「ノンアルコール飲料」の消費が増えているという。コロナ禍での在宅時間の増加や巣ごもり消費が背景といわれるが、それだけなのだろうか。
■アルコール濃度だけでは定義できない
酒税法で「酒類」は「アルコール分1度以上の飲料」と定義され、「発泡性酒類」「醸造酒類」「蒸留酒類」「混成酒類」に大別される。その「発泡性酒類」にはさらに、「ビール」、ビールと副原料が異なる「発泡酒」、麦・麦芽以外の穀物を原料とする「その他の発泡性酒類」(いわゆる「第三のビール」を含む)に分類される。
一方、「ノンアルコール飲料」(以下「ノンアル飲料」)について法律上の定義はないが、酒類業9団体がつくる「酒類の広告審査委員会」では「アルコール度数0.00%で、味わいが酒類に類似しており、満20歳以上の者の飲用を想定・推奨しているもの」と定義している。その上で広告については、酒類と誤認される表現を使わない、20歳未満の者にアピールする手法をとらないなどの自主基準を設けている。
実際の商品を見ると、主流の発泡性「ノンアル飲料」は「名称:炭酸飲料」と表示している。「炭酸飲料」は「清涼飲料水」の一種で、日本農林規格(JAS規格)では「飲用適の水に二酸化炭素を圧入したもの、または、これに甘味料、酸味料およびフレーバリング等を加えたもの」とされている。
「ノンアル飲料」はアルコール度数1%未満、モノとしては「清涼飲料水」の一種であるが、社会的な影響を考慮し「酒類」に準じた配慮が必要な飲み物といえそうだ。
注1)酒精(spirit of wine)=飲料に含まれるエタノール 度数=容量パーセント濃度
■「ノンアル飲料」のライバルは
2021 年3月末に、アサヒビールが「微アル」を前面に打ち出したアルコール度数0.5%の『ビアリー(BEERY)』を発売したことで、改めて「ながら飲み」「ちょっとした息抜き」「ほろよい」等をキーワードとした「低アル」にも注目が集まっている。
「低アルコール飲料」も法的な定義があるわけでなない。ただ、国税庁の『酒レポート』(後述)では、アルコール度数の高い蒸留酒に対し、10%未満のビール・発泡酒等を「低アルコール飲料」としている。酒税法上の「酒類」の中での相対的な「低アルコール飲料」と、1%未満のアルコールを含む一般的なイメージ通りの「低アル」は別物ということになる。
「酒類」を中心に、味の種類(ビールテイスト他)、アルコール度数(濃いめ・控えめ・ゼロ)、機能性(カロリー・糖質・プリン体の低減等)によって多様化した商品が、限られた売り場の争奪戦を繰り広げているのが現状だ。
■製造に必要な「引き算」「足し算」
「ノンアル飲料」市場の86%は「ビールテイスト飲料」が占める(『サントリー ノンアルコール飲料レポート2020』、出荷ケースベースの推計)。日本では、2000年代前半まで「ノンアルコールビール」の呼称や表示が一般的だったが、1%未満のアルコールを含む製品があるにもかかわらず「アルコールを全く含まない」との誤解を与えるという理由で、「ビールテイスト飲料」と呼ぶようになった。
キリンビールが、飲酒運転事故が社会問題化していた2007年に企画し、2009年に発売した『キリンフリー』は、「アルコール度数0.00%」飲料の先駆けとなった。皮肉なことに、「無アルコール」を達成した「ノンアル飲料」にも「醸造酒、蒸留酒等を飲んだときに感じる独特の香りや味(アルコール感)」が求められる宿命がある。そこで『キリンフリー』は、原材料となる非アルコール飲料に、辛味やえぐみを付与できる成分を添加してアルコール感を出したという。
改めて、「ビールテイスト飲料」の製造方法を調べると、基本はビールの醸造過程をベースにした「引き算」の技術のように思われる。さらに、アルコール感やビールらしさを感じさせるための成分添加など「足し算」の要素も工夫して商品化される。
「足し算」といえば、主な酒類メーカーは機能性成分を加えた「ノンアル飲料」も開発。それぞれ缶の表面で、「食後の血中中性脂肪の上昇をおだやかにする」「お腹まわりの脂肪を減らす」「脂肪の吸収を抑える/糖の吸収をおだやかにする」「内臓脂肪を減らす」「尿酸値を下げる」と謳っている。
背面には、特定保健用食品(トクホ)または機能性表示食品としての「(関与成分と機能の)届出表示」「摂取の方法」「摂取上の注意」「1日摂取量目安量」などが書かれているが、詳細を読む人は少ないだろう。
サッポロビールの『うまみ搾り』の「摂取上の注意」には「抗癌剤ドキソルビシン(アドリアマイシン)を投与中の方は医師にご相談ください。」とあり、少し驚いた。しかし、機能性表示食品に課せられた公開情報をチェックすると、「アンセリンとドキソルビシンの相互作用が指摘されている」ものの「ドキソルビシンの投与は入院患者を対象としており、併用される可能性は低い」が、「念のため、注意喚起することにより、機能性表示食品として問題ないものと判断された」ことがわかった。
注2)食品表示基準に基づき、100mL当たり「エネルギー5kcal未満」→「カロリー0」、「糖類0.5g未満」→「糖類0」と表示できる。
■パイの減少に付加価値と輸出で対応
国税庁は毎年3月に『酒のしおり』と称する一連の資料を公開している。内容は、酒類業界の状況・課題と国税庁の取り組みを総括した『酒レポート』と、各種統計で構成される。
最新の『酒レポート』によると、令和元(2019)年度における酒税は1.2兆円(国税収入の1.9%)。成人一人当たり酒類消費数量は平成4(1992)年、酒類の国内出荷数は平成11(1999)年度をピークに減少している。また、コロナ禍の1年で、家庭消費は前年同期を下回らなかったものの、飲食店消費は大きく落ち込んだ。
一方、令和2(2020)年における日本産酒類の輸出金額の概数は710億円(対前年7.5%増、以下全て対前年)で、9年連続で過去最高を更新した。品目別では、ウイスキー271億円(39.4%増)と清酒241億円(3.1%増)が双璧。輸出先は、中国の173億円(70.9%増)がトップ、次いで米国138億円(11.6%減)、香港100億円(59.5%増)の順だった。
こうした環境下で定めた「酒類行政の基本的方向性」では、「酒類業の振興」策として国内で「商品の差別化・高付加価値化」を進めるとともに、「海外市場の開発(輸出促進)」を行うことが掲げられている。
■20~30代で「ノンアル飲料」消費増
平成28(2016)年国民生活基礎調査で、成人のうち「飲酒習慣のある者(=週3日以上飲酒する者)」は、男性42.4%、女性15.0%だった。飲酒習慣者の割合は、男性は60代が最多(54.0%)、20代(14.5%)と30代(33.2%)は低い。女性は50代が最多(22.5%)で、20代(6.5%)と30代(14.7%)はやはり低い。
サントリーが東京・千葉・埼玉・神奈川の1都3県に住む20~69歳男女3万人を対象に行った『ノンアルコール飲料に関する消費者飲用実態・意識調査』(実施期間:2020年8月28日~9月2日、インターネット調査)によれば、「ノンアル飲料」を「飲んだことがある」人は55.3%だった。また、「ノンアルコールビールテイスト飲料」に限ると、「月1回以上飲用者」は回答者の4.1%だった。
「ノンアル飲料」を「飲んだことがある」人(n=16,586)に半年前と比較した「飲用量の変化」を尋ねたところ、「増えた」が14.4%で、特に20~30代は2割近かった。また、「増えた」人の飲用理由(複数回答)は「健康に気をつけたいから(37.5%)」が最多で、次いで「お酒を飲んだ雰囲気が味わえるから(28.7%)」「アルコール飲料と味が遜色ないから(28.6%)」「休肝日をつくりたいから(26.6%)」「車を運転したいから(24.5%)」「体の脂肪が気になるから(22.6%)」の順だった。
また、「ノンアルコールビールテイスト飲料」の「月1回以上飲用者」(n=1,238)に、その「飲用量の変化」を尋ねたところ、「増えた」が49.4%、20代に限ると7割、30代は6割とやはり全体より高かった。
同社はメーカー目線で「ノンアルコールビールテイスト飲料を選ぶ際に健康面を意識する人が増加。在宅時間の充実に役立つものとして、今後飲用量は拡大の見込み」とまとめている。ただ、飲酒習慣者割合が多い年代で「半年前と比べたノンアル飲料の飲用量変化」をみると、50代で「増えた」は10.9%、60代は11.3%で、20~30代の半分程度だった。
各社はさまざまな消費者層の特徴をどう捉えているのか。例えば、飲酒歴が長く「本物の酒」と比べがちな人には「気になる健康問題にプラスになる」機能性を訴える、20~30代にはお茶やコーヒーとは異なる「ノンアル飲料」がある生活場面の楽しさを訴える、などの戦略があるのかもしれない。
再び緊急事態宣言下となりそうな、今年のゴールデンウィーク。徒然なるままに「ノンアル飲料」の味比べをしながら、広告やCMを眺めてみるのも一興だ。
【リンク】いずれも2020年4月21日アクセス
◎サントリー.「ノンアルコール飲料に関する消費者飲用実態・意識調査 サントリー ノンアルコール飲料レポート2020(2020年10月6日)」
https://www.suntory.co.jp/news/article/13775.html
◎国税庁.「酒のしおり(令和3年3月)」
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2021/index.htm
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本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。