新型コロナウイルス感染症の第5波が猛威を振るっている。ワクチン接種が功を奏したのか、感染者に占める高齢者の比率は下がっているが、それでも実数で見ると60代以上で、1日当たり100人を超えている日もある。


 感染者の急増で現在懸念されているのが、医療のひっ迫だ。第1波から1年以上が経過したにもかかわらず、なぜ感染者の増加に対応できないのか? その背景を探るために手に取ったのが『新たな医療危機を超えて』である。


 著者は医師でMBAホルダーの真野俊樹氏。感染症への対応の課題など、純粋な医療からのアプローチだけでなく、医療財政など経済、医療提供体制や病院経営などマネジメントの視点からも、日本の医療の課題を分析していくのが本書の特徴である。


 “未知の病気”という点も大きいが、欧州のようなロックダウンや日本の緊急事態宣言は経済にマイナスの影響を与える。新型コロナウイルス感染症が生活習慣病など従来の疾患と大きく違うのは、社会や〈経済にも大きな影響を及ぼす疾患〉という点だろう。


 そのため、〈コロナ対策を議論する分科会にも経済の専門家が参画することとなった〉。


 日本の場合、〈すべてを透明化しない文化〉、病院の医療体制の〈データの共有化の遅れ〉も見られた。本書では触れられていないが、日本がオリンピックの開催国であったという点も、“有事”の判断をより複雑にした。


 本書ではさまざまなテーマで海外との比較がなされているが、病院の開設主体に注目した。日本は「私」が68.5%と民間が中心だ。「公」が開設主体の欧州に比べてかなり高い比率である(米国は「私」中心だが、医療制度が大きく異なる)。


 民間病院は、〈コロナ感染者を受け入れるのは経営的に非常にリスクがあると言わざるをえないので、積極的に受け入れることが難しい〉。これが世界有数の病床数にもかかわらず、医療体制がひっ迫している大きな要因のひとつだろう(大きなリスクにもかかわらず、地域における役割を重視して、受け入れている民間病院もある)。


 一方で、〈行政型病院の方が、今回のコロナ禍で機能を発揮しやすかった、あるいは発揮した病院が多かった〉。


 かねて公立病院は医師不足で機能不全に陥っているところや、赤字経営も多く、経営の非効率が指摘されていた。厚生労働省は再編が必要な424の病院を名指しするなどして、改善を求めてきた。


 雇用調整助成金や感染拡大防止協力金ほか、コロナ禍でさまざまな補助金・助成金が配られている。財政状態の悪化は避けられず、今後も非効率な公立病院の無駄を削減する流れは止まることはないだろう。


 しかし、公立病院の再編論議に、「感染症対策」という新たな視点が入ってきたのも、また事実。〈今回のコロナ禍における感染症対策のように、公が役割を持たなければいけない部分が改めてクローズアップされた〉。


■オンライン診療恒久化で何が起こる?


 コロナ禍でやむを得ず始まったとはいえ、その利便性を患者が実感したのがオンライン診療だろう。渦中にある第5波でその威力が発揮される可能性は高い。


 今年6月の閣議決定により、オンライン診療は、コロナ後も恒久化される見通しだ。初診は「かかりつけ医」を原則とする模様だが、著者は〈距離の制限は通常つかない、すなわち遠距離からもアクセスが可能ということになる。すると逆に、ウィナーズテイクスオール、一人勝ちの構造が生まれやすい。つまり、有名な医師に患者が集中するということである〉とオンライン診療の本質を指摘する。


〈オンライン化についていけない高齢者の医療が手薄に〉なる懸念もあるため、サポート体制の構築は不可欠だが、着実に浸透していくはずだ。


 オンライン化についていけないと困るのは、医師も同じ。対応できない医師には厳しい時代になる。不人気のため〈患者が減少することで廃業する町の開業医〉も出てきそうだ。


 マクロの視点では、〈地域ごとに医療を完結させようとしてきた従来の行政の思惑と大きく異なっていく〉未来もありそうである。


 本書には欧州で起こった“命の選択”問題についても触れている。日本の第5波における感染者数の急増は、過去4回の波を大きく上回るハイペースだ。医療崩壊により対応する患者に優先順位をつける“命の選択”は患者やその家族だけでなく、医療従事者にとっても大きな負担となる。


 欧米や日本で感染が拡大しているデルタ株に続き、今度は南米で新たな変異ウイルス・ラムダ株が拡大を始めた。新型コロナウイルスとの闘いは長期戦の様相を帯びている。本書の指摘は、短期的なコロナ対応と同時進行で解決していく必要に迫られている。(鎌)


<書籍データ> 

新たな医療危機を超えて

真野俊樹著(日本評論社2090円)