百貨店の凋落、スーパーの停滞……平成の30年間で小売業界の姿は大きく変わった。「進化」したという意味では、ドラッグストアはコンビニエンスストアと並ぶ存在だ。昭和の時代、病気でお世話になった薄暗い薬局・薬店は、老若男女が普段使いする明るい店舗へと変貌した。
扱う商品も多様化の一途。大衆薬や医薬部外品だけでなく、キッチン用品やペット用品、食品を扱う店も珍しくなくなった。商店やコンビニなどがない“陸の孤島”に進出するのが得意な(と個人的に思っている)あるドラッグストアは、周囲の住人にとって、普段使いの雑貨や食品・飲料を購入する“オアシス”になっている。
今やテレビCMなどで広く企業名が知られる巨大チェーンも少なくない。
『ドラッグストア拡大史』は分立していた薬局・薬店が、現代のドラッグストアに変化していく過程を追い、未来を占う一冊である。
著者は記者・編集者として長年にわたり広く小売業を見てきただけに、他業態の栄枯盛衰と比較しながら、ドラッグストア成長のポイントを解説している。
1970年代、ドラッグストア業界では、大手製薬会社の系列化の動きに対抗してボランタリーチェーン(共同出資型の疑似チェーンストア)の形でチェーン化が始まる。
個人商店を脱して本格的に大型化が始まるのは80年代後半から90年代にかけてである。
法律や規制の緩和は関係業界に大きな影響を与える。90年代~2000年頃に行われた大規模小売店舗法(大店法)の緩和~廃止の流れは、商店街など従来の小売業に大きなインパクトを与えたが、ドラッグストア業界もしかり。
〈大店法の緩和が進むにつれて、一五〇坪を超える二〇〇坪や三〇〇坪の店舗を構える大型化の動きが起こった〉。著者は大店法廃止から2009年ごろまでの10年間を〈第二次ドラッグストア成長期〉と呼んでいる。この頃には、かつての薄暗い薬局・薬店のイメージは消え去った。
大店法の廃止と同様に影響が大きかったのが、1997年3月に行われた医薬品と化粧品の再販売価格維持制度(再販制度:定価販売が必須となる制度)の撤廃だ。
ドリンク剤で大儲けしていた大衆薬メーカー幹部から再販制度の廃止に対して恨み節を聞かされたこともあるが、ドラッグストア業界では〈低価格販売によって、売上規模を拡大していった〉時期である。
■これから10年は「調剤」がカギ
そしてこの10年は大合併時代。〈第三次成長期は、M&Aによる規模の拡大ができたかどうかが成長に大きく影響している〉。店舗数、売上高ともに2~3倍となったチェーンも珍しくない。
今年10月、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの統合で誕生するマツキヨココカラ&カンパニーは、グループ売上高1兆円超えを視野に入れる。まさに“国盗り物語”さながらの世界である。
百貨店やGMS・スーパーマーケットが凋落し、平成の時代に同じように拡大・合従連衡が続いたコンビニエンスストアも成長が止まるなかで、ドラッグストアの勢いは今も継続中だ。スーパーやコンビニの独壇場でもあった、小売業とメーカーが共同開発するストアブランド(SB)や、プライベートブランド(PB)でも存在感を増している。
これからドラッグストアはどう「拡大」していくのか――。著者は〈今後一〇年間のDg.S(ドラッグストア)の成長に、「調剤」が大きな役割を果たすことは間違いない〉と断言する。
医療用医薬品を扱う調剤薬局は、主に大衆薬を扱うドラッグストアにとって隣接業界。米国では調剤は、ドラッグストアの売上構成比の70%以上に達している。日本でも、調剤併設型のドラッグストアに力を入れている会社もあるが、高いところで20%程度だ。
7兆円を超す調剤市場は寡占化が進んでおらず、個人営業の店もいまだに多い。今後は米国同様に調剤の収益性が低下していくリスクや、制度変更のリスクもあるが、ドラッグストア市場と同規模の調剤市場は魅力的である。
各社の店舗に入れば一目瞭然だが、すでにドラッグストアは多様化の事態を迎え、ひとつの業態として括れなくなってきている。著者の言う〈唯一無二の「個態」を創造する時代〉が到来しているのだ。規模の面で大企業化しても、これまで同様、顧客志向の企業文化を維持できるかどうかが成長継続のカギを握ることになりそうだ。(鎌)
<書籍データ>
日野眞克著(イースト・プレス860円+税)