小さな頃からスマートフォンやゲーム、タブレットに触れるせいか、このところ「メガネをかけている子どもが増えたなぁ」と感じることが多くなった。そこで子どもの目の現状や原因、新しい治療法について詳しく知りたい、と手に取ったのが『子どもの目が危ない』である。
「増えている」という見立ては、違っているどころか、予想をはるかに超えていた。
近視の増加は日本に限った話ではないようで、2050年に世界で50億人(!)が近視になるという民間研究機関の試算をもとに、〈「公衆衛生上の危機」と警告〉を発したという。
日本の子どもの状況はさらに悪い。文部科学省の調査によれば、小学生で34.57%、中学生で57.47%、高校生では67.64%が視力1.0未満となっている。
近視は過去50年で急増した。その間、大きく変わったのは、スマホやタブレット、パソコンなどの普及である。これらデジタル機器の浸透により〈目とモノとの距離〉が近くなったことが、近視の増加に大きく影響しているという。
目とモノとの距離が近くなると、なぜ近視になるのか?
NHKが専門家らと行った調査によると、〈目の表面の角膜から網膜までの眼球の奥行き=眼軸長が異常に伸びている子どもが大勢いることが明らかになった〉という。本書に登場する小学4年生のケースでは、両目ともに眼軸長が25ミリで、成人の平均24ミリを超えていた。
近くを見て作業することが増えると、〈眼軸長を伸ばして、ボケを解消しようとする〉。成長期にこの働きが起こることで、どんどん眼軸長が伸びていくというわけだ。結果、近くが見えても遠くが見えない〈軸性近視〉が起こる。
以前から言われている「ブルーライトは目に悪い」説は、どうか?
2021年2月に発表された論文では、〈ブルーライトカットレンズをかけた人とかけていない人で、眼精疲労に差が見られなかった、と結論付けられた〉。
ただし、「ブルーライトが体内時計を狂わせる」などの問題は残る。就寝前にスマホやタブレットを使うのは避けたほうがよさそうだ。
■屋外活動が近視の進行を防ぐ
では、近視をどう防ぐのか?
実は、〈一度伸びてしまった眼軸は、さらに伸びることはあっても元に戻ることは決してない〉という。進行を抑えるのが、治療の基本になる。
本書では、点眼薬「低濃度アトロピン」、就寝中にコンタクトレンズをつけ近視の進行を抑制する「オルソケラトロジー」、直径1ミリほどのレンズを400個配置する「DIMS レンズ」など、最新の治療法などが紹介されている。ただ、保険適用外だったり、日本では入手できなかったりで、少しハードルが高い。今後の研究の進展や治験が待たれるところだ。
誰もが取り組める方法は、〈外に出る時間を増やす〉だろう。世界で唯一、近視の子どもの割合を減らすことに成功した台湾がとった施策がこれ。
オーストラリアの研究では、〈近業による近視進行のリスクを屋外活動でケアできる可能性がある〉ことが判明している(1日2時間程度、1000ルクス以上の光。曇りでも木陰でもOK)。
「子どもはいないから関係ない」「メガネやコンタクトで視力を保てばよい」と侮るなかれ。近視は子どもだけの問題ではない。
実は、眼軸長が伸びる軸性近視よって、緑内障や白内障など深刻な目の病気のリスクが高まるという。疫学研究の結果では、強度の近視だと、緑内障が3.3倍、白内障が5.5倍、網膜剥離が21.5倍となっている。視覚障害への不安から、うつ病や不安障害を発症する可能性も高くなるという。
コロナ禍で、リモート授業、リモートワークで「近業」の時間が増える傾向にある。早めの対策、早めの治療は選択肢を増やす。各種対策のエビデンスの有無や、最新の知見がコンパクトにまとめられた本書は、子や自分の「目の健康」を見直すうえで、有用な一冊だ。(鎌)
<書籍データ>
『子どもの目が危ない』
大石寛人、NHKスペシャル取材班著(NHK出版新書913円)