4月13日に大阪府の新規感染者は初めて1,000人を超え、東京都の感染者も510人と13日連続で前週の同じ曜日を上回った。東京都の場合、新規感染者における20~30代の割合は、12月の46%から2月に35%まで減ったが、3月37%、4月(12日まで)49%と再び増加傾向にある。


 それでは、若い世代が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延状況や情報に無頓着かというと、そんなことはなさそうだ。世界保健機関(WHO)が、メルボルン大学、Wunderman Thompson社、Pollfish社と共同で行った調査からは、誤情報やフェイクニュースを敏感に察知する姿が垣間見える。


■24か国、2万3千人超に調査


 WHOは、COVID-19のパンデミック宣言以来、大量の情報が氾濫するインフォデミックやフェイクニュースとの闘いにも注意を払ってきた。その一環として、「Z世代(Gen Z、ジェンジー)」と「ミレニアル世代(Millennials)」が「COVID-19の情報をどこで得ているか」「誤情報やフェイクニュースに気づいているか」「何を心配しているか」「どんな情報源を信頼しているか」を、主にスマホのアプリを通して調べることにした。明確な区分はないが、「Z世代」は10代半ば~20代半ば、「ミレニアル世代」は20代半ば~40才を指す。



 調査は2020年10月下旬~2021年1月初旬に行われた。対象は5大陸24か国の18~40才23,482人で各国1,000人程度。設問は26問で「情報源」「利用しているSNS」「SNSで好む話題」「情報源の信頼度」「COVID-19に関する心配事」「フェイクニュースへの気づき」「WHOの役割」に分類される。調査結果は、ダッシュボード形式で公開されており、国別、性別、①18~24才、②25~29才、③30~40才の年齢層別に結果を表示できる。


 日本の全回答者(995人)の男女比はほぼ半々だが、年齢層別の女性割合は①74%、②33%、③43%とばらつきがあり、結果が年齢層の差か男女差か明確に判断しにくい面はある。利用しているSNS及びメッセージアプリは、①②③ともLINEとYouTubeが1・2位を占め、順位に差はあるがTwitter・Instagram・TikTokが3~5位だった。


 SNS等のサービス開始年は、Facebook(2004)、YouTube(2005)、Twitter(2006)、Instagram(2010)、LINE(2011)、TikTok(2016)の順だ。現在の30才はTwitterが生まれた2006年に15才で、20代以下は子どもの頃からSNSがあった「ソーシャルネイティブ」。SNS上の情報を扱う能力は、中高年よりむしろ上かもしれない。


■誤情報と気づいても積極的には正さない


「SNSやメッセージアプリ上でCOVID-19の情報が誤っているかもしれないと、どの程度気づくか」という設問に対し、「ある程度気づく」「かなり気づく」と回答した人の合計は、世界全体では6割だったが、日本はどの年齢層も8割を超えていた。


「シェアする前に内容を確認するか」について、「殆どの場合、確認する」「必ず確認する」とした人の合計も、世界全体は4割だったのに対し、日本は6割以上だった。一方、「誤情報を一度でもシェアしたことがある」人は、日本の25~29才で5割超と、他の年齢層や世界全体に比べて多かった。



「SNSやメッセージアプリでシェアされた情報が誤りと気づいたとき、どうするか」について、調査担当者は結果発表のウェビナーで、「無視する」だけの行動を「無関心(apathy)に等しい」と指摘していた。日本の25~29才はその割合が4割と高かった。また、(誤りだと)「報告する」「コメントする」という積極的行動をとる割合は、日本のどの年齢層でも世界全体より少なかった。


 日本人は、誤情報と気づいても、自分のSNSコミュニティメンバーがシェアしていると、真っ向から否定したり修正したりしにくい傾向があるのかもしれない。


■著しく高い、差別への不安


「COVID-19に関わる心配事」について、日本の全回答者では「友人・家族の感染への危惧」「友人・家族を訪問することの制限」が4割超、「差別」「自分のメンタルヘルス」が3割を超えた。


 特に「差別(discrimination)」は、世界全体の11.7%に対し、日本は32.6%と3倍近くにのぼった。中でも、18~24才は36.0%と著しく高かった。


 一方、「経済的破綻」「自分のライフスタイルの大きな変化」「医療へのアクセス」「教育へのアクセス」は日本でも問題となっているものの、世界全体と比べると、心配事として挙げる割合が少なかった。



 日本では、法務省も人権の観点から「STOP!コロナ差別」を掲げて啓発に取り組んでいる。①近所編、②学校編、③職場編に分けた動画もあり、「あいつの家、コロナ出たらしいよ」「うわー、学校来てほしくないわ」、「あの子のママ、病院で働いているらしいよ」、「○○さん職場復帰したけど後遺症あるみたい。まだうつるかも」など、具体的な事例のイメージがわかる。


 感染者の多い若い年齢層にとっても「コロナになる」のは「普通のこと」ではない。また、本人の感染だけではなく、クラスターが発生した部活や学校への激しい非難、家族が医療現場で働いていることや家族内での感染者発生へのいわれなき汚名など、差別の内容は複雑だ。


■専門家より家族からの情報を信頼


 では、「Z世代」「ミレニアル世代」は、どのような情報源を信頼しているのか。


調査担当者は、世界全体の傾向として「COVID-19に関するニュースや情報を得るとき、まず頼りにする情報源」は「全国紙やテレビ、ラジオなど従来型メディアだった」と述べている。


日本人の回答では、従来型メディアに加え、「自国の政府」や「検索サイトで検索結果のトップに表示される情報」に対する信頼度も高かった。意外なことに「科学者や保健医療の専門家」は世界全体より低めだった。一方で、情報源として「家族」「友人」「自分のSNSコミュニティ」に対する信頼度は驚くほど高かった。



 この結果から、若い世代が少なくとも「全国紙やテレビ、ラジオなど従来型メディア」を見ており、SNSというタコツボ内の情報だけに頼っているわけではないことがわかった。一方、「日本の情報源は概ね信頼できる」のか「日本人は情報を批判的に吟味せず鵜呑みにしがち」なのかは、評価が難しい。


また、「科学者や保健医療の専門家」の情報に対する信頼度が低いのは、昨年来、玉石混交の“専門家”がマスメディアに登場した影響なのだろうか。「COVID-19に関してSNSでどういう話題をシェアしやすいか」尋ねた他の設問に対する日本人の回答は、「心配なこと(27.3%)」「感情的な反応を引き起こすこと(25.9%)」「自分にとって意味があること(22.7%)」が上位で、4番目がようやく「科学的なこと(21.0%)」だった。


 家族への信頼度の高さをみると、親世代が主な情報源(と思われる)従来型メディアと、そのメディアに適切な情報を提供する専門家が果たすべき役割も大きいと考えられる。


【リンク】いずれも2020年4月13日アクセス

◎WHO. “Social Media & COVID-19: A global study of digital crisis interaction among Gen Z and Millennials.”

https://www.who.int/news-room/feature-stories/detail/social-media-covid-19-a-global-study-of-digital-crisis-interaction-among-gen-z-and-millennials


◎WHO. “Social Media & COVID-19.”

https://www.covid19-infodemic.com/#the-dashboard


◎法務省.「ストップ!コロナ差別.」

http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken02_00022.html


[2021年4月13日現在の情報に基づき作成]

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。