5月9日(日)~5月23日(日) 両国国技館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)


 4年ぶりに大関に復帰した照ノ富士が連覇、来場所は綱取りをかける。朝乃山が終盤に途中休場したが、貴景勝が優勝決定戦まで持ち込む奮闘で場所を盛り上げた。カド番の大関・正代は相変わらずの宇宙人ぶりを発揮しながらも何とか勝ち越したが、若隆景(東前頭筆頭)や豊昇龍(東前頭5枚目)など若手の台頭が目立った。


厳格師匠、愛弟子を罰す

 初日から10連勝と独走していた照ノ富士は、後半は2勝3敗と予想外に苦戦した。波乱は11日目の妙義龍(西前頭4枚目)との一番。右下手を捻じ込まれた大関は、その腕を決めにかかり、得意の左上手で投げて転がした。まずまずの取り口だったがここで物言いが付く。投げを打った際に照ノ富士の右手が妙義龍の髷(まげ)をつかんでいることが判明。全勝街道を突っ走っていた大関には初の黒星となった。


<11日目 照ノ富士―妙義龍>


 このときの責任審判が皮肉にも師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)。これはまずいと直感した。近畿大学相撲部を退部し大学中退しながら角界入り。大関時代は4横綱の存在があって好成績ながら横綱昇進を何度も見送られた。引退後は辛口の解説で一部の好角家には支持されたが、その辛辣ぶりは際立った。2017年に起きた横綱日馬富士の不祥事の際には間髪を入れず引退の道を選ばせるなど、自分にも他人にも厳しい親方で知られている。身内の愛弟子だからこそ、寸分の疑念も黙認することはできなかった。反則で負け残りした大関はぶ然とした表情。明日以降に引きずるのではないかと懸念したが、翌日には払拭。しかし遠藤(西前頭8枚目)、貴景勝には上手く取られた。


情けなや、正代

 正代は今場所もだらしなかった。最たるものは3日目の大栄翔(西小結)戦。互いに突っ張り合い、土俵際までもつれて両者とも俵を前にして残り合い。1ミリでも残したい正代は、五条の大橋で弁慶と交えた牛若丸も真っ青の大跳躍。視線の先には、同じく先に落ちまいと股を広げて飛び上がる大栄翔。巨漢同士のジャンプ合戦は、今場所最高の滑稽な場面になった。


<3日目 正代―大栄翔>


 熱戦といえば聞こえはいいが、冷静に見れば無様な一番だった。どちらが先に落ちたかを心配する正代の視線が、この力士の軽薄ぶりを象徴していた。15日間の立ち合いで正代の両脚が前に出たのは数えるほど。蹲踞の後に形式的に手を付き、その場で相手を迎えていた。腰高で胸を出して反り返るので、相手は簡単にまわしを取って懐に入ってくることができる。それでも恵まれた体躯で跳ね返し大関の座を射止めたが、安住して上をめざす気概が露ほどにも感じられない。どこか怪我をしているのではとの同情論もあるが、それにしても情けない。


 厳罰が避けられない朝乃山は今年いっぱい土俵に上がることは不可能。こんな体たらくでは奮起を求める声もだんだん少なくなり、早晩人気に陰りが出るだろう。


卑怯だぞ、御嶽海


「格が違いますから」


 2場所前にこう話していた相手が若隆景。御嶽海(東小結)は東洋大相撲部の2年後輩に対して偉そうなことを言っていたが、今場所は立ち合いに変化。ひたひたと忍び寄る後輩の力に怯え、最悪の手を打った。館内が一瞬にして白ける。いつも応援団が大挙する人気力士。観客数は制限されているが、このときばかりは静まり返ったように感じた。


<9日目 御嶽海―若隆景>


 貴景勝、朝乃山、正代と先を越された大関が3人。優勝2度の実力者にもかかわらず、昇進を逃し続けている。序盤は快調でも中盤には中休みし、後半に巻き返してやっと2ケタ。その挽回が届かないときは9勝止まりと、ここ数年の成績とその取り組み過程は判で押したように同じで見なくてもわかる。今場所も後輩に卑怯な手で勝っていなければ9勝。逆に若隆景は10勝到達で3賞に花を添えるところだった。


伊之助、またも土俵に詰まるの図


 中日結びの大栄翔―照ノ富士戦。最後の2番を差配する式守伊之助の行司ぶりがこのところ目立つ。その動きの悪さに、である。この一戦、大関は危なげなく大栄翔を押し出したのだが、伊之助は大関が押し出す方向に向かって回り込むカンの悪さ。土俵伝いに体を入れ替えて懸命に残ろうとしている大栄翔の背中にピタリと這いつくばるように接近するものだから、最後はどこに我が身を置いていいのかわからなくなり、最後は足袋を履いた足を俵に乗せながら身をよじって勝負の瞬間を見ていた。


 無様な場面と言ったらない。NHKに「今日の伊之助」という特設コーナーでも設けてほしいくらいである。相撲よりも目立つ行司捌きは本末転倒。差し違えの経験もあるせいか、この人は勝負をより近距離で見届けようとする癖がついているのではないか。1分でも長いといわれる世界。決着は瞬時だ。見逃すまいとの気持ちは尊重するが、観察するには適切な距離感が必要である。いたずらに近寄ればいいというものではない。その辺の相撲勘、行司勘が足りない。


<8日目 照ノ富士―大栄翔>


 小言ついでに言うと、入場制限で桟敷席に余裕があることをいいことに、足を投げ出して見ているなどマナー違反の観客がいるのも腹が立つ。なかには目前の熱戦に目もくれずスマホをいじったり、電話をかけている不心得者がいる。テレビ桟敷は否が応にも目に入る。力士に失礼である。(三)