東京五輪開会式の演出チームで過去1年、繰り広げられてきた「内紛と混乱」の内幕を週刊文春がすっぱ抜いた。『計1199ページにすべての変遷が 台本11冊を入手 開会式“崩壊”全内幕』。元々の責任者だった演出家MIKIKO氏は、森喜朗・前組織委員長らがゴリ押しする出演者・演目の採用に消極的だったとされ、それが不興を買ったのか、昨年4月に彼女の演出案がほぼ完成した直後、組織委と強いつながりを持つ電通関係者によって追い落とされてしまった。


 このため、開会式案は改めて白紙の状態から練り直されるのだが、そのプロセスで後任の責任者となった電通OBは、タレントの渡辺直美さんにブタの扮装をさせる侮辱的な企画案を出し不興を買い、今年の春、「文春砲」にそのことを暴かれる。するとそれ以後は、電通関係者もチーム内で「一歩引く態勢」になり、プラン作成はどんどん混迷を深めていったという。


 正直、テレビで見た開会式当日のアトラクションはどうにも退屈で、3分の1も見ないうちに寝落ちしてしまった。文春記事に妙な納得感を覚えるのは、そんな皮膚感覚もあったからだ。記事には、闇に葬られた「幻のMIKIKO氏案」の詳細も説明されていて、素人目にも明らかに、彼女の当初案のほうが“カッコイイ”。大友克洋氏のマンガ『AKIRA』で主人公が乗る真っ赤なバイクが国立競技場に現れると、中央のドームが開き、ステージではPerfumeの歌と踊り、そして大規模なプロジェクトマッピングが披露される――。そんな幕開けで近未来の東京がさまざまな趣向で描かれてゆくのである。


 MIKIKO氏が排除されたあと、この企画案は切り刻まれ、小池百合子・都知事が推す「火消し」のパフォーマンスなど脈絡のない「政治案件」も押し込まれて、ストーリーはごちゃごちゃになってしまうのだ。7月になって作曲家の小山田圭吾氏や演出統括の小林賢太郎氏の過去が問題化、辞任・解任につながったことは、ご承知の通り。記事には、「復興五輪の強調」を拒んだり、Imagineの曲をゴリ押ししたりと、IOCがあれこれ演出内容に口出ししたことも書かれている。


 結局のところ、創造性の追求など二の次三の次。政治家やIOC、電通などさまざまな利害関係者の要望を斟酌しまくって、ああいったまとまりのない開会式になってしまったのだ。改めて大河『いだてん』に描かれた第1回東京五輪担当者らの気高さが思い出され、現在のこの国に切なさが湧く。


 東京のコロナ感染者数は7月末、ついに4000人を超えた。だが6日前、まだ1700人台だった時点に執筆され、29日に発売された週刊新潮の記事は『今度は「8月に都の新規感染者5000人超」だって 「8割“狼”おじさん」は怖がらせるのがお仕事』と、京大・西浦博教授や分科会の尾身茂会長の警告をあざ笑う内容になっている。


 第5波が来週から減り始める可能性もゼロとは言わないが、少なくとも7月31日の時点でそう感じている国民は多くないだろう。新潮は、年末から年始にかけての第3波に関しても「11月のうちにピークアウトした」という大はずれの“専門家コメント”を載せている。今回もまた、大はずれになってしまったら、いったいどんな釈明をするのだろう。今までのやり方から考えると、「死者・重傷者はまだ少なく、感染者数を騒いでも意味はない」などと論点をずらし、ごまかす公算が大。素直に「ごめんなさい」をするとは思えないが、イヤミたっぷりに人を嘲っておいてのすっとぼけは、相当にみっともない。そのことはネチネチと指摘していきたい。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。