これを黒歴史というのだろうか。2002年4月はメガバンクグループ発足、2011年3月は東日本大震災発生直後、そして今回。ほぼ10年に一度繰り返されるシステム障害。復旧の進捗状況によっては、分割・解体を含めた再編が取り沙汰される可能性もある。


 2月28日に発生したみずほ銀行のシステムトラブルは、デジタル口座への切り替えを目的にしたデータ移行作業にあったとされる。3月3日には別の要因でATM(自動預け払い機)トラブルが発生した。同行は1月末時点で1年以上記帳されていない利用者の口座を順次デジタル口座に移し替える作業をしていた。ところが、通常月よりも3日少ない2月の末日で週末というオンライン取引の多いタイミングを選んで作業を進めたことが第一の失敗だった。



 データ移行作業と利用者のオンライン取引が重なり、想定を上回る負荷が銀行業務の心臓部である勘定系システムにのしかかった。勘定系システムはこの過程で負荷に耐えられなくなり、異常を検知した。そこで他の業務のある部分を遮断してシステム維持を図る機能が働いたが、ATMとの連携を中断したとみられる。


 一般にデータベースのファイルは他のファイルなどに比べて相当重い。卑近な例になるが、マイクロソフトの代表的なビジネスソフト「オフィス」に入っているデータベースソフト「アクセス」のファイルは、「ワード」や「エクセル」に比べて非常に重く、相当高度のPCスキルを求められる。


 また、銀行システムに限らずコンピュータは、あらかじめ設定(想定)した動作以外の異例な反応を見せた場合、その動きを排除する仕組みになっている。コンピュータの世界でよく使われる「制御」というのは、こういう機能を指す。とまぁ、ここまでは筆者が金融業界での取材経験から得た知見。専門家は眉を顰めるかもしれないが、大筋では間違っていない程度の自信はある。


 一連の報道では「メモリ不足」「自衛機能の見誤り」「想定の甘さ」などが指摘されている。データ処理作業を月末で週末の繫忙日に実施したことは、2002年4月の障害と共通する。このときは4月1日で新年度の初日。4大メガバンクグループ(当時)が同時発足した日で、企業の会計年度がスタートする喧騒の1日を選んだことが間違いだった。


 2019年7月に完成した新システムの売り物といわれる「自衛機能」が奏功しなかったことも響いた。不具合がシステム全体に悪影響を与えないよう遮断する仕組みだが、それがATMの稼働レベルを著しく低減させるような設定になっていたことが,第二の失敗要因と思われる。しかも、ATMキャッシュカードや通帳を飲み込んだままフリーズ。行員の対応も休日で不十分だった。


システム障害の大半は人災


 銀行はいま、長引く低金利と少子高齢化による取引減少、景気の不透明感とコロナ禍で収益が減っている。コロナは非接触、デジタル化の都合のいい言い訳になり、各行とも通帳の段階的な廃止とインターネットバンキングへの移行を強力に推進している。


 三井住友銀行はインターネットバンキングを利用していない顧客に対して手数料を取ることを決めた。2021年4月以降、新たに口座を開設する人が対象で、インターネットバンキングの利用手続きをしていない利用者で2年以上取引がなく、残高が1万円未満の場合に年1100円を差し引く。インターネットバンキングの利用を促してコスト削減を図る狙いだ。


 みずほ銀行も今年から紙の預金通帳の発行手数料(1100円)を徴求する。同行の口座開設は年間約80万件あり、手数料を取ることで通帳を希望する人は7割減ると推定している。昨年10月から住所変更や税金などの店頭支払い時に印鑑をなくし、伝票を減らして店頭にタブレット端末を設置して入力する仕組みを整備した。


 他のメガバンクもデジタル化の移行を急いでいる。しかし、今回のようなシステム障害は起きていない。では、なぜこういうトラブルがみずほに限って頻発するのか。端的に言えば、システムを動かす人間の問題ではないか。システムの管理・運営に欠点があるのだ。


 2年前に完成したみずほFGの新システムは「MINORI」と命名されている。「MINORI」を運営するのは、みずほFGが昨年6月に日本IBMとの共同出資で設立した「MIデジタルサービス」。“IT業界のサグラダファミリア”と揶揄された苦闘のプロジェクトだが、早くも最初の試練に直面した。


 メガバンクトップの三菱UFJ銀行は業績に陰りを見せ、三井住友銀行が収益力で急追している。万年3位のみずほ銀行は巨大システムの構築が終わり、ようやく光が射してきた矢先の出来事。次期頭取も決まり、新体制になる直前の失態は痛い。仏の顔も3度までという。銀行システムは365日24時間無停止、安定稼働の堅牢性が求められる。高度な設計を宿命付けられている心臓部で起きたトラブル。これ以上の言い訳は通用しない。


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平木恭一(ひらき・きょういち)

明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 金融業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム社)、『図解入門業界研究 小売業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(同)など。

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