お遍路が一列で行く虹の中
「風天」という俳号を持つ渥美清さんの句である。松竹映画「男はつらいよ」の車寅次郎を演じ、国民的人気を博したが(国民栄誉賞を受賞)、18年前に68歳で逝去した。映画は48作で終わったが、49作目の舞台は四国の高知県で、サブタイトルは「寅次郎花遍路」であった。
お遍路に旅立つというか、志す動機はいろいろであろうが、少なくとも恵まれた境遇にいたり、幸せの絶頂にあるといった人々でないことは確かである。なんらかの悩み、傷みがあってのことである。中には病弱の身の救いを求めての旅の人もいるであろう。そして志半ばで、旅の途中で身罷(みまか)る人も出てくる。そうした人はみんな蝶々になって天国へ飛んでいくのであろう。遍路蝶々(変ロ長調)。
四国には八十八か所の霊場がある。讃岐の国は善通寺で生まれた弘法大師・空海が定めたものである。四国を死国という人もいる。各霊場を一心不乱に巡るお遍路さんは、癒しや慰めを求めての旅ということになる。心が浄化されることを願っている。これを「私の浄化待ち」という。
四国は文字どおり、四つの国で、どこで会合を持つにしても不便であると、ある医薬品卸の社長さんがいう。徳島、香川、愛媛、高知の四県が、どこかの県に集まるとしたら、移動にかなりの時間が必要で、それならいっそ大阪か東京へ集まったほうが便利なのだという。徳島の上天気にはならないほうがいい。阿波照る(慌てる)。岩城さんと岩崎さんは、どちらが香川県の出身か。岩城さんである。さ抜き(讃岐)。物事を始めるときは愛媛県という。伊予いよ。誰も知らない人はいない。公知(高知)の事実。
「こうち」は高地、耕地、荒地、公地、巧智、巧遅、巧緻、拘置、狡智、後置、高致と、こんなにも沢山ある。日本語は実に同音異義が多い。それで笑いに結びつけることができる。巧緻は工緻とも書き、精巧で緻密という意味である。高致は、気高い趣のこと。
人品骨柄(じんぴんこつがら)とくれば、「賤しからず」と続く。品格がある、貴品があるという意味だ。人格が優れていれば、誰からも尊敬される。これを布衍(ふえん)して、店格、社格と表現することができる。それなりにしっかりとした格式を保っているわけである。人徳という言葉がある。店徳、社徳もあるのではないか。お店について考えてみる。開店したばかり、できて数年、親子代々続く老舗、歴史的に三大別して、それぞれに店格と店徳が備わっている。「さすが」と思わせるのが店格であろう。「またきてみたいな」と思わせるのは、店徳だと考える。つい最近すすめられて行った料理屋で感じさせられたのである。出された器も、そこに盛られた料理もなかなかであった。働く人たちもしっかりしている。店内は大繁盛で、雰囲気も悪くない。お店と客の相性というものもあるだろうが、残念ながらまたこようとは思えなかった。マイナスαがあったようだ。敢えていえば、おごりと「貧格」が垣間見えた。
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松井 寿一(まつい じゅいち)
1936年東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業。医療ジャーナリスト。イナホ代表取締役。薬業時報社(現じほう)の記者として国会、厚生省や製薬企業などを幅広く取材。同社編集局長を経て1988年に退社。翌年、イナホを設立し、フリーの医療ジャーナリストとして取材、講演などを行なうかたわら、TBSラジオ「松チャンの健康歳時記」のパーソナリティを4年間つとめるなど番組にも多数出演。日常生活における笑いの重要性を説いている。著書に「薬の社会誌」(丸善ライブラリー)、「薬の文化誌」(同)などがある。