先日、ちょっとした用件で自民党幹部と会う機会があった。その際、雑談で安保法制の話になり、幹部は立場上、奥歯にものの挟まった言い方ではあったが、今回の法案の“辻褄の合わなさ”を、相当に苦々しく思っているようだった。
私は素朴な質問をした。「安全保障環境が変わったとか言っていますけど、結局、この法案は日米関係の話でしょう?」。幹部はあっさり、「その通りだ」と認めた。
要は、日本の防衛とは直接関係のないところで、米軍に軍事的な協力をする。そうしないと何らかの不利益が日本にある(もしくは、日本側がそう思っている)。そういう話である。中国の脅威云々の話は、個別的自衛権と日米同盟で対処する話で、法案とは関係ない。だが、もしかしたらアメリカから「法案を通してくれない場合には……」と脅しめいた圧力があるのかもしれない。
参議院の審議では、共産党が防衛省の内部文書を暴くなど奮闘しているが、結局のところ、法案の可決・否決の両パターンについて、それによる日米関係のメリット・デメリットを説明されなければ、判断の下しようがない。米軍との共同作戦が世界中に新たな敵をつくることも、デメリットには加わる。日中間の有事に関しては、そもそもアメリカが安保条約で対応する義務を負っていることも(建前かもしれないが)大前提である。
アメリカはそんな甘い国じゃない。こういう大変なことになる。そういうことがあるのなら、それをこそ表に出し、審議すべきである。深刻な状況なら、野党も国民も真剣に対策を考えるだろう。だが政府は、そういった外交上のドロドロした内実は、絶対に明かさない。「こんな事態が実際に起こるのか?」という奇天烈なシミュレーションのもとに、空疎な国会対応を続けるだけである。
何ともまぁ、情けない祖国であることよ、とため息の出る思いだが、今週の週刊誌はこれといった大ネタはない。で、前ふりの話と関連した記事では、アメリカ大統領選の共和党有力候補として浮上した“暴言王”ドナルド・トランプについて、現代とポスト、文春が取り上げている。
この人物、日本関係の発言もひどい。「アメリカのおかげで日本が生きていられることを、わからせる必要がある」(現代)、「大統領になったらこんな問題(対日貿易赤字)は15秒で解決できる。『お前らの車に莫大な輸入税を課してやるからな』と言えばいいだけだ」(同)「日本はアメリカが攻撃されても支援しなくてよい。これでよいと思うか」(文春)といった具合だ。
専門家の話では、この人物、現状では毒舌人気で支持率が高いが、さすがに大統領となる可能性は低いらしい。だが、日米安保での日本側の「ただ乗り論」はトランプばかりでなく、来年の大統領選に向けて他候補からも出てきそうだという。
外敵を作り、強い指導者を演じて人気を得ようとするリーダーがこのところ、世界各国に目立つ。これもまた情けない話だが、もしアメリカにその傾向が強まるなら、対米従属でかさんでゆく総合的コストと、“安保ただ乗り”の経済的メリットとを比較検討して、いつの日か、自主防衛への道をめざすことも視野に入れてゆくべきかもしれない。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。