スケートボードの夕暮れ
撮影:lisegagne/GettyImages


 1都3県の人口は全国の3割。これまでの新型コロナ感染者累計に占める割合は4割。直近の新規感染者に対しては6割と、人口集中を言い訳にできない不名誉な数字を叩き出している首都圏。「オリンピックが始まってしまえば国民は…」と侮られるほど「すべて忘れている」わけではないが、選手は応援してしまう。なんともアンビバレントな毎日だ。


 連日のメダルラッシュだからなおさら。特に、大会2日目、3日目のスケートボードでは、瀬尻稜(せじり・りょう)さん(24才のプロスケートボーダー)のユルい解説と実況アナの掛け合いが話題になった。「鬼ヤバい」「ゴン攻め」など「すげぇ」に相当する表現が豊富。それでいて、若い選手への尊敬と愛情にあふれ、「今までスケボーって、少し不良イメージもあったと思うが10代の選手が頑張ったことでイメージが変わる」「スケボーしていない人とスケーターが共存していけたらいい」「みんなを認め合える環境ができたらいいっすよね」と語り、好感が持てた。


■8月予定の第2弾は「パーク」


 7月25~26日の種目は「ストリート」。街にあるような手すり・縁石・ベンチ・壁・坂などを模した直線的な「セクション(構造物、障害物)」を配したコースで行われた。基本技のひとつは、テコの原理で「デッキ(板)」の「テール(後ろ)」を叩いて、選手と板が一緒に空中に跳ぶ「オーリー」。生みの親であるAlan Gelfand(1963年生まれのニューヨーカー)が、フロリダに作った室内レクセンターの名前、HollywoodをもじったOlliewoodから“Ollie”と呼ばれていたからとか。これはちょっと想像がつかなかった。


 8月4~5日の種目は「パーク」。大きな皿や深いお椀(ボウル)を組み合わせたような、複雑な窪地状のコースで行う。ストリートのセクションが直線的であるのに対し、「アール(湾曲)」がついた曲線的な構造が特徴だ。垂直に近い窪地の上部に一気に向かい、空中に飛び出す「エアー系トリック(空中で行う技)」が見どころ。冬季にソチと平昌のスノーボード・ハーフパイプで銀メダルを獲得した平野歩夢選手が、今回代表となったのは、その空中感覚ゆえかもしれない。


「ストリート」も「パーク」も持ち時間は45秒。「トリック(技)」の順番は自由で、途中転倒しても時間内なら続けてよい。技の難易度・メイク(成功)率・スピード・オリジナリティ・完成度・全体の流れを審査員が総合判定し、採点する。


■シニカルな表現がちらほら

 

 競技解説ではさすがに出てこなかったが、スケートボーダー特有の言い回しを調べていたら、なかなか面白かった。例えば、次のコトバの意味が想像つくだろうか?


①インスタフェイマス(IG famous) ②ハイプ(Hype) ③レジェンド(Legend)

 

①インスタグラム上では有名だが、リアルスケートコミュニティでは尊敬を集めていない人。若者だからといってインスタ映えすればいいというものではないらしい。

②「誇大広告」の俗語。身の丈にあった生き方をしていないちょっぴり痛い人や、内容のない名声を求めて空回りしている人のことだそうだ。

③長年にわたりスケートコミュニティの発展とスケートボードの進化に貢献した人たち。「ただ年月を積み重ねた人」と同義ではないとか。


 スケートボード、ローラースケートなど「ウィール(車輪)」のついた道具を使うスポーツの世界組織はWorld Skateだ。堀米優斗選手は、World Championshipでも2018年(リオデジャネイロ)8位、2019年(サンパウロ)2位、2021年(ローマ)1位と実績を積み重ね、既に「レジェンド」と謳われている。彼らの世界では、スケートボードを心底楽しむ「リアルスケートボーダー」であることが、最も重要な価値観のようだ。


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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。