、給茶機、複合コピー機、シュレッダーなども無料で、至れり尽くせり。利用者としては嬉しい限りだが、それだけではない。視点を変えるとモデルオフィスとして「これからの仕事場」を見せる役割を果たすとともに、都や国のテレワーク関連施策の情報も提供している。


 明るい空間デザインで、周囲の人たちもそれぞれ仕事に集中しているため作業がはかどり、予約の1時間があっという間に過ぎた。



■コロナ禍の1年で15年分の変化


 株式会社ブイキューブは、増田直晃氏(取締役社長CEO、慶應義塾大学大学院理工学研究科修了)が、大学在学中の1998年に設立した。ホームページ作成からスタートし、現在はデジタルトランスフォーメーション(DX)実現に向けて「コミュニケーションのDXカンパニー」を掲げ、テレビ会議システムをはじめ、さまざまなものをリモート化していくビジネスを展開している。「テレキューブ」は「ビジネスパースンが周囲に気兼ねなく働けるセキュアなコミュニケーションスペース」をコンセプトに開発され、2017年8月に提供が開始された。2020年末の累積設置数は約2,000台という。


 同社の2020年12月期決算説明会の記録によると、2020年3~5月の緊急事態宣言下で社内コミュニケーションのリモート化に向けたシステム導入など、「テレワーク環境整備」が進んだ。宣言解除後は「事業再開に向けた取り組み」の中で、①社内利用シーンの拡大、②社外コミュニケーションのリモート化、③サービス提供のリモート化へと発展した。


 ①では商談、採用面接、社内研修に限らず、フィールドワークや現場作業支援など新たな領域での活用が積極化した。②は展示会・商談会、採用説明会、IR活動(四半期説明会、株主総会)などだ。③は教育、医療、金融、ヨガ・フィットネス、ライフスタイルやエンタメ領域など多岐にわたる。


 2020年秋以降は、経済同友会の調査でも示されているように、オフィス勤務に戻した企業が多かった。しかし、多くの人がリモートコミュニケーションを経験した結果、リモートの適・不適を考えて、業務を効率化し生産性を上げるための活用法を考える素地ができた。


 増田氏は、コミュニケーションの文化や働き方を変えるためにこの15年間やってきて、少しずつしか変わらなかったものが、「去年1年間で15年分以上」「一気に変化が生まれた」と、実感を語っている。



■職場の実情に応じた体制づくりが必須


 2020年の緊急事態宣言は想定外で、文字どおり緊急に在宅勤務を認めた職場もあった。恒久的な措置ではないため、就業規則に反映させるには至らず、労務管理が難しかったり、テレワークしやすい部署としにくい部署間での軋轢が生じたりした職場もあったと聞く。


 まだ「Afterコロナ」には至っていないものの、「Withコロナ」1年の経験を踏まえた体制づくりは待ったなしになってきている。「どこから手をつけてよいか」迷う場合には、厚生労働省や都によるテレワーク推進の資料や相談の仕組みを活用するとよいだろう。




【リンク】いずれも2020年2月22日アクセス

◎厚生労働省.「テレワーク総合ポータルサイト」→「テレワークに関する資料を入手したい」→労務管理、セキュリティ、導入事例などのpdfを掲載

https://telework.mhlw.go.jp/


◎東京テレワーク推進センター→東京都から株式会社パソナが受託し運営

https://tokyo-telework.jp/


◎株式会社ブイキューブ.「2020年12月期決算説明会」

https://ir.vcube.com/jp/


◎JR東日本ニュース.「STATION WORK は2020年度100カ所ネットワークへ」

https://www.jreast.co.jp/press/2020/20210208_ho04.pdf


◎公益社団法人 経済同友会「政策提言」→「提言・意見・報告書」「調査・アンケート」

https://www.doyukai.or.jp/


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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。