『週刊文春』のスクープで幕を開けた総務省の接待疑惑ほど呆れたものはない。東北新社の総務省幹部接待では、菅義偉首相の長男が接待に関わっていたのだから驚きだ。
菅首相が安倍晋三内閣の官房長官時代からだそうだが、官房長官の長男、さらに首相の長男が勤務する会社からの接待で、かつ長男も出席する、ということになれば、総務省の幹部が接待を受けるのも当然だ。
接待を受けた高級官僚は皆「請託はなかった。情報交換だ」と口を揃えるが、それはそうだろう。接待は顔見知りになることが重要なのだ。互いに顔見知りになった後、要望は正式の窓口にお願いし、そのときに高級官僚の名前を出して「誰それさんにお世話になりました」というか、親しくなった高級官僚に挨拶すれば、阿吽の呼吸で「お願い」が通るのだ。
接待の席で民間企業側がお願いしたら贈収賄になることは、接待する側も、される側もわかっている。省庁の考えや動向を知るだけで十分なのだ。それが民間企業にとっては重要なのだ。
それにしても、さすが許認可がモノをいう民間企業の接待はすごい。総務省のナンバー2である審議官や局長クラスを接待していたのだ。週刊誌風情では「食事でも」と誘っても相手にしてくれない人たちだ。筆者は週刊誌時代、経済ものや事件ものを書くことが多かったから、政治家や高級官僚と親しくなったり、接待したことはなかった。
たまたま首相秘書官に抜擢された高級官僚候補の課長氏と気があったことがある。互いに広島カープのファンだということで親しくなったのだが、「今年のカープは……」なんて書いた年賀状を送るくらいに過ぎなかったのが、今となっては悔やまれる。
それというのも、高級官僚を接待したら相当な費用がかかるだろうな、経費で落ちるかなぁ、などと考えてしまったからだ。
詳しくはないが、かつて新聞記者から財務省幹部の接待では向島の料亭を使うことが多い、と聞いたことがある。場合によっては、最も格が高い浅草芸者でも呼ぶのだろうなぁ、花代(芸者さんに払う代金)はいくらくらいになるのだろう、などと想像して足が遠のいてしまった。
山田真貴子前内閣広報官が総務審議官時代に接待されたとき、その料金は7万円だと話題になったが、そのくらいはするだろうと想像がつく。高級官僚の接待なら、少なくとも1人当たりのコース料金は少なくとも3万円か5万円からなのだろう。代議士の接待でよく使われるような高級料亭なら1人10万円以上するはずだ。
それに比べ、製薬会社のMRが医師を接待するのに1000円の弁当は接待に当たるかどうか、などと騒いでいるのはずいぶん可愛く見える。
可愛いといえば、山田前広報官は可愛い。とくに振り向いたときの丸い目が可愛い。安倍政権で内閣官房入りし、菅首相が官房広報官に抜擢したそうだが、あの可愛さに安倍首相も菅首相も惹きつけられたのだろう。差別だと言われそうだが、女性が活躍する社会とはこういうことなのだろうか、なんて邪推したくなる。
余談だが、山田前広報官は問題が報じられるや、都合よく「体調が悪くなった」という理由で辞任。早速、民間人だから国会で追及できないと、菅首相も加藤勝信官房長官も言っている。例によってテイのいい疑惑隠しである。
報道では、外国資本が東北新社の21%の株主になり、外資が20%を超えると、放送免許取り消しになるという法に触れるのだが、同社は子会社にして免許取り消しを免れたそうで、そのときの最高責任者である審議官が山田前広報官だったという。これは犯罪行為と同じで罪が重い。
実は、外資がテレビ局の株式20%以上を保有したら放送免許を取り消す、という規則ができる前に取材したことがある。昭和50年代末ごろだったと思うが、当時、株式を上場していたのは日本テレビとTBSだった。このうち日本テレビの株式の16%程度を外国人投資家が保有したという話を証券会社の株式情報部の人から聞いた。
週刊誌ではテレビはくだらない番組ばかり流しているとしか見ていないから、外国人投資家がテレビ局の株を大量に買い占め、支配するようになったらどうなるのだろう、という記事を書くことになった。ひょっとすると、優秀な番組をつくるようになるかもしれない、などといった野次馬根性である。
取材を始めると、政治家も総務省(当時は郵政省だった)もテレビ局の株を外国人投資家が買い占めることなどに関心がなかった。早速、日本テレビに取材に行くと、確か、常盤さんという名前だったと記憶している(間違っていたらすみません)が、常務が出てきて「そう、大変なことなんだよ。外資に乗っ取られたら偏った報道になる。なんとかしなければならないんだが、政府も政治家も、いくら説明してもなかなかわかってくれない。頭が悪いんだよ。実はこれから政府に説明に行くんだが、大いに書いてくれ」と激励されてしまった。
その後、彼が中心になって猛運動した結果なのだろう、外国人投資家はテレビ局の株を20%以上所有できない、もし20%を超えた場合、放送免許を取り消す、という法案ができた。この法律には、外国人の株式保有が20%に近付いたときには、テレビ局は外国人投資家に20%以上の株式を保有できないことを知らせることになっていたはずだ。
東北新社で外資が21%の株を保有していたということは、同社が外国人投資家に忠告していなかったことを意味している。放送業界が運動してつくってもらった規制を自ら無視していたことになる。
さらに、21%の株を外国人に保有されてから慌てて接待して泣きついたのだろう。その結果、衛星放送事業を子会社に移すという妙案になったのではなかろうか。
こんな妙案を考え出すのは頭のいい官僚らしい知恵だ。世間の批判が来ないように子会社に事業移管したのに過ぎないと言い逃れられる。どう見ても東北新社側の知恵ではないだろう。山田審議官(当時)の発案か、彼女に指示された部下の官僚の発想だ。
テレビ局がつくってもらった規制にもかかわらず、規制破りを放任したどころか、隠した行為を、日本テレビとTBSを筆頭にしたテレビ局が厳しく追及しないのはどういうことなのだろう。いっそのこと、規制を廃止し、外資がテレビ局を乗っ取ってもいい、としたらどうか。案外、外資のほうがいい番組をつくるかもしれない。
余談だが、山田前広報官の後任に外務省の小野日子外務副報道官を起用することが決まった。彼女に決まったとき、名前をなんと読むのだろうと思った。「ひかりこ」と聞いて驚いた。毎年、今年生まれた子供の名前はどういうのが多いか、ということが報道されている。それを見ると、格好いい名前が並ぶ。
高校で古文・漢文の授業が減り、役に立たないからそもそも授業をやめるべきだ、という意見もある。にもかかわらず、アッと思ったり、なるほど、と思うような秀逸な名前が多い。子供に名前にいい名前をつけようと両親が苦心する様が窺えて感心する。
以前、「麻美」さんという名前の新人を紹介するとき、昨今は格好いい読み方をするからと、「マミさんと呼ぶのかな」と言ったら、「アサミです」と言い返されたことがある。普通に読めばいいのかと後悔した経験がある。
しかし、「日」と書いて「ひかり」と読ませることは、とても思いつかない。辞書を引いてみたが、「ひかり」の漢字に「日かり」というのはあったけれど、「日」と書いたものはなかった。
小野新報道官の年齢は55歳とある。してみると、ご両親は優に70歳後半以上の方だ。彼女の名前をつけるときに余程考え抜いたのだろうと察せられるが、50年以上も前に「日」を「ひかり」と読ませた発想には恐れ入る。生まれたばかりのわが子に格好いい名前をつけている現代人も、日子さんのご両親の足元には及ばない。
それにしても、総務省の接待問題は次々に出てくる。今度はNTTの接待だ。谷脇康彦総務審議官が東北新社の接待問題で「接待されたのは一度だけ」と国会で答弁したのに、NTTからも接待を受けていたことが暴露され、官房付に更迭された。
谷脇氏は定年が近いこともあって辞職するらしいが、民間人になってしまえば、国会で追及されても「民間人ですから」と言って追及できなくするらしい。山田前広報官とともに、なんと姑息な手段だろう。そのくせ、民間企業にしたはずのNTT社長は国が株式を保有する特殊法人だから参考人として国会に呼ぶという。
山田前広報官も谷脇前総務審議官も公務員時代の接待問題である。不公平ではないのだろうか。特殊法人とはいえ、NTTは株式を上場している民間会社である。NTTの社長は参考人として呼ぶが、同じ民間会社の東北新社の社長や菅首相の長男は呼ばない。
政府も自民党も「首相の長男を参考人として国会に呼ぶわけにはいかない」ということなのだろう。だが、菅首相は国会で長男の問題を追及されたとき、「もう40歳過ぎですよ。独立した存在です」と強調した。ならば、国会に招致してもいいのではなかろうか。
週刊文春は、官僚ばかりではない、政治家も接待漬けになっている、と報道している。これからも次々にスキャンダルが出そうだ。というのも、総務省は、財務省や経済産業省とは違い、内部は一枚岩ではないからだ。
戦前の逓信省の流れを汲む旧郵政省では、電話部門が電電公社(現NTT)に分離されたが、郵便部門と電話・電報・通信部門とは仲が悪かった。橋本龍太郎首相時代に省庁の数を20に減らす、と省庁を合併させたが、そのとき、各省庁をスリム化しなかった結果、厚生労働省や国土交通省といったマンモス官庁が生まれた。
旧郵政省と自治省を合併させた総務省も、そのマンモス官庁のひとつである。しかも、内部は仲の悪い郵政部門と通信部門に戦前の内務省の流れを汲む自治省の寄り合い所帯だ。ツテさえあれば、いくらでも内部告発のような情報が出てくるだろう。当分、接待スキャンダルは続きそうだ。